085.『再生し忘れた死に方』


 午後六時――開始から通算四回目となる臨時放送を、佐倉小桃(女子六番)白百合美海(女子)は、アパートの、二階の一室で聞いていた。元々、集落を目指していた小桃たちだったが、あの一戦で進路が逸れ、旅館に一度立ち寄ったきりで、日が暮れたこともありアパートに落ち着くこととなった。辿り着くまでに何度か、銃声も聴いたし、爆発音のようなものも聴いた。新たな死者の名前が発表されるのは覚悟していたが、まさか、こんなに大勢とは思わなかった。
 女子は一人きりだった。野上雛子(女子十二番)――ツインテールが特徴的な、あの、ちょっと型崩れた感じの女の子。小桃は去年の文化祭を思い出す。去年の出し物は、極々ありふれた喫茶店だったのだが、女子は髪型を統一しようと言うことになり、ロングヘアの女子は全員ツインテールになった。ショートやセミロングの女子も、低い位置で二つに結わえた。少し、あの流行りのメイド喫茶≠意識して、リボンとか付けたりなんかしちゃって。それが大層気に入ったらしくて、以来雛子はいつもあの髪型だった。
 男子は――六人もいた。大食いで有名で、身体の大きかった関根春生(男子七番)。ライオンの鬣のような、明るい髪型が特徴的だった高津政秀(男子八番)。テレビゲームが得意な、物静かな感じの与町智治(男子二十一名)。そして、認めたくなかったが――目黒結翔(男子十八番)萠川聖(女子十八番)の襲撃から、身を粉にして小桃たちを守ってくれた男の子。生きていてほしかった。あの激しい銃撃戦から逃げおおせてほしいと、心から祈っていたのに。
 それに、千景勝平(男子九番)譲原鷹之(男子二十番)の名前も呼ばれた。一緒に読み上げられたと言うことは、勝平は、恋人の復讐を果たしたのだろうか。今も、譲原鷹之を殺したいと言って別れたあの勝平の決意は、気持ちは理解出来ても、正しいこととはやはり思えない。だが、そうだとしたら、未練なく逝けただろうか。静かに、深く深く傷付いていた勝平。せめて、魂だけは救われていてほしいと、願う。

 そして――この戦場で、勝平と結翔とはつい数時間前まで、一緒に行動していたのだ。決して、人の命に順位を付けているわけではない。けれど、思い入れは強い。また――会おうと約束したのに。
 美海が、大きな瞳を涙でいっぱいにしながら、掠れた声で「あたしたちは、無力だね」と呟いたのを合図に、小桃と美海は手を取り合って、ひとしきり泣いた。掌から伝わる美海の、人肌の温かさが、切なかった。胸が張り裂けそうなほどに、切なかった。





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