048.『守ってやれよ(1)』


 昔ながらの個人鞠とした農家に到着した小桃たち一行は、そこに隠れ潜んでいた目黒結翔(男子十八番)との合流を果たし、少し早めの昼食を取ったあと、ベアトリーチェの臨時放送を四人揃って聞いていた。第一回目の放送ではあまりの気分の悪さに眩暈すら覚えた小桃だったが、三回目ともなれば多少慣れてきたようで、ヒステリックなベアトリーチェの罵声もなんとかやり過ごすことが出来てしまった。
 畳の上で地図を広げていた小桃は、すぐそこで向かい合う勝平と結翔の二人を見やる。出会った当初は警戒心の強かった結翔と一発触発に成りかねない雰囲気にもなったのだが、美海が仲を取り持つと不思議なもので、美海の姿を認めた結翔が見る見る警戒心を解いて行き、今はこうして新たな仲間として加わることになった。ただ、ひとつ、問題も増えたのだが。
 結翔に、彼に支給された武器のベレッタM92に複列弾倉を装填する練習を促す勝平の脇には、日本刀が存在感を顕わにしていた。畳の上に置かれたそれは、良くも悪くも大東亜共和国の伝統を彷彿とさせるように、この古い家にはよく似合っていた。

「なあ、勝平」

 特徴的な明るい金髪の下で、結翔が伺うように勝平を見上げた。

「本当に、行くのかよ?」

「ああ、あいつだけは、許せねえからな」

 感情を押し殺したように無表情を装った姿は、小桃には、全力で泣いているように見えた。
 結翔との合流を果たして一通りの情報交換をしたあと、勝平はすぐに一人で譲原鷹之を探しに行くと言い始めた。復讐――と言うと聞こえは悪いが、つまりはそう言うことであった。美海は最初は少し反対したのだが、小桃は否定も肯定も出来なかった。自分が勝平の立場なら、恋人を殺害した相手を憎むのは当然でもあったからだ。放送で八木沼由絵の名前が呼ばれるのと一緒にえげつないベアトリーチェの暴言が聞こえて、その怒りだとか悲しみだとかやり切れなさだとかは、更に膨張したのだった。
 勝平の身を案じて涙目で反対していた美海を説得したのは、勝平自身でもあった。ただ一言、あいつを殺したいと、言っただけだった。絞り出すように吐き出したその言葉は、鋭利な刃物が勝平の胸を抉っているのだと、言葉を失うには十分過ぎるものであった。
 けれど唇を噛みしめた美海が涙を拭って、自分のチーフスペシャルを差し出したとき、勝平は首を横に振った。お前には生き延びてほしいから、と、傷付いた胸の内を隠して笑んでみせたのだ。結翔に出会わなければ、恋人の親友だった彼女を守るつもりだったとも言っていた。二人の信頼関係は、深いところに根付いているのだと思った。小桃にとっても、学校では不良っぽくて少し怖いイメージがあり関わりの薄かった勝平であったけど、深夜から行動を共にして、今まで見えなかった人柄を垣間見たことで、信頼が芽生えていた。
 小桃は、昨夜から徹夜で行動していた美海が無理矢理寝かされている襖の向こうを見やる。昼食と放送の時間に起きてきたのみで、あとは勝平に起きてくるなと説得されたことで、ずっと引きこもったままだった。でも、本当に眠れているのだろうか? 心配に思うが、横になっているだけでも体力は回復するだろうと自分に言い聞かせて、小桃は膝を抱えた。

 不意に勝平と結翔が、二人揃って立ち上がったので、小桃はそちらを見上げる。

「ちょっと出てくる。佐倉、白百合を頼んだぜ」

 二人の手には煙草が握られていた。頭の片隅で結翔も中学生なのに喫煙者だったのかと一人納得しつつ(なにしろあの金髪なので)、小桃は頷いて二人の背中を見送るのだった。





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