051.『やる気がないなら、逃げて(1)』


 林道を沿って、小桃たちは歩き進める。美海の精神状態が気になったが、今朝に比べてかなり持ち直したようだ。小桃は安堵しながら、やたらと明るく振る舞う結翔の前を歩く。

「なあ、佐倉」

 結翔が片手で口元を隠すようにして、小声で小桃に声を掛けてきた。小桃は小首を傾げて、無言で耳を貸す。

「思ったんだけどさ、白百合って、もしかして勝平のこと好き?」
「え? そりゃ、好きだと思うけど、友達として」

 まさか、美海の思い人の名前を言えるはずもない。どうにも勝平との関係が気になるようだが、美海は彼の恋人の友人だと言うのに、なにを勘ぐっているのだろう。
 伺うように小桃がその童顔を覗き込むと、誤魔化すように結翔は退いた。

「まあ、佐倉も白百合も、俺が守るから、安心しろよな!」

 そう言って、結翔はベレッタM92の銃口を上に向けて、頬の側で見せびらかすようにした。ドラマや映画の宣伝ポスターとかで、こんな構えを見た気がする。
 小桃はやや呆れながら結翔を見定めてから、前を歩く美海の背中に目を配った。しかし、視界のほとんどが美海のピンクブラウンの長髪で覆われていることに気づいて、小桃は、美海が立ち止まっていることを知った。後方に下がると、小桃の背中に結翔がぶつかる。

「いてっ、なんだよ?」
「白百合さん……?」

 雑草を踏み締める微かな音が届いた。硬直している美海の背中越しに、小桃は、スレンダーな長身を確認したのだった。

「マリアちゃん……」

 美海が掠れた声で呟く。萠川聖(女子十八番)シグ・ザウエルP226の銃口をこちらに定めながら、ゆっくりと、にじり寄っていた。





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