012.『殺らなきゃ殺られる(3)』


 組み敷いた腕の下で、野上雛子が苦しそうに呻く。

「痛い、痛い、やめて、離して!」
「そうはいかねえ、お前、自分がしたことわかってんのか?」
「違うの、違うの! ヒナ、ただ怖かっただけなの! だって、向こうで香草さんが、もう殺されてるんだもん! 本当よ! お願い離して!」
「なに……?」

 朔也は訝しげに眉を顰めて、桜並木の方を眺める。――確かに、黒い人影のようなものがその中央部に倒れている。

「あれが香草なのか?」
「そうよ! 香草さんだけじゃないの、金見くんも死んでた! ヒナ、怖くて、どうしていいのかわかんないよぉ」

 組み敷いた雛子が朔也の下で涙声で訴える。朔也は自分がとてつもなく悪いことをしてるような気になって、少し力を緩めた。

「怖いから、殺そうとしたのか?」
「……わかんない、頭の中真っ白になって、どうにかしなくちゃって、わかんない、自分がわかんない」

 混乱した口振りで雛子が啜り泣くのを眺め、朔也はゆっくりと息を吐いた。

「……もうしないか?」
「うん……」

 雛子が弱々しく頷くのを確認し、朔也はその身体を解放してやる。雛子は上半身を起こすと、自身の小刻みに震える身体を抱えるようにして泣きじゃくった。
 なんだか申し訳ないことをした気になりながら、肩に下がったデイパックを掛け直す。少し待ってろと声を掛けて、朔也は向こうで倒れた人影に駆け寄ろうとした。

 左腕に、ちりっとした熱い感覚が通り過ぎた。

 朔也の脇を、先程はやり過ごしたボウガンの矢が二の腕の肉を抉って落下していく。どろりと溢れ出す自身の生暖かい血液の感触を覚えて、朔也は駆け出した。一度も雛子を振り返ることなく、駆け出した。





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