023.『第一回目の放送(1)』
「今、なにか聞こえなかった?」
見ず知らずの人のお店に勝手に上がり込み、あまつさえ休憩所を占拠するのは初め居たたまれない気分にはなったものの、状況を思えばそんな良心の呵責さえ無視できてしまった。貴重な水分もある、食料もある、布団もある。一晩を過ごすには申し分ない場所であった。
心の中で謝罪しつつコンビニのおにぎりや茶をくすね、二人で遅い夕食を取る。教室や分校の外で四人ものクラスメイトが惨殺された現場を目撃した後ではあまり食欲も沸かなかったが、体力を温存するためにも無理しておにぎりは流し込んだ。
そんな折り、パパパパパ、と小気味良い音が遠くで聞こえた。小桃は生の銃声など教室で
「機関銃の音よ。でも音が軽い……サブマシンガンかしら」
呆気に取られる小桃に気付いて、美海は罰が悪そうにちろっと舌を出した。
「白百合さん、どうしてそんなことがわかるの?」
「ちょっとね……前に聞いたことがあるの。あまり気にしないでね」
律儀にも美海は、食後の片付けをするために動き出していた。小桃が手伝おうとする間もなく、あっという間に綺麗に片付いたテーブルの上に美海が支給武器の
そこまで考えて、小桃は脳裏に浮かんだある可能性に身震いをする。銃が乱射されたと言うことは、また誰かが?
「白百合さん、もしかして……」
「うん……。でもね、佐倉さん、今は身体を休めるのが大事よ。布団を敷くから、もう休んでね。見張りはあたしがするから」
「白百合さん……」
あんな惨状を目撃したと言うのに、美海は意外にも冷静だ。いつものように穏やかな口調で言う彼女に、違和感を覚えないわけではない。けれど小桃が困惑している分、敢えて美海はこんな風に冷静を装ってくれてるのではないかとも思うのだ。普段はお互い別のグループに所属しているため、あまり一緒に過ごしたことはないけれど、美海を疑うような気持ちを小桃はこれっぽっちも持ってはいなかった。美海が誰かを殺すと言うことは僅かほども想像できないし、なにより、もしもあの人のように――
小桃の支給武器は、なんの冗談だかよくわからないが、
布団を敷き終わった美海が、腕時計をチラッと確認して、小桃を見る。
「佐倉さん、休むのもう少し待ってね。放送が始まるわ」
息を飲む小桃の隣に身を寄せて、美海が腕時計を見せてくれる。懐中電灯の薄明かりに浮かび上がる針は、今まさに、正午を回ろうとしていた。
美海が部屋の窓を静かに開ける。その瞬間にプツンとノイズの混じったマイク音が部屋の中へ流れて来た。ついでに、あの小生意気なキンキン声も。
「『あー、テステステス、うんうん、中々に高性能であるなあ。聞こえるか愚鈍共! 麗しの大魔女、ベアトリーチェであるぞー? きひひひひひひ、第一の放送の時間だ、耳の穴かっぽじって聞くが良い! ひゃっはっはっはっは!』」