022.『その美しさまで(3)』


 ちっと、菫谷昴は綺麗に整った顔を歪めて、憎々しげに舌打ちをする。今し方殺害した渡辺彩音の血痕が、せっかくありつけた寝床に飛び散ってしまったからだ。あろうことか、昴の私物のバッグまで返り血で汚されている。最悪だ、このクソ女が。

「最後に甘い夢見させてやったんだから、感謝しろよな、クソ女」

 汚れた私物のバッグをすっかり生気を無くした彩音の顔面めがけて殴打し、昴は放られた彩音のデイパックから必要なものを手早く自らのそれに移動させ、Vz.61スコーピオンを肩に下げる。
 こちらは空気のように無視してるにも拘わらず、昴、昴、昴って日頃から気安く絡んで来やがって、まるで蝿のように鬱陶しい女だと思っていたが、こうして役に立つこともある。昴の支給武器はワイヤーだった。初めから首を絞めて殺してやろうと近付いたのだが、彩音が思いの外とんでもない武器を持っていたので心の底から湧き上がってくる微笑みを止められなかった。――ああやって微笑んでやったのも初めてのことなのだ、この尻軽女には本望だったことだろう。
 さて、と膝を払って昴は立ち上がる。小さい公園だが他にも様々な遊具が揃っていたので、そのどれかで夜を過ごそうと踵を返す。
 自分が殺害した少女が近くに寝転んでいるだとか、銃声を聞きつけた生徒が来るかも知れないだとか、そんなことは昴にはどうでも良いことであった。むしろ休んでいる間に獲物が自ら引っ掛かってくれるのなら、それに越したことはない。まあ、狩る楽しみは減ってしまうのだが。

 こうして、三年B組で最も危険な男、菫谷昴は、最も危険な武器を手に入れたのだった。





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