029.『彼らを殺したのは(1)』
ことことと、沸騰したヤカンのお湯を台所にあった大きめのボウルに注ぎ込む。ガスコンロがあって本当に助かった。飲料用のミネナルウォーターを使うのは大分忍びない気持ちもあったが、なんとなく疼く身体を思うと我慢できてしまった。
洗顔が終わると一度お湯を捨て、ヤカンの残り湯を注ぎ、今度はそこにハンドタオルを入れるといそいそと制服を脱ぎ捨てて行く。この際と思い、下着も取っ払う。全裸の姿になると美海は水分を絞ったタオルで身体中を清め始めた。首、肩、背中、と、上から徐々に下へ、何度かタオルを濯ぎながら丁寧に滑らせて行く。物心付いてから風呂をサボったことがない美海は、この程度では到底満足できない処置ではあったので、幾分さっぱりはしたものの、あぁあと、心で溜め息を吐いてしまう。本来ならきっちりと湯船に浸かって、頭を洗って、と、とっくにしているのになと思いながら。
割と時間が経っていたらしい。十月下旬の空気の中、全裸でいたのですっかり身体が冷えていた。美海はボウルの中でパシャパシャと爪先を急いで洗う。
ガチャ、と音が聞こえた。美海たちが侵入した裏手のドアは当然鍵が壊れているのでそのままになっている。そこから、誰かの足音が、ゆっくりと探るように侵入して来る。
美海は当然のように焦燥に駆られて爪先を引っこ抜いた。夜もすっかり更けていると言うのに、何故、よりにもよってこのタイミングで――美海は急いで真新しい下着を穿くと、綺麗に畳められた白いワイシャツを素肌の上に羽織る。焦っているのでブラジャーは装着しなかった。近場にあったチーフスペシャルを手に取り、自分自身の足音を消しながら、
午前も二時を回るか、と言う頃。友人たちの死を立て続けに目撃して疲れていたのだろう小桃は美海がいることに安心してくれたようで、ぐっすりと夢の中を漂っている。
美海はできるだけ驚かせないように、しかしやや荒っぽく、その肩を揺さぶった。
「小桃ちゃん、小桃ちゃん起きて、誰か入ってきたわ……」