066.『透明な罪にしなだれて(1)』


 榎本留姫(女子三番)は、真新しい血液を垂れ流して絶命する、二人の元<Nラスメイトを見下した。ほとんど全身に手榴弾の破片を浴びた野上雛子は、俯せに倒れ込んでいたが、足の位置があらぬ方へとねじ曲がっている。首や頭部からも血を流す様子からして、ほとんど即死だっただろうと伺えた。
 もう一人の高津政秀は、どんな状況だったか知らないが、右腕が千切れて離れた場所に転がっている。こちらは身体の右側を中心に被弾したようだが即死ではなかったので、もがき苦しんでいるところを頭部に、トカレフTT−33の銃弾を二度受けて、ようやく絶命した。
 二人が争っていた芝生を見渡す。政秀のすぐ近くにはゴルフクラブとボウガンが転がっていたが、芝生には他にめぼしいものもなく、どうも二人の武器はこれだったようだと思い直して、残念そうに溜息を吐いた。こんなもの、いらない。
 留姫は踵を返すと、敷地を抜けて、細い道路へ身を晒した。

 デイパックを肩に掛け直しながら、留姫はその脇にぶら下がったポーチをちらりと盗み見る。残りの手榴弾は、四つ。どうせなら五人くらいの集団を見つけて投げ込んで使いたかったのだが、プログラムと言う生き残りを賭けた戦いの最中、そこまでおめでたい生徒はさすがにいないらしい。
 あまり無駄遣いはしたくなかったが――と思いながら、留姫は手榴弾をポーチから一つ取り出す。

 ピンを抜いて、衝撃を加えて、いち、に、さん――留姫は道路の境、茂みの向こう側に向かって再び手榴弾を放り投げた。





【残り:29名】

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