091.『知っていますか、お星様(6)』


 男子生徒がすでに半数に減ってしまったことに比べると、女子はほとんどの生徒が生存していた。一時間前の放送から変動がなければの話だが、ざっと十六名。内二人――榎本留姫と萠川聖に関しては、先ほどの情報交換で信用出来ない≠ニ言うのは、ほぼ決定済みである。榎本留姫などは以ての外であるし、萠川聖も女子である果帆が信用に足らないと判断しているほどなのだ。
 それに伴いまず名前が挙がったのは、鈴茂まなみ(女子八番)であった。萠川聖と親しくしている、同じように砕けた感じの派手な少女。お洒落が好きでしょっちゅう髪型を変えるほど女子力が高いが、厚化粧で素顔がわからないと、宍銀中三年B組の男子にはどちらかと言えば不評であった。それもあるのか、彼女に対しては否定的な見方が強いようだったが、一番の原因は、乃木坂朔也や羽村唯央(女子十三番)を襲い、桧山洋祐の命を奪っただろう野上雛子とも、親しかったからだろう。更に言えば同じグループの渡辺彩音(女子二十二番)(菫谷昴のおっかけだったあの少女)が、不平不満ばかり口にするとしてクラスメイトに不評だったことも一因である。雛子と彩音はすでにこの世を去ってしまったが――どちらにせよ、女子不良グループとも呼ばれていたこの面々は、元々敬遠され気味であった。
 同じように敬遠されていると言う意味で、水鳥紗枝子(女子十六番)にも否定的な意見が目立った。もっとも彼女の場合は、今年に編入してから今日までずっと、クラスメイトを敬遠する側の立場であったのだが。つまり、彼女にしたってこちらは信用するに足らないと言うことだ。話し合った結果、もしも遭遇することがあったならば、如月仁や菫谷昴と同じように慎重に検討しようと言うことになった。
 次に名前が挙がったのは、榎本留姫と比較的親しくしている(保健室通いが目立つため、おおよそのクラスメイトはここの面々を保健室組≠ニまとめるのだが)朝比奈深雪(女子一番)であった。

「これは是非とも果帆の意見を参考にしたいんだが」
「さあな。あたしも仲良いとは言えないから」

 どっちかと言うと、あたしも敬遠されてんだよ、女子には――と自嘲気味に首を振り、次の瞬間には爽快に笑みながら付け加えた。

「もちろん美海は特別だけどな」
「うん、白百合さんは信用してるよ」
「美海ちゃん疑う奴は極度の人間不審だと思うわー」

 学年一の美少女と評判の白百合美海(女子七番)は、クラス内でも一目置かれマドンナ的扱いを受けているのだが――先ほどとは打って変わって、当然の如く言い放つ冬司と圭吾に、空太は呆れ口調を取り繕い、やれやれと溜息を吐いた。

「お前ら白百合好きだよねえ」
「そりゃそうでしょ、なんてったって可愛いし」
「可愛いよなー」
「ねー」

 夏季、圭吾、冬司と順にデレデレと鼻の下を延ばすのをじっとりと見やって果帆は、まったく男子は単細胞だよな、とばかりに唇の片方を引き吊る。鼻で笑ってしまったのは別に内緒ではない。

「アキラと間宮の周りは、みんな信用出来るって思ってるよ。小日向と和歌野も、もちろん」
「おう」

 宝塚コンビの和歌野岬と小日向花菜(女子五番)は、若干変わり者ではあるかも知れないが、果帆が信頼を置いていると言うその一点で、空太は全面的に肯定であった。嬉々とした表情で果帆は空太に、にやりと微笑み掛け、語り出した。

「多分だけど、サキと花菜は一緒にいると思うんだ。花菜がサキを逃すとは、とても思えない」

 そして、果帆は圭吾を伺うように真っ直ぐ見上げた。

「竜崎は、サキのすぐ後ろだったよな? 見掛けなかったかな、分校で二人を」
「いや、悪い、見てねーわ」
「そっか……」

 残念そうに目を一度伏せると、果帆の長い睫毛がランプの光で、瞼の上に影を落とした。

「でも、いるよ、いるはずなんだ、花菜がサキをほっとけるわけがない」
「それに関しては、俺も同感」

 頷き、晶は再び真新しい煙草を取り出すと(何本目だ、中学生のくせに)、ボックスの袋を破りながら深刻な表情で続けた。

「サキちゃんって、結構身体弱いよな? 彼女のことになると目の色変える花菜が、こんな状況で、ほっとけるわけもないよな」
「うん、そう、サキはストレスにすごく弱い。教室を出る時に少し様子を見たけど、青ざめて、腹を押さえてた。また胃に来たんだ……心配だよ」

 カチッと音がして、晶の唇の先から細長い煙が空気中に白く溶けていく。
 確かに和歌野岬と言う少女は、体育の授業なんかでは見学をしていることが多かった。皆と並んでボールを追っ掛けたりグラウンドを走ったりする彼女より、木陰で体育座りをしながら大人しくこちらを見守る彼女の方が、すんなりと思い起こせるほどだ。授業中も度々席を空けることがあり、そんなときは休憩時間に入ると、いつも小日向花菜に連れ添われてとぼとぼと戻ってくるのだった。

「そっか……体調、よくなってるといいな」

 夏季の言葉に、果帆は思い詰めたように頷いた。

「あの子に関しては実際、不安要素が結構多いな……」

 煙の先をぼんやりと眺めていた晶は、そう呟くと、フィルターを親指で弾き再び口元へ近付ける。整った薄い唇で煙草を咥えたまま、器用に喋り始めた。

「朝比奈の話が途中だったな。果帆、この際だからはっきり聞くけど――朝比奈と、それから武藤ね、すげえ仲悪いよな、サキちゃんと」
「ああ、……うん」

 やや吃った様子で、果帆は下顎を引いた。
 不謹慎にも好奇心をそそられた空太と夏季が、「え、そうなの?」「なんで?」と口を揃えると、圭吾が大袈裟な素振りで手を払うようにし、「やめろよ、女子のイザコザってすげえおっかねーよ」と苦笑を浮かべる。

「サキの名誉のために言うけど、武藤との件に関しては、明らかにあっちが悪いんだからな」
 む、と唇を結び、果帆は眉間に皺を寄せながら腕を組んだ。
「堅物過ぎるんだ、武藤は」

「どうしたの?」

「花菜が、ほら」言い難そうに、目を逸らした。
「スカート穿かないのは、おかしいってさ、やたら突っかかって来たことがあるんだよ」

 不愉快な感情を隠しもせずに言う果帆に、なるほどな、と空太は一人ごちた。小日向花菜は女生徒だが、男子用の制服ズボンを愛用するなど(どのように入手したのかも疑問なのだが)いささか変わった面があった。高身長で中性的な顔立ちの花菜は宝塚の男役と言われるだけあって、その姿はとてもよく似合っていたのだが――なるほど、絵に描いたような優等生で口うるさいあの武藤灯里(女子十七番)のことだから、一度くらい口を出していても不思議はない。
 果帆は口を尖らせ、綺麗な顔立ちを不機嫌に歪めた。

「教師だって黙認してるのに、なんで武藤が口を出すんだ」

「……まあ、でしゃばりとは思うけど。でも仕方ないんじゃね? 武藤の言ってることのが正しい気が」

 苦笑いを浮かべ、意見をありのまま空太が伝えると、冬司と圭吾がそれに続く。

「武藤さんは、誰にでもそうだよね。目黒くんもよく言われてたよ、風紀が乱れるだのなんだのって」
「風紀委員でもないくせにな。それで最終的に惣子朗の管理責任にまで話が飛んじまうんだから、ほんと面倒臭え女だとは思った」
 そして不本意そうに、「間違ったことは言ってないんだけどな」と濁すように言った。

「……そうだな」
「で、なにがあったんだ?」
 面白くなさそうに渋々と頷く果帆に、晶が端的に先を促した。
「果帆も相当ご立腹みたいだし、それだけじゃなかったんだろ?」



「……下品って、言ったんだよ、あいつ」

 吐き捨てるような物言いで、心底不快そうに果帆は顎を持ち上げ、天井を仰いだ。

「宝塚コンビだかなんだか知らないけど、女同士でべたべたして下品だって、同性愛者みたいでおかしいってさ」

 そして、物悲しげにほうと息を吐いた。

「花菜はずっと困ったみたいに笑ってたけど、そう言われて――すごい、傷付いた顔してさ。その顔見て、サキがキレて武藤をひっぱたいた」
「……ひっぱたいたの?」

 あの淑やかな、お嬢様のような和歌野岬が――それは意外とばかりに目を丸くする夏季に、空太も同感であった。

「そんなこと言ったの、武藤さん」

 冬司はと言うと、岬の行動よりも武藤灯里の無礼な物言いの方が驚きが大きかったようだ。「そりゃ、怒るわな」と、圭吾もそれに頷く。空太としては、手を出してしまったのなら制裁は済んだと言うか、正当性が失われたも同然と言うか、もはや責める道理もないと思うのだが。

「それ以来サキと武藤の仲は最悪。何故か泉沢がさ、その後すごい平謝りしてたけど、肝心の本人は一言も謝罪もフォローもなしだよ。ま、花菜は案外けろっとしてたけどな、無理してたのかも知れない。未だにスカートなんか履こうとしないし、よっぽど嫌なんだろうな……」
「なんでスカートがそこまで嫌なんだ?」
「まあ、小日向さんは今の姿が一番似合ってるとは思うけどね」
「……正直、手上げちゃったならどっちもどっちだと思うよ」
「やめろよ」

 空太が口を挟むと、晶にやんわりと窘められる。

「それで? 朝比奈と上手く行ってないのは?」

 問われて果帆は首を捻ると、うーんとうねり、人差し指を顎に当てがった。

「それは、あたしもよくわかんないんだけど……前はさ、むしろ仲良かったと思ったんだよ、それが今じゃ絶対に目も合わせない」

 女子の人間関係に関心があったわけでもなく、とんと記憶に残っていない空太は小首を傾げた。

「仲良かったっけ?」
「四六時中一緒にいるような関係じゃなかったけどさ、でも、よく楽しそうに話してたんだよ。なにがあったんだろうな」
「結構昔だよな、それって。俺の記憶では、元々保健室ばっかり行ってたのは榎本だけだと思ったんだよ。朝比奈はむしろ、サキちゃんと花菜と、三人で一緒にいることが多かった」
「ああ、元々は、そうだな。あたしらもあの頃から仲良かったけど、美海と由絵と、こっちも三人だったし。今ほどサキたちとは一緒にいなかった」

 果帆は晶をちらりと盗み見、一同に目配せしながら軽く指を指した。

「今は美海が、こいつらと仲良かったのもあって八人グループみたいになってるけど、元々はみんなバラバラだったよ」

「そうだねえ、いつの間にかこーゆー形になってたよなあ」
 すっかり短くなった煙草を灰皿に押し当て、「まあ、いい」と呟くと、晶はテーブルの上で両手の指を絡め、どっしりと前屈みに姿勢を乗り出した。
「要するにサキちゃんと花菜を歓迎するなら、朝比奈や武藤は御免、ってことだな」

「まあ……この一大事にイザコザ起こされちゃ、堪らないしなあ」
「男からしたら朝比奈と武藤は、生意気でちょっと面倒だしな。あの二人、男嫌いだろ? 一人で怖がってるなら可哀想だけど、正直、仲間にしても上手くやってける自信がないわ」

 朝比奈深雪はともかくとして、武藤灯里の男嫌いは有名な話である。潔癖と言うか、偏屈と言うか――はっきりと拒否の意を表す夏季と圭吾は、至極当然なのかも知れない。

「それもそうだし、サキが奴らと遭遇したらと思うと、――ぞっとするよ。不信感はお互い強いだろうし、なにが引き金になるか」

 俯く果帆を見つめ、空太は力強く頷いた。

「早く見つけなきゃね、確かにそれは心配だよ」
「でもさ、武藤は弾くとしても、それだと委員長たちはどうすんだよ? もし一緒にいたりしたら」
「うーん、武藤一人のせいで、委員長たちまでどうのってのは、違う気がするよ。ね、間宮」
「ああ、泉沢とか、田無とか、この辺りは平気だろ」

 武藤灯里を省いた、所謂女子主流派の面々――女子学級委員長の泉沢千恵梨(女子二番)を筆頭とした、極々ノーマルな、プレーンな印象の女の子たちである。特にリーダー格の泉沢千恵梨に関しては、気さくでさっぱりとした性格が好印象で、着飾らず有り体でナチュラルな様がむしろ華やかだったりとカリスマ性溢れる少女であった。あれほどの人数が揃ったグループを普段束ねているのだから、その統率力は目を張るものがあったし、人格者でなければ勤まらないだろう。そしてその千恵梨の大親友を公言する田無紘那(女子九番)は、その大柄な体型もさることながら、大らかでのんびりとした少女であった。かと思えば、メンバーの出過ぎた行動をそれとなく諭したりと細やかな気配りが出来る性格であり、さながら千恵梨の補佐役と言ったところで、実質サブ・リーダー的な存在であった。
 クラス内でも信頼度の高い千恵梨や紘那が束ねるグループなのだ、他の面々も十分に信用に値するだろう。唯一、武藤灯里は例外的な扱いになってしまうが、それにしたって彼女自身が殺人鬼と化すと疑っているわけではなく、あくまでここにいるメンバーにとっては小日向花菜と和歌野岬の優先度の方が高いと言うだけの話なのである。

 ――と、思ったのだが。

「……俺はね、ここ、ちょっと苦手なんだよねえ」

 晶は遠い目をしながら、またしても煙草をふかしていた。思わぬ晶の言葉に夏季がきょとんとなりながら、ん?、と唸った。

「なんで?」
「んー、俺に対しての警戒心が半端なくない? 具体的にどの辺りが言ってるのか知らないけど」

 やや投げやりな口調であった。諦めの表情で口角を持ち上げ、はは、と低い声で笑う。いやいや、だからそれは、武藤灯里のことではないのか、と空太は釣られるように苦笑した。

「女好きだとかチャラ男だとか? 事実じゃん」
「ははは、あー、確かにな、されてるされてる」

 容赦のない果帆と圭吾であった。晶は観念の臍を固めたような顔付きだったが、その心情は限りなく開き直りに近いものがあっただろう。

「どうとでも。けどねえ、気まずくなるのわかりきってるのにクラスの女子にまで手は出しませんよ? だからね、多分あちらさんが、俺がいると嫌がると思うのよ。信用出来るかどうかは別にして」
「向こうがアキラを信用しないってことなら、あたしと――こいつが、なんとかするよ」

 そう言って果帆は、空太の背中を後押しするように掌で弾いた。

「え、俺?」
「あたし一人じゃ信用されねーもん」

 哀しいことを随分と呆気なく言うものだ。つんとそっぽを向く果帆を困ったように眺める空太には、晶が眉間に僅かに力を入れたことには気付かなかった。

「あー、えっとだな、俺が言いたいのは」

「ごめん、俺の意見言うね」
 なにか言い掛けた晶を遮り、様子を伺っていた冬司が声を上げる。
「武藤さん以外は信用してもいいって、決め付けるのもどうかなって思うんだ」

 そして冬司は、気分を落ち着けるように小さく吐息を吐いた。一同が冬司の話に耳を傾ける中、ややして、彼はその流れるような優しい口調にいささか緊張を宿して続けた。

「和歌野さんと朝比奈さんの話で思い出したんだけど、――佐倉さんと都丸さんも、昔仲良かったよね」
「そうだっけ?」
「ああ、確かに、そうだったよ」

 小首を傾げる圭吾を遮り、果帆が同意する。

「去年の、今頃くらいは、二人でよく一緒にいた」
「それがどうして、今は別々になっちゃったの? 話してるところすら見掛けないよ。それどころか、お互いに避け合ってるよね」

 やれやれと、晶は大袈裟に肩を竦めた。

「あの二人に関しては、俺らがここで考えても到底理解出来ないと思うぜ。女心は複雑なんだ、な、果帆」
「は? まあ、そうなんじゃない、なにがあったのかは知らないけど」
「え、ちょっと待って、どう言うこと?」

 思わぬ人の名前が出たことで、空太は眉を持ち上げながら聞いた。――佐倉小桃(女子六番)は、なんとなく周りにはひた隠しにしているが、空太の絶賛片思い中の相手である。なにやら不穏さを感じる話題に訝しむ空太には答えず、冬司は続けた。

「原因はなんとなくわかるよ、二人とも結構露骨だったもん。たださ、それで不仲になっちゃうなんて、俺は信じられなくて。結局、譲り合いだとか、思い遣りだとか、我慢だとかが出来ない人なんだって思っちゃったんだよね。なのに、今信用してもいいのかな?」
「え、話が全然見えない。小田切は佐倉が信用出来ないってこと? なんでだよ、いい子じゃん」

 明らかに慌てふためいた様子で切り出す空太の動きを、一同は不可思議なものを見るみたいな瞳で追っていたが、対峙する冬司は穏やかな口調を崩さないまま、しかし張り詰めた表情をしていた。

「いい子だよ、普通に。でも、都丸さんは可哀想だったよ」

 空太は瞳を瞬かせる。確かに、確かに記憶を探ってみると――朧気だが、佐倉小桃は都丸八重(女子十番)とは、確かに親しい真柄だったように思う。はっきり思い起こせないのは、当時は彼女にそれほどの興味を抱いていなかったからだろうか。だが冬司や晶は、その原因まで見当が付いているようだ。なにかと小桃を目で追いかけていたのは自分だったのに、何故、自分には理解が出来ないのだろうか。

「えっと、どう言うこと?」
「小田切の言いたいことはわかったけど、それ言ったら委員長だって信用出来ねえよ、佐倉より露骨だし」

 驚いたことに、夏季にも話の筋は見えているようだ。彼も自分と同じで、女子の交友関係には疎いと思っていたのだが。

「おいおい、泉沢まで疑いだしたらあそこは全滅だろ」
「ああ、だから、気にしなくていいんじゃねってこと」
「泉沢さんはね、とりあえずは誰も裏切ってないから」

 やはり頭部の後ろで腕を組んだまま圭吾が笑い、夏季がそれに口軽に答える。そして、その二人のやりとりを冬司の冷静な言葉が締めくくった。
 相変わらず目をぱちくりとさせていた空太は、そのやりとりに呆気に取られていたが、ふと胸の中がざわつくのを覚え――空太の中にあった美しい映像にノイズが混ざったような、薄気味悪さを覚え、それを振り切るようになるべく冷静に言葉を紡ぐ。

「ちょっと待って。俺は佐倉は信用出来るって思ってるよ、だいたい、お前らがなにを言ってるのかさっぱり――」
「どの道、注意することに超したことはないな。ただね、俺は佐倉は大丈夫だと思うぜ、しっかりしてるだろ、あの子」

 空太の話を遮り、晶は不適に笑んだ。すると、冬司はいつもの彼らしく柔らかく口角を上げ、しかし力の籠もった瞳で真っ直ぐと顔を上げた。

「うん、可能性の話だから。気は抜かないでおこうってこと」



 押し黙った空太を宥めるように、果帆がその肩に優しく触れて来る。空太は我に返り、ぎりぎりと奥歯を噛んだ後、脱力した。はあ、と落胆とも諦めとも付かない溜息を零し、観念して頷いた。

「……わかったよ、見つけたらちゃんと話す。それで、自分で判断する」

 俯いた空太には、自分に静かに向けられる哀愁にも似た、焦がれるような眼差しに、気付く余裕はなかったのだった。





【残り:27名】

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