063.『一緒に死のうよ(1)』
本堂空太と間宮果帆の二人が僅かな希望と決意を再確認する最中、同じ集落の一角、民家の庭では、絶望の淵に追い詰められる生徒がいた。
がっくりと膝を付いてうなだれるのは、
うなだれる雛子の頭上の方に光る細長い銀色のものは、
「お前みたいなクズと一緒にいれるわけねえだろ!」
その言葉に、呆然とうなだれていた雛子は弾かれたように、大粒の涙を溢れさせた。喉の奥がひっひっと支えるのを必死で、呼吸を整えようとしながら、縋り付くように政秀に手を伸ばす。しかしその手はゴルフクラブで無情にも跳ね返されてしまう。
嗚咽しながら、ゆっくりと首を上げた雛子が見たものは、まるで視界に入れるのも汚らわしいと言うような、心からの軽蔑を含んだ眼差しで雛子を見下ろす政秀であった。胸の中、心臓の中心からその周辺まで、範囲を超えて暗く黒く広がる絶望感。やっと、信用出来る人に――好きな人に出会えたと思ったのに。
「なんでよ、なんでよ、高津……ヒナ、高津とエッチしてあげたじゃん」
「気持ち悪ぃことほざいてんじゃねえ」
政秀が音を立てながら唾を吐くのを、雛子はびくっと身体を震わせて眺めていた。
「あん時ゃどうかしてただけだ、元々お前なんかに興味はねえよ、ブス、ヤリマン」
「ひどいよ……ヒナ、高津が好きだったからさせてあげたのに。高津が嫌ってたから、桧山も殺してあげたんじゃん」
そう、これからおかしくなったんだ。
元々は高津政秀も、敵意を丸出しと言うわけではなかった。若干おろおろしてはいたものの、口元にはいつもの厭らしい笑みを浮かべて、「おう、久しぶり」と呑気そうに言っていたのだ。雛子は安心と嬉しさから満面の笑みを浮かべて、政秀に駆け寄った。
――嬉しい! 会えると思ってなかった! でも高津には会いたいってヒナ思ってたよ、高津だけは信用出来るし、だって好きだもん、ね、一緒にいようね、ヒナね、高津のこと守ってあげるよ、ね、足手まといになんかならないよ、ね、これがあるから大丈夫! ピストルにも負けないもん! ヒナね、強いんだから! だってね、ね、聞いて、ヒナね、もう一人やっつけたんだよ! 桧山、あいつ、ヒナ、すごい怖い思いしてるのにさ、ぼけっと嫌らし目で見てるからさ、気持ち悪くて殺しちゃった! キモイあいつが悪いよね、高津もめちゃめちゃ嫌いだったし、嫌われるあいつがいけないよね、ね、ね、ね――
政秀の握り締めた拳が、雛子の顎に直撃していた。驚いて腰を抜かした雛子に、更に一撃、今度はゴルフクラブが額を割った。驚きのあまり言葉も出ない雛子に向かって、政秀が汚い言葉の数々を吐き捨てて行く。そして、雛子はあまりのショックにうなだれた。
そして、文頭の場面に繋がる。
「頼んだ覚えはない!」
呼吸によって上下する肩が、徐々に激しさを増していた。
「桧山を殺してくれなんて、俺は頼んでねえ!」