070.『透明な罪にしなだれて(5)』


「はったりだ!」

 ひどく焦った様子で、果帆が吠える。
 その通り――留姫は、心の中でほくそ笑んだ。留姫が回収した武器の中にプラスチック爆弾なんて物はなかった。そりゃ、もしかしたら、誰かのデイパックの中には支給されているかも知れないが。
 意味がわかっていない空太を尻目に、果帆が続ける。

「例え本当に持ってたとしても、死ぬのはあんただけだろう?」
「どうしてそうだと言えるの? 一纏めにプラスチック爆弾と言っても、色々なものがあるでしょう?」

 そして留姫が、自分の黒く染まったジャージの胸から腹の辺りまでを、嬉しそうに左手で滑らせて行く。空太は、訳がわからなかったが、とにかく留姫の死が自分たちの死に繋がることを理解し、再び凍り付いた。

「野上さんはボウガンだったけど、高津くんの武器はこれだったの。私、身体にそれを巻き付けてみたの。もしもの時、ただで死ぬなんて、悔しいものね」

 高津政秀の武器はなんてことない、ただのゴルフクラブだったのだが、そんなことは空太たちの知る由ではない。穴だらけのはったりだが、自信に満ち溢れた表情で少し顎を持ち上げて見せれば、そこには疑う余地など残されていない。
 それに、ボウガン――その台詞で、分校で桧山洋祐が殺されていた一件は、野上雛子の仕業だったと理解する。だが、そんなことではないけれど、今の状況でそれは重要ではなかった。或いはここでボウガンと言う単語を聞かなければ、プラスチック爆弾など世迷い言だと片付けられたかも知れない。けれど、謎のピースが合わさるように一つの事実が暴かれたことで、留姫の言葉は、真実味を帯びていたのだ。
 震える声で、果帆が食い下がった。

「そうだとしても、おかしい」
「なにが?」
「いつ、あんたにそんな時間があったんだ? あんたは、あの民家で、高津を撃ってから、すぐに出てきた。そんなに時間は経っていなかったはずだ!」

 確かに、そうだった。わざわざ服を脱いで身体に固定してた時間があったようには思えない。それに留姫の攻撃で、そのプラスチック爆弾とやらは爆発しなかった。それは、運が良かっただけなのか、それとも――

「そう思うなら、試してみればいいじゃない」

 どっちにしろ、この自信の上には、矛盾や疑問など無力に思えた。空太は完全に信じ切っていた。今さっき果帆を止めたのは正解だったのだと思った。それが、留姫の策略とも知らずに。

 留姫がもう一度、冷笑を浮かべる。そして今、正にトカレフの銃口から果帆を目掛けて、新たな鉛弾が散ろうとしていた。





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