018.『トトカルチョ』
「あー、妾は喉が乾いた、
「かしこまりました、
「私は結構です。ベアトリーチェ、先ほどは目を瞑りましたが、あなた自らの手で殺人を実行するのは、あまり関心しませんよ」
「ちぇー、硬いこと言うなよお師匠様ァ〜、仕方がなかろう? あの二人に生きておられると、妾は非常に困ることになるのだからなあ」
「それは可能性の話です。まったく、あなたは本当に用心深く我が強い。開始前に私があれほど注意を促したと言うのに」
「ストップ! 説教は聞きたくねえよ、お師匠様。それよりも心躍る愉快な話があろう? 妾は是非ともそれを語り合いたいぞ」
「……いいでしょう。ではベアトリーチェ、あなたは誰に投資をしたのですか?」
「妾に聞くのはまだ早ぇってお師匠様ァ? まずはお師匠様の予想を妾に聞かせておくれよ」
「いいでしょう。私の一押しはすばり、
「げ、マジかよォ? あんな芸も取り柄もなさそうな小娘にかァ?」
「ベアトリーチェ、シュミレーションはご覧になりました? 彼女はあれで中々に芯が強く、積極性に欠ける面があったとしても、生き延びる要素は多分に秘めているように思えますが」
「ほう。そう言えば、
「ぷっくっく。お嬢様は些かご不満なようですが?」
「当たり前であろう? なにが悲しくてあんなひ弱な小娘に莫大な投資をせねばならんのだ、実に理解に苦しむ。してロノウェ、そなたの予想は如何ほどであるか」
「はい。わたくしは
「ちょうど佐倉小桃と逃亡しているようだな。ほう、トトカルチョでの人気も上位に食い込んでおるぞ」
「当然かと。まさしくクラスで一番愛されていると言っても過言ではないほど、人気者の少女ですからなあ、男ならもう、イチコロかと」
「容姿端麗、スタイル抜群とくればなあ……お? ロノウェ、この娘、バストサイズがEカップもあるぞ、こいつぁちょろっと手の平を返せば、相当に化けるなあ?」
「彼女の最大の魅力は、容姿ではなくその心の温かさにありますよ。故に、プログラムを生き抜くには少々過酷すぎるかと」
「妾もお師匠様と同意見であるなあ、このような小娘は散々男の慰め者として弄ばれ、無惨にも殺されるのがオチと相場が決まっておる」
「そうでしょうか、わたくしは彼女を守ろうと奮闘する騎士が、それはもう何人も沸いて出るのではないかと予想しておりますが、ぷっくっく」
「そう言うもんかぁ?
「うふふ、私? 私はそうねえ、
「そなたは顔が良ければなんでも良いのであろう」
「あら、リーチェったら失礼しちゃうわ。どんな時でも私は有能な貴公子の味方でありたいだけ、ただし、イケメンに限る!」
「わかったわかった、もう良い。
「も、申し訳ございません、大ベアトリーチェ教、私にはわかりません!」
「にひっ、
「よ、
「にひひっ、ベアトリーチェ様、私は
「よんいちまる、少々短絡的すぎるのでは?」
「なら
「妾も聞きたいぞ、是非ともそなたの愉快な予想を聞かせておくれ」
「はっ、私は
「なるほどなるほど、確かに道明寺晶は中々に上位であるようだなあ。この際だ、
「
「そなたは誰が優勝すると思うか?」
「恐れながらベアトリーチェ様、傲慢の名に賭けまして、私は
「泉沢千恵梨が傲慢とな?」
「はい、私の見立てによりますと、それはもう。ベアトリーチェ様がお気に召すような盛大なお祭りが見られるのではないかと思いますが」
「ほう、それは実に楽しみであるな。
「はっ、失礼致します」
「他の姉妹たちも平伏すが良い」
「
「もちろんだとも。そなたの意見を聞かせてみよ」
「はい、私もルシファーお姉様と同じで、泉沢千恵梨を推奨させていただきますわ。嫉妬の名に賭けまして」
「ほう、人気であるなあ、泉沢は」
「だってもう、素晴らしく美しい魂をお持ちですもの。これは……越えちゃうかもね、音速!」
「
「宝塚コンビの片割れであるか。確かに、あのように従順で意志の強い娘ほど怒らせると恐ろしい! 器も中々に頑丈であるしなあ、そなたの見立て、実に心地良し!」
「ありがとうございます、ベアトリーチェ様!」
「おるか、ベルフェゴール」
「
「和歌野岬? してその心は」
「はい。怠惰の名に賭けまして、述べさせていただきます。小日向は和歌野には凶器を向けることなどできません。怠惰に守られ、怠惰に優勝することでしょう」
「ベル姉の見立ても甘い甘い!
「マモンは水鳥紗枝子か、中々に謎の深い娘ではあるがな」
「彼女は本当は非常に欲張りで、非常に努力家なんですよ? 努力を惜しまない者に、悪魔の加護がないわけもありません」
「うえーん! お腹すいたー!」
「……そやつ、まずは名乗るが良い」
「
「
「だってお腹すいたんだもーん!」
「やかましいわ、家具共が! 無口であれといつも言っておるだろうに!」
「ひっ! ご、ごめんなさい!」
「まあ良い、聞かせるが良いぞ、そなたらの推論」
「はーい! アスモは、
「そなたもガァプと同じ暴論であるか」
「違いますよー、乃木坂朔也くんはー、とーってもモテモテなんですよー? モテモテでかっこいい男の子は優勝しやすいんですよ? 色欲の名に賭けちゃいます、きゃはは!」
「ベルゼは
「こらこら、真面目に考えんか」
「暴食の名に賭けまして、食いしん坊の味方をするのが私の務めです! だからいいんでーす!」
「なんと言う暴論。もう戻って良いぞ、妾はがっかりした」
「いやー! お腹すいたー!」
「こやつら……どうしようもないな」
「ぷっくっく、実に姦しいですな」
「ロノウェ、笑ってないでこいつをどうにかせい!」
「はいはい、かしこまりました。レディーたち、美味しいクッキーをご馳走しますよ」
「やったー、さっすがロノウェ様ー!」
「ベアトリーチェ、もう宜しいのではないですか。そろそろあなたの考えを私たちにも聞かせてはくれませんか」
「そうだなあ、お師匠様。妾はな、ずばり、
「あら、意外だわ。どうして、リーチェ? あの男こそ、なんの芸も取り柄も華もない、平凡なただのガキんちょよ? ちょっとばかし顔は可愛いけどね、うふふ!」
「そ、それがなあ……そのぉ、……ちょっとばかし、ちょっとばかしな? 妾の元彼に、その……似ておるのだ」
「……あら、そう」
「呆れた。がっかりしましたよ、ベアトリーチェ」
「えーい、うるさいうるさいうるさい! 別に良いではないか、妾はこの道十年勤め上げて来た大教官であるぞ! 仮にも大魔女と呼ばれた妾が勘を信じてなにが悪いのだ!」
「ぷっくっく! お嬢様の見立てに間違いは御座いませんよ。さあさ、お嬢様の大好物のアールグレイとワッフルで御座います、冷めない内にどうぞお召し上がりを」
「おお、美味そうではないか、頂くとしよう」
「ぷっくっく、ワルギリア様は本当に宜しかったのですかな?」
「ええ、結構ですよ。ベアトリーチェ、私は監視に戻りますが、あなたも任務はしっかりと勤めるのですよ。時間厳守ですからね、忘れないように」
「わかってるよお師匠様〜。……良いか、なにか動きがあれば直ちに妾に報告せよ」
「かしこまりました、……姫様」