055.『こんなこと、やめよう(1)』
鬱蒼と生い茂る森を迂回しながら、
出発した直後、
少しだけ息を乱しながら、朔也は物思いに耽る。アキラなら──
そしてそのガソリンをどうするのか。決まってる、あの喧しい女のいる分校に突っ込んで、火を点ける。火は瞬く間に広がるだろうし、至る所で爆発が起こるだろう。ガソリンと言うのは本来、それほど危険なものなのだ。管理系統全てを行っている本部を破壊すればまずプログラムどころではないだろうし、上手く行けば中止と言うことも有り得るんじゃないか。そうでなくても、その混乱に乗っ取って脱出することも可能なはずだ。そして、機械を壊してしまえば、この首輪だって爆発する確率は下がるはずだ。信号を送れないのだから。もちろん別の方法で爆発する場合もあるのかも知れないが……。
とにかく、朔也には、その策以外には思いつかなかった。だからこそ、実行する前に道明寺晶に会いたい。携帯電話は常に圏外の文字が表示されていた。けれどなんとか彼に会って、意見が聞きたい。自分が暴走したせいで全生徒の首輪が爆発してしまっては、話にもならないのだから。
正直、それ以外にも問題点はたくさんあった。まず、すでに禁止エリアに指定されている分校にどうやってガソリンをばらまくか。軽トラックなんかに有りっ丈のガソリンを積んで、捨て身の覚悟でそのまま突っ込む以外に思い付かない。しかもどのタイミングで首輪が爆発するのかわからない。一歩でもエリアに踏み込んだその瞬間なのか、それとも多少の猶予はあるのか。どっちにしろ現在孤立した状態でエリア指定されている分校だが、いつその周りも禁止エリアになるかわからないから、時間もあまりない。そして実際のところ、ガソリンがどの程度の威力を持っているのかもわからない。以前読んだ資料には、最小限に見積もっても十リットルのポリタンク一つを部屋にばらまくと、ガスが充満して一気に爆発、家ごと吹っ飛ぶと書いてあった。本当だろうか。上手く分校を破壊出来なかった場合、残ったクラスメイトにどんな被害が及ぶのか、想像するのも苦しいくらいだ。そして、逆に、威力が強すぎてしまったら。考えたらキリがないほどに、穴だらけだ。
けれど、かと言ってなにもせずにはいられない。このままみすみすとクラスメイトが一人、また一人と死んで行くのは悔しいのだ。先ほども、離れたところで激しい銃撃戦が行われていた。その前にも何度か別の種類の銃声を聞いた。昼を過ぎた辺りからそんなことばかりだ。けれど放送の度に、彼らの名前が呼ばれないことを願わずにいられない。しかし、悲しいかな、昼の放送で親しかった
もしも次の放送で、晶の名前が呼ばれたらと考えて、不安に襲われた。野上雛子の襲撃から逃げた後、朔也は暫く付近を探し回ったのだ。晶は
教室を出発する際、
どさりと鈍い音を立てて右手のポリタンクが落下した。蓋はしっかり閉めていたので外れなかった。良かった、こんなところでガソリンをぶちまけたら、最悪山火事になるところだ。そろそろ体力的に限界かも知れない。けれどもたもたしていたら日が暮れてしまう。夜になればこうして動くことも出来ないのだから。
とにかく、早いところ倉庫まで運んでしまおう――と考えて、落としてしまったポリタンクに手を伸ばした。
背後でなにかが動く気配を感じた。