044.『シロツメクサの花冠(2)』


 仕上がった花冠を、木陰に寝そべる由絵のもとへ運ぶ。勝平が呆然と美海を見上げて、美海はそれにゆっくりと頷いてみせた。そして、胸の上に組まされた掌に、そっと、シロツメクサを奉じる。
 それを眺めていた勝平が、心ともない表情をようやく崩して、はっとなったように由絵の生気を失った顔を見つめた。見つめて見つめて、唇を噛みしめると、荷物を手に立ち上がった。

「勝平くん?」
「心配かけて悪かった。そろそろ行こう」

 小桃と美海も慌てて荷物を持ち上げると、そそくさと先を進もうとする勝平を追いかけた。
 朝方近くに、有栖川直斗や羽村唯央が隠れていた森の中を、三人は無言で歩き進める。コンビニエンスストアを出る際にまとめた荷物は貴重な食料品、特に水分を多めに持ってきたのでずっしりと重く、ベルトの部分が肩に食い込む。特に美海は、昨夜進んで見張りをしていたので小桃と勝平に比べて休息が取れていない。なにより、モデルのように細いその手足に力があるようにはとても思えなかった。
 どの程度歩き進めたのだろう、森が開け、中央線の引かれた道路へ抜けた。勝平が溜息を吐いて立ち止まる。道路の向かい側は崖になっていた。三人が出た道はちょうど坂道に差し掛かる箇所で、その先はゆるやかなカーブが続きなにがあるのか見えなくなっていた。
 森の中へ引き返して、三人は島の地図を広げた。

「どこだ、ここは?」

 小桃はコンパスと地図を照らし合わせ、頭の中で素早く現在地を特定する。

「西に歩いて来たから、ここのはずよ。Eの4、坂を上がると住宅地があるわ。でも、道が長いし、この荷物を抱えて登るのは大変だと思う。反対側をずっと行けば別の畑と農家があるけど、……見通しが良すぎるわ」
「……農家を目指した方が近いよな?」
「うん。でも……危険だと思う」

 見通しが良いと言うことは、殺し合いに積極的になっているクラスメイトに見つかる確率がそれだけ高くなる。本来、生存率を上げるには一ヵ所に留まっているのが一番得策なのだから、動いているだけでも危険なはずだ。
 小桃の言葉を受けた勝平が考え込むような仕草を見せつつ煙草を取り出す 。ジッポライターがカチカチと音を立てて、勝平の唇から煙が押し出された。

「危険だって言ったら、なにもできねえな。俺は農家を目指すべきだと思う。でも、仲間を探したいってんなら、住宅地の方が集まってんじゃねえか」
「そうかしら、逆にみんな集まると思って、誰も寄り付かないかも」
「なら決まりだろ、農家にしよう」

 その言葉に小桃は渋々頷いた。本当は森へ引き返して別のルートを探したいと思ったのだが、目的が朔也や果帆等、信用できる仲間を探すことなのだから、多少の危険は止むを得ないだろう。
 勝平が煙草をふかしながら、肩に掛けていたデイパックを降ろした。

「少し休憩しようぜ。……白百合、疲れただろ?」

 小桃と同様、勝平も美海の足取りが重いことには気付いていたようだ。しかも二人は朝方コンビニを発つまで布団で仮眠していたが、美海は見張りをしていて不眠不休だった。心配になるのは当然だ。
 ふわりと美海が微笑んで、礼を言いながら腰を下ろす。それで小桃も、ようやくほっと息を吐いて、美海の隣に座り込む。――八木沼由絵の死に立ち会ってから、今朝まではまだそれなりに気丈だった二人も、口数が確実に減っていた。仕方がないと思う。小桃もあまり喋る気にはなれなかった。
 しばらく無言で休息していた三人だったが、不意に勝平が口を開いた。

「なあ、お前ら二人に忠告しとくわ」

 俯き気味だった二人は視線を上げて勝平を見てから、互いに顔を見合わせて頷き、続く勝平の言葉を待った。





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