042.20日目『朝の時間』


 ――――20日目

 ――――AM06:00、会議室

人狼は襲撃に成功しました。

昨晩の犠牲者は竜崎圭吾さんでした。







 ――――AM08:00、リビングルーム
空太
(…………朝だ。
 昨晩は、竜崎が殺された。
 …………今までと死に方が違かった。
 小田切によると、毒殺。ベッドには血混じりの泡が付着していた)
空太
「……………………」
(やはり、義務のように俺たちはリビングに集まっていた。
 佐倉と白百合が、簡単なご飯を用意してくれたみたいだ。
 まるで事務作業のように、黙々と食材を口に運んだ)
直斗
「…………勝平は、人狼だったよ」
和華
「……………………」
果帆
「………………そうか」
直斗
「…………俺にはもう、答えはわかった」
空太
(直斗はそう言って、白百合を見た。
 …………確かめるように見詰めて、それから、頷いた)
美海
「直斗くん…………」
果帆
「…………弁解しても、無駄みたいだな」
冬司
「少なくとも、俺と直斗は白百合さんを信じてるからね」
果帆
「…………夜、話がある」
和華
「…………わたしも、夜になったら。
 …………みんなに打ち明けなきゃいけないことがあるの」
空太
「…………自白?」
和華
「……違うわ、そうじゃなくて」
小桃
「……和華?」
和華
「……わたしは、…………わたしは、
 自分が人狼じゃないってことを証明することができるわ」
果帆
「……!!」
和華
「……話は後で、ね。
 …………それでは」
小桃
「待って和華。
 …………みんな、今の内に、
 …………みんながまだ冷静でいられる内に、
 状況整理だけでもしないかしら」
空太
「……状況整理?」
小桃
「……うん。今まで……亡くなった人も含めて。」
冬司
「……そうだね。いいよ。
 それじゃあ、俺、ノートにまとめてあるから。
 …………ちょっと待ってね」
空太
(そう言って小田切はノートを取りに部屋へ戻った。
 しばらくして、やってきた)
冬司
「…………まず、
 人狼の襲撃を受けていたアキラ、朔也、直斗、筒井くん、竜崎くんは、
 ボーナスみたいだけど不動で村人確定だった。
 その分危険な役を買って出たんだから、当然だよね」
直斗
「……そうだな。残りはもはや、俺一人だけど…………」
冬司
「……そして、村人と確定してた朔也が共有者だった。
 その朔也がもう一人の共有者だとカミングアウトしたのは……」
小桃
「……あたしね」
冬司
「うん。…………つまり、現段階で確実に村人なのは、
 直斗と佐倉さんだけなんだ」
直斗
「…………他のみんなは、等しく怪しいってことか」
冬司
「それぞれの見方によって違うけど、
 第三者から見たら、俺も、空太も、白百合さんも間宮さんも七瀬さんも、等しくグレーゾーンなんだ。
 まず白百合さんが本物の占い師かどうかってところだけど」
美海
「……待って。もしあたしが偽者だったら、本物が黙っていないはずよ。
 名乗りを上げたのは、裏切り者のサキちゃんだけだったわ」
冬司
「うん。俺もそう思うよ。
 …………なにより白百合さんは、俺を占って村人って言ってくれてるから、信頼してる。
 …………自分がただの村人だって言うのは、自分が一番よくわかってるからね」
直斗
「…………アキラか由絵が、占い師だったって可能性は」
冬司
「ある。……でも、可能性はそんなに高くない。
 ……それに……白百合さんのカミングアウトは早かった。
 ……俺が人狼だったら、早い段階でそんなリスキーなことはしないと思うんだよね。
 もっと、慎重になってもいいはず。これは本物の殺人ゲームなんだから」
小桃
「…………あたしも人狼ゲームは今回が初めてだから、よくわからないけど……、
 あのときに、占い師って嘘を吐く勇気なんてないと思う。
 …………あたしだったらだけど」
冬司
「…………もし白百合さんが人狼だったら、よっぽどの演技者だよね」
美海
「…………あたしが本物の占い師だって、証明するものはあったはずだわ。
 占いの方法を知ってる。それは、みんなに話したはずよ。
 それに……勝平くんを、人狼として告発した。それを直斗くんが確認したわ。
 もしあたしが偽者で人狼なら、仲間を売るような真似をすると思う?」
果帆
「庇いきれなくなったんだろう」
美海
「果帆…………」
果帆
「……………………」
冬司
「……勝平くんは死ぬ気満々って感じだったからね。
 ……あと、それを言ったら俺だって村人と証明する証拠がある。
 白百合さんに占われてるって言うのもひとつだし、なにより、みんなが和歌野さんに投票したときに、
 俺は勝平くんに票を入れてるんだ。
 …………自分でいうのも難だけど、あの段階で味方の人狼売るような真似すると思う?」
直斗
「…………そうだよな」
果帆
「……………………」
冬司
「…………とにかく、亡くなった人も含めて村人と確定してるのは、
 アキラ、八木沼さん、筒井くん、朔也、竜崎くん。それに、直斗と佐倉さん。
 目黒くんと、小日向さん、和歌野さんは霊媒結果によって村人確定。
 …………あとはもう、白百合さんを信じるかどうかしか選択肢は残されていないよ。
 …………もし、信じないなら、今日の処刑は白百合さんをやるべきだと思う」
美海
「……!!」
果帆
「……!!」
直斗
「美海を信じるなら、果帆と七瀬が。
 美海を信じないなら、それ自体が人狼の証だからってことか」
冬司
「…………そう言うこと。
 …………俺は白百合さんを信じるけどね」
直斗
「…………悪い、俺もだ」
和華
「……………………」
果帆
「……………………」
空太
「………………俺もかな」
果帆
「……くそ! やってられるか!」
空太
(果帆はそう吐き捨てて、どかっと席を立った)
美海
「か、果帆、待って!」
空太
(去ろうとする果帆を、白百合が引き留めた)
果帆
「…………美海」
空太
(果帆は苦汁を噛むような表情で、白百合を見た)
美海
「今日の占いで、果帆を見るから!
 だから、もしそれで、村人だったら……!」
果帆
「やめろよ、そーゆー猿芝居は!!」
美海
「っ……!」
小桃
「……………………」
果帆
「もうわかってんだよ……美海が、人狼なんだろ?
 もうひとりは誰なんだよ!」
美海
「し、知らない! あたし、占い師だもの!」
果帆
「ふざけるなよ! もうボロは出てんだよ!」
美海
「か、…………果帆……」


全員
「……………………」


冬司
「そう言うところが怪しい」
果帆
「あ?」
冬司
「……狂暴になって、キレるところ」
果帆
「はあ!? 誰だって無実なのに疑われちゃ気分悪いだろ!
 しかも、こっちは命が掛かってんだよ……っ!」
小桃
「…………命懸けなのはみんな同じよ」
果帆
「…………くそっ!」
美海
「果帆!」
空太
(果帆は、白百合を振りほどいた。
 …………俺は走り去っていく彼女を、追い掛けようとすら思わなかった)





 ――――AM10:00、ダイニングルーム
空太
(食事は終了になった。
 今は各々部屋で休んでいるところだ。
 …………俺は無気力だったけど、さっき果帆とやり合った白百合が気になって、ダイニングに残っていた。
 佐倉の変わりに洗い物を買って出て、今は、白百合の手伝いをしているところだった)
美海
「……………………」
空太
「……………………」
(白百合は、どちらかと言うと甘い顔と言うか、とろんとしててどこか頼りない表情をしている少女だった。
 それが、今は凛と張り詰めた表情をしていた。
 …………俺は洗い物をする白百合の美しい横顔を見つめた)
空太
「…………なんか、白百合さ」
美海
「うん?」
空太
「…………ちょっと変わった?」
美海
「…………どうして?」
空太
「いや、なんかさ…………、
 顔付きが違う気がする、昨日までと」
美海
「…………そう?」
空太
「…………うん」
美海
「…………本堂くんは、あたしのこと知らないものね、なにも」
空太
「え…………?」
美海
「…………ね、知りたくない?」
空太
「……………………あの」
美海
「ね、本堂くん」
空太
「…………はい」
(白百合は、物凄く妖艶な顔をした。
 目をとろんとさせて、頬を紅く染めて、ぷるぷると輝く唇をぺろりと舐めた)
美海
「あたしが人狼だと…………嘘を吐いていると思う?」
空太
「…………いや、思わないけど」
美海
「……それじゃ、果帆を疑うの?」
空太
「…………そうだね」
美海
「そう。…………悪い子ね」
空太
(白百合はそう言って、俺に手を伸ばした。
 濡れた指が…………俺の頬をつうっとなぞる……。
 俺は、ごくりと喉を鳴らした)
空太
「で、でも」
美海
「…………なあに?」
空太
「果帆のこと…………完全に疑ってるわけじゃないよ。
 もしかしたら…………君が嘘つきなのかも」
美海
「本堂くん」
空太
(白百合は、両腕で自分を抱き込むようにぎゅっとした。
 まるで自分を抱き締めるかのように…………)
美海
「………… あたしはね、商品だったのよ?
 この顔も、髪も、体も。

 ……でもね、心は、売らない。絶対に」
空太
「…………どういう、意……味…………?」
美海
「…………決めたの。占い師を、全うするわ。
 …………あたしは絶対に勝利に導いてみせる」
空太
「……………………」
美海
「…………本堂くん、……用心棒?」
空太
「え…………?」
(白百合はすこし微笑んで、俺の耳元に唇を寄せた。
 …………そして、こう囁いた)
美海
「……もし本堂くんが用心棒だったら、
 …………守ってね、…………あたしを」



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