039.19日目『朝の時間』


 ――――19日目

 ――――AM06:00、会議室

人狼は襲撃に成功しました。

昨晩の犠牲者は乃木坂朔也さんでした。







 ――――AM07:45、朔也の部屋
空太
(…………朔也は、ベッドにうつ伏せになって、血塗れになって、死んでいた。
 同じように、釘を打ち込まれて、……背中を刺されて。
 部屋の中に、直斗と竜崎と小田切と勝平が集まっていた)
美海
「……………………」
空太
(…………白百合は、ドアの前で声も上げず、ベッドに横たえられ布団を被せられた朔也を、ただただ黙って見詰めていた)
空太
「……………………」
(俺も、もはや涙は出ては来なかった。
 …………悔しいけど慣れてしまったんだ。
 …………仲の良い友達が、死んでいく環境に)
果帆
「……………………」
空太
(…………こんなときは真っ先に果帆が白百合に駆け寄る場面だったろうに。
 …………果帆は、白百合からは離れたところで険しい顔をしているだけだった。
 …………果帆が人狼なのかな?
 朔也を殺したのが果帆だから……だから果帆は、白百合に近付けないのかもな)
果帆
「……………………」
空太
「……………………」
(果帆と目があった。先に目を反らしたのは果帆だった。
 …………それだけで、それが、答えなような気がした)
小桃
「乃木坂くん…………乃木坂くん…………」
空太
(一番泣きじゃくっていたのは、佐倉だった。
 昨日打ち明けてくれた朔也への思い…………。
 佐倉にとって、一番身近な存在は七瀬と朔也だったんだろう。
 …………佐倉は七瀬に支えられて…………部屋を離れて行った)
美海
「……………………」
空太
(次に動いたのは、白百合だった)
果帆
「…………美海!」
空太
(部屋を離れようとした白百合を、果帆が止めた。
 …………その腕を、固くつかんで)
美海
「…………ごめんなさい、果帆。
 …………ひとりになりたい」
果帆
「美海…………お前は……お前は…………」
美海
「…………ごめんね」
空太
(果帆は、そっと白百合の腕を解放した。
 俺は白百合がたどたどしい足取りで去っていくのを、ぼんやりと眺めていた)





 ――――AM09:00、リビングルーム
空太
(もはや義務のように、まだ生き残っている俺たちは、そこに集合していた)
小桃
「……………………」
空太
(佐倉は目は真っ赤に充血していたが、さっきよりは落ち着いたみたいだ。
 七瀬が仕切りに、佐倉の背中を撫でている)
和華
「…………小桃、あなたの好きなレモンティーよ」
小桃
「…………ありがとう、和華」
美海
「……………………」
果帆
「……………………」
空太
(白百合は相変わらず、宙を見詰めたままだ。
 …………果帆も、時々白百合に目配せはするものの、話し掛ける素振りはなかった)
小桃
「…………乃木坂くんね」
空太
(おもむろに、佐倉が語り始めた)
小桃
「たぶん、自分が殺されるんじゃないかって、予見してた。
 …………覚悟してたんだと思うわ」
和華
「…………電話で話したの?」
小桃
「うん。
 …………昨日は、話せなかったんだけど、一昨日だったかな。
 人狼の襲撃にも合ってたし、だからこそあたしに名乗り出ようって、そう言ってくれて」
冬司
「…………人狼は、普通に考えたら占い師と確定した白百合さんを襲撃してたはずだよね。
 たぶん、用心棒は白百合さんを守っていたんだと思う。
 …………それを見越して、票が集まらない朔也を襲撃したんだ。
 …………食えないやつだよ」
圭吾
「人狼だけに、…………な」
直斗
「…………どうして俺じゃなかった。
 …………俺だって、能力者のはずだ」
冬司
「普通に考えたら、共有者より霊媒師の方が邪魔だと思うよ。
 でも、別に和歌野さんが村人ってことが判明しても、それはそれで良かったんじゃないかな、人狼は」
圭吾
「…………自分で『裏切り者』って暴露してたくらいだからな」
冬司
「うん」
勝平
「…………仕方がなかった。
 あの状況で、和歌野に票が集まったのは」
圭吾
「ああ。朔也の件は悔しいけど、俺は後悔してないぜ。
 もし俺だったら、惣子郎を裏切るような真似はしない、例え裏切り者でも」
冬司
「…………でも、和歌野さんの振る舞い方は間違いではなかったよ。
 …………人狼に気付いてほしかったんでしょ、自分の正体に」
直斗
「…………結局はサキちゃんも、犯人の手の上で踊らされただけだ。
 人狼や、俺たちと同じように…………」
空太
「……………………」
直斗
「…………みんな、被害者なんだ」
和華
「…………助けは、もう来ないのね」
冬司
「…………来ないね」
空太
(これだけ待ったんだ。
 警察が助けてくれるかもなんて、この後に及んで誰も信じちゃいなかった。
 …………俺たち、生き残ったら、人殺しってことで逮捕されるのかな…………)
果帆
「…………なあ、美海」
美海
「…………うん?」
果帆
「…………大丈夫か」
美海
「…………平気」
果帆
「…………そうか」
直斗
「…………なあ、美海は誰を占ったんだ」
美海
「…………それをここで言うの?」
直斗
「…………占って、どうだったかだけでいいよ」
美海
「……………………。
 …………占ったわ。人狼が誰なのか、見付けた」
勝平
「………………」
和華
「………………」
果帆
「………………」
美海
「………………夜の会議で、話すから。
 …………部屋に戻ってもいい?」
冬司
「…………うん。いいよ」
小桃
「白百合さん、これ」
美海
「……??」
小桃
「……昨日と同じあんぱんだけど、
 少しでも、食欲が出たら」
美海
「……ありがとう、小桃ちゃん」
空太
(…………白百合はそう言って、すこし微笑んだ。
 可憐な花のように)





 ――――PM13:00、書斎
空太
「……………………」
(ひとりになりたかったけど、
 …………どうにも、落ち着かなかった。

 …………部屋にいると、果帆が来るんじゃないかって気がして……。
 人狼かもしれない。そう思ったら、果帆と今までのように話せる気もしなかったし、…………話したくなかった)
空太
「……………………」
(俺は書斎の扉を開けた。
 もわっと、ホコリとカビの臭いが鼻に纏わりついた。
 …………さすがに、ここには誰も来ないだろう。
 見渡すと、机と椅子があった。
 俺はそこに、どさっと疲れたように腰掛けた。
 新聞が、山積みになっている…………。

 手持ち無沙汰だった俺は、なんとなくそのひとつを手に取って、読んでみた。
 古い記事だ。10年くらい前の…………。
 なんとなく目を通していた俺は、とある記事で、なんとなく目を止めた)
空太
「…………繭見沢一家惨殺事件」
(…………そういえば昔、テレビでよくやってた気がする。
 俺は7才だったからよく覚えてないけど、大ニュースだったから…………。

 内容はこうだった。
 当時15歳の少年Aが、実の両親を殺害。続いて交際相手だった同い年の少女の、両親、祖父母、兄、少女自身も殺害、その後、自殺をはかった。
 少年Aの妹と、被害者宅の弟は未だ行方知れず…………。
 そんな、惨殺事件だった。これはおおごとだ)
空太
「……………………」
(記事によると、少年Aの本名は閖白 仁。ゆりしろ ひとしと読むそうだ。
 閖白仁に殺害された実の両親は、閖城 朝子(ゆりしろ あさこ)と閖城 大(ゆりしろ まさる)。

 …………被害者宅の構成はこうだった。
 父の墨谷 創太(すみたに そうた)さん、母の墨谷 夏海(すみたに なつみ)さん、祖母の墨谷 志津江(すみたに しずえ)さん、兄の墨谷 颯太(すみたに ふうた)さん、
 …………交際相手だった少女は墨谷 南海(すみたに みなみ)さん…………。

 行方不明となっているのは、当時7才だった墨谷 昂太(すみたに こうた)くんと、同い年の少女、閖白 えりか(ゆりしろ えりか)ちゃん…………。
 …………生きていれば、俺と、同い年なんだな)
空太
「……………………」
(俺は新聞記事を山へ戻した。
 …………余計に気が滅入ってしまった……。
 ここは空気が悪い。

 …………俺は書斎を後にした)



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