006.1日目『今後の方針』


 ――――リビングルーム

「とりあえず、ここを一階として――――」
空太
(アキラの説明ではこうだ。
 ここを一階だと考えたとして、施設は、二階、三階、そして地下の四層にわかれている。
 一階には、さっきの会議室もとい処刑場と、今いるダイニングとリビング、そして、美術室と音楽室がある。

 会議室はアキラ曰く構造は宴会場に近いらしい。
 が、雰囲気は宴会とはかけ離れていて、ほんのり薄暗くて、直斗が言ったようにやばい儀式でもやってそうな感じ。

 ダイニングとリビングは繋がってる。
 16人でたむろすると少し狭いかなと言う感じだけど、椅子やテーブルの数は困らない程度に揃ってる。
 部屋がほんのり薄暗いのは相変わらずだけど、会議室に比べればかなり普通。
 でも、家具や雰囲気は西洋風。俺は詳しくないけど、アンティークってやつ?
 リビングにはビリヤード台と、ダーツボード、それにカラオケセットがある。

 アキラと朔也が探索したんだけど、美術室と音楽室みたいな部屋もあったらしい。
 音楽室はこじんまりした感じだけど、簡易ステージにはピアノが置いてあるんだそうだ。
 ピアノがあると聞いて、和歌野の表情が少し柔らかくなった。弾けるらしい。すごい。
 他にも、ジャズバンドに使うような楽器、ラッパとかサックスとかトロンボーンとか、が飾ってあったそうだ。

 美術室は……めちゃくちゃ気持ち悪いらしい。蝋人形の館。以上。

 筒井たちが探索してくれたのは二階と三階だ。
 二階には男子の部屋と公衆浴場、給湯室と応接間のような部屋があるそうだ。

 自室はそれぞれ四畳半くらい。別途、トイレとクローゼットと言う感じだ。
 クローゼットには金庫があったそうだが、開けられないらしい。
 アンティーク調のベッドと、デスク、パソコンがあるだけで、寝る分には困らないが、鍵は自分ではかけられないみたいだ。あと、防音設備は完璧らしい。
 …………確か、深夜11時から早朝6時に自動施錠されるって言ってた。ゲームのためにも、自分では管理できないってことだ。ちくしょう。
 ちなみに、パソコンも電源が入んなかったらしい。なんのためにあるんだ?

 公衆浴場はモノトーン調で、それなりに小綺麗。広さも5、6人が同時に入れるくらいにはあるらしい。
 …………女子の入浴中に誤って入らないように気を付けないとな。
 洗濯機と乾燥機も設置されているそうだ。

 給湯室と応接室は隣接してるらしい。給湯室は人が一人通れるくらいの狭い空間で、簡易台所、冷蔵庫、コーヒーメーカーがあるそうだ。
 応接室は、これまた四畳半くらいの小さな部屋で、4人がけの椅子とテーブルがあっただけ、だそうだ。

 三階は、女子の部屋と書斎。たぶん部屋は男子と大差ないだろう。
 書斎には、机と椅子と、小難しそうな書物とか古そうな新聞が溢れるほどあるらしい。全体的に埃っぽくて、古びた感じだそうだ。
 漫画の類いはないらしい。…………残念。)

(そして………………、地下。

 地下の部屋は二ヵ所。一つはリビングから繋がる倉庫で、食料とか、生活用品が補充されると言っていた部屋だ。
 シャッターで区切られてて今は閉まってるそうだが、犯人は深夜、そこから物を運び入れるつもりなんだろう。
 各自、必要なものはそこから使おうと言うことになった。

 そして…………、そして…………、
 思い出したくないが、あの部屋。
 会議室から繋がる、死体安置所と称された、あの物置部屋は…………)

「………………秋尾の、遺体があった」
勝平
「……………………!」
小桃
「そ……そん、な…………」

「これで……イタズラやドッキリの可能性は消えたってことだな」
勝平
「――――――――!
 て、てっ、めえ――――っ」

「――――っ」
空太
「っ…………」
(…………勝平は、アキラの胸ぐらに掴みがかっていた。
 思わず手が出てしまった、…………そんな感じだ)
由絵
「しょ、勝平〜!!」
勝平
「く…………ぅ…………、
 ……………………悪かった」

「……いや…………、俺も言い方が悪かった」
空太
「………………ほ」

………………。

和華
「……これから…………どうするの?」
圭吾
「…………まさか、やんねえだろ、『人狼ゲーム』」
和華
「それはそうだけど…………」
勝平
「…………脱出口とかは……なかったんだよな?」
冬司
「……そうだね。
 四階に続く階段はあったよ。
 …………俺は上に犯人がいるんじゃないか、って思ってるけどね」

「同じ建物内にいるってのは、俺も同感だね。
 じゃなきゃ、秋尾をあそこに運び込めるわけがない」
果帆
「その……倉庫のシャッターってのはどうなんだ?
 ぶち破れそうなのか?」
朔也
「いや…………難しいと思う。
 鉄だからな」
果帆
「そうか…………」

「…………一つだけ、可能性があるとしたら」
美海
「…………あるとしたら?」

「……例の物置部屋だな。
 見たところ鍵は普通のものだった。
 針金でなんとかいけそうだ」
花菜
「ほ、本当か、アキラ」

「ああ。…………ただ、俺は脱出はおすすめしないけどね」
結翔
「なっ、なんでだよ!?」

「この、首の絆創膏……のようなもの。
 秋尾もこれをしてただろ?
 恐らくだが…………超小型爆弾とか、そういった類いのものが埋め込まれてるんだ。
 それで、ルールを破ったり、とにかく犯人共の異にそぐわない行動をした場合、頸動脈が切れて死ぬ仕組みだろう」

「…………それじゃあ……ダメじゃない……」

「そうだな…………」
惣子郎
「……アキラ……考えがあるって言ってただろう?
 それは、なんだったんだ?」

「ああ、大したことじゃないが。
 このゲームにはひとつ落とし穴があってな」
朔也
「落とし穴…………?」
結翔
「な、なんだ、それは!?」

「ここにいるのは16人。
 ってことは…………割れるんだよ、票が。
 例えば、俺と朔也が互いに投票したとする。
 残りの14人は、俺と朔也に、それぞれ均等に7票ずつ投票するんだ。
 すると、一人8票で決戦投票だ。
 決戦投票でも7票ずつ投票すれば……」
惣子郎
「なるほど……、少なくとも処刑は避けられるってことだな」

「処刑だけじゃないぜ? 襲撃も同じだ。
 幸運なことに用心棒がいる。
 あらかじめ襲撃先を決めておいて、用心棒に守らせるんだ」
直斗
「…………襲撃失敗」
果帆
「そうか、それなら、永遠にゲームが成り立たないんだな」
美海
「た、確かに…………、
 良かった、それなら、こんなことしなくても!」

「ああ。だが、もちろんリスクがある」
冬司
「…………人狼と用心棒に委ねるしかないことかな?」

「ああ、まあ、それはそんなに心配してないが。
 俺は…………人質の都丸が殺される可能性が高いと思ってる。
 もしくは、進行妨害って理由で全員殺されるとか、な」

………………。

空太
(…………確かに、都丸が殺される可能性は高いよな……)
果帆
「…………どっちも、耐え難いな……」
花菜
「そう、……だね…………」
朔也
「それでも…………試してみる価値はきっとある」
小桃
「…………!」

「…………あなたが肯定するなんて……意外ね」
朔也
「……いや。ごめん…………。
 都丸のことは……その…………言い訳もできないけど。
 ……俺は、少なくともここにいる誰かを……処刑なんてできない……。
 それに、人狼になってしまったやつだって…………襲撃なんかできっこないだろ」

「………………そうね」
直斗
「…………俺も、同じ気持ちだ……」
冬司
「……うん…………」
由絵
「………………あたしは、それがいいねとは、言えないよ……」
勝平
「だが……、今は、他に方法もないだろう…………」
冬司
「……そうだね。
 それに、都丸さんが殺されると決まったわけじゃない」
美海
「………………」
花菜
「………………」
和華
「………………。
 ……筒井くんは、どう思う?」
惣子郎
「俺は…………今、ここで答えを出さなくてもいいと思うんだ。
 8時の投票までまだ時間がある。
 いったん休まないか? 休んで、頭を少し整理しよう……」
圭吾
「……そうだな。それがいいかも知れないな」

「…………同感だね。
 俺も、気になることがあるし」
結翔
「……なんだよ、気になることって?」

「…………例の物置部屋?
 倉庫で針金は発見済みだし、脱出は無理でも、もしかしたら都丸がいるかも知れないだろ?
 あとは…………その、自室のパソコン?」
惣子郎
「……電源は入らないぞ?」

「ま、直接見てみないと、なんともな…………」

…………。

空太
「…………確かに、少し疲れたよ。
 休んでいいかな?」
果帆
「…………空太」
惣子郎
「…………そうしよう」

「ああ……。

 その前に、最後にひとついいか?」
空太
「う、うん」
果帆
「……なんだよ?」

「……放課後、これだけの学生が行方不明になってるんだ。
 親も、学校も、間違いなく大事になってるはずだ。
 テレビやラジオのニュースで世間に知られるのも、時間の問題だろう。

 …………日本の警察は、バカじゃない。
 ここで大人しく助けを待つってのも、選択のひとつだと思うぜ?」

………………。

由絵
「そう、だね…………、そうだよね!」
花菜
「うん……、まだ、諦めるには早いね」
美海
「……アキラ…………」
直斗
「アキラ…………」
空太
「うん…………」
果帆
「…………そうだな」
惣子郎
「…………アキラの言う通りかも知れないな。
 とにかく、いったん休もう。
 みんな、ゆっくり休んで…………でも、なるべく一人にはならないでくれ。
 ……6時に、またここに集合しよう」
冬司
「わかった」

「よし。そうと決まれば。
 ……俺は例の物置部屋に行くが、誰か一緒に来れるやつはいるか?
 もちろん男で」
朔也
「俺、行くよ」

「休まなくていいのか?」
朔也
「それはアキラも同じだろ?」

「……さんきゅ」
惣子郎
「俺も行こう」
圭吾
「んじゃ、俺も」
直斗
「…………俺も行くよ」
朔也
「お前はいいよ」
直斗
「いや…………さっきは役に立てなくてすまなかった。
 手伝わせてくれ」

「……わかった」
空太
「………………。
 俺は、休んでもいいかな?」
直斗
「ああ。……空太は休めよ」
空太
「……ありがとう」
結翔
「お、お、俺も行くぜ!」
冬司
「いや、目黒くんはやめときなよ」
結翔
「なんでだよ!?」
冬司
「冷静でいられないでしょ?
 …………俺は、ここで目黒くん見張ってるね。
 もし、みんなの帰りが遅かったら、迎えに行くよ」
惣子郎
「……ああ、頼んだ」
勝平
「…………すまん。俺も、残っていいか?
 秋尾の姿を見たら…………正気でいられる気がしない」
朔也
「ああ。勝平はそうしてくれよ。
 …………あんまり由絵に心配かけさせんなよ」
由絵
「勝平…………」
勝平
「……ああ。悪い…………」

「じゃあ」
惣子郎
「……行ってくる」

…………………………。


「…………花菜、部屋に行きましょう」
花菜
「あ、うん!」

「それじゃあみんな、さよなら」
花菜
「また、あとでね!」
果帆
「あ、ああ、また!」

…………。

由絵
「……勝平〜、由絵たちも部屋に行こ?」
勝平
「…………俺はここにいる」
由絵
「もう〜、なに言ってるの〜?
 勝平、休んだ方がいいよ!
 …………ほら、行こ?」
勝平
「………………」
冬司
「…………勝平くんにはしっかりしてもらわなきゃ。
 だから、今は休んでよ。ね?」
勝平
「…………すまん」
由絵
「…………良かった。
 じゃあみんな、ばいば〜い」

………………。

冬司
「…………俺と目黒くんはここにいるから。
 みんなも、部屋にいて?」
和華
「……ありがとう、小田切くん。
 筒井くんたちによろしくね。
 …………小桃、一緒に部屋に行かない?」
小桃
「…………そうね。
 みんな、また、6時に……」

………………。

果帆
「……あたしらも行こうか」
美海
「うん…………」
空太
「……俺は…………」
(どうするべきなんだ?
 ここに残る? …………部屋に行く?)
果帆
「……空太、部屋に行こう」
空太
「え?」
果帆
「…………ひどい顔してる」
空太
「そ、……そう?」
果帆
「ああ……」
結翔
「……休めよ。ここは気にすんな」
冬司
「俺たちもあとでちゃんと休むからさ。
 空太は間宮さんと白百合さんと、一緒にいてあげて」
空太
「……うん。わかった。ありがとうな」
結翔
「白百合…………」
果帆
「美海……行こうか」
美海
「………………。
 ごめんなさい、果帆。
 やっぱり…………ひとりに、してくれる?」
果帆
「え…………」
美海
「ごめんね…………ひとりに、なりたいの……」
果帆
「あ、ああ……わかったよ」
美海
「ありがとう…………。
 小田切くん、結翔くん……、アキラたちを…………よろしくね?
 またね……」

………………。

結翔
「白百合…………あんなに落ち込んでる姿、初めて見た……」
冬司
「……無理もないよ」
果帆
「…………あのさ。
 アキラが戻ってきたら、美海の部屋に顔出すように言ってくれるか?」
冬司
「うん。いいよ」
果帆
「頼むよ。…………空太、行こう」
空太
「うん…………」



 ――――物置部屋
惣子郎
「ここが…………その物置部屋か」

「ああ。奴らが言うには『死体安置所』でもあるらしいがな」
惣子郎
「………………。」
圭吾
「……なんだよこれ?」
朔也
「…………よせ。見ない方がいい」
圭吾
「……ま、まさか」
朔也
「………………。」
惣子郎
「そこに……秋尾がいるのか…………」
直斗
「アキラ……どうだ?」

「……たぶん、開くと思うぜ」
直斗
「…………どうする? もし、犯人がいたら」

「…………大人しく逃げるしかないだろ、現時点では」
直斗
「そうだよな……」
圭吾
「てかお前さ、なんでこんなことできんの?」
朔也
「…………好きだから?」
直斗
「……変人だから?」

「こらこら。
 単なる興味本意だな。自分の部屋で練習した。
 …………こんなこともあろうかと?」
圭吾
「うっわ〜……こいつ単なるやべえやつじゃんw」

「失礼な。こんなにも健気な男の子なのに」
圭吾
「ww」
惣子郎
「まったく……しかし、アキラは本当に心強いな。
 自分が情けなくなるよ…………」

「いやあ、それほどでもあるけど…………とか言ってる間に開いたぞ」
圭吾
「まじ? ガチ?」

「ガチ」
直斗
「……あっさりと言うなよ……」
惣子郎
「アキラ…………開けてくれるか。
 開いたら、俺と圭吾が先に中へ入る」

「……了解、生徒会長。
 …………じゃ、行くぞ」

ガチャ――――

朔也
「……………………」

……………………。

圭吾
「な、なにもなしかよ……っ」
惣子郎
「…………犯人はいないようだな」

「おっけー。
 …………読み通り、やっぱり秋尾と都丸はここに閉じ込められてたんだろうな。
 この血痕は…………秋尾のものか」
朔也
「…………都丸はいない」

「そうだな…………」
惣子郎
「奥にはいけないみたいだ。
 ……シャッターが閉まってる」
直斗
「…………やっぱり、徒労だったみたいだな」
圭吾
「緊張して損したわ。
 …………戻ろうぜ」
惣子郎
「そうだな…………」

「…………………………」
朔也
「アキラ? ……戻るぞ?」

「…………ああ」



 ――――会議室
圭吾
「なーんか、疲れたよな」
惣子郎
「そうだな」
朔也
「無理もない。戻ったら休もう」
圭吾
「…………なあ、本当のところ、
 どうするんだよ、…………今日の投票」


 ………………。

朔也
「俺は、アキラが言ってた方法で試してみたいと思ってるよ」
惣子郎
「…………俺も、そうだな。
 都丸のことは気掛かりだが、それがいいと思う」
圭吾
「…………そうだよな」
直斗
「…………俺はさ。
 単純に、…………お前らのことが好きだ」
圭吾
「はあ!!?」
惣子郎
「ほ、ほう……どうした…………」
直斗
「ドン引きするなよ!
 だから…………アキラや朔也、美海たちとはずっと一緒だったし、
 勝平や空太も、筒井たちとも、よく遊んだよな。
 やっぱりこのメンバーの誰かを犠牲にするとか、考えらんねえし…………。
 そうしたら、やっぱり、……消去法でそれしか……」

「…………今日は、俺に投票しろよ」
朔也
「え?」

「言い出しっぺの責任は取るさ」
朔也
「なら、初めに同意した俺も」

「ああ、頼むわ、朔也」
惣子郎
「いや、待てよ。
 ここは生徒会長である俺が」
圭吾
「惣子郎…………」

「じゃ、筒井くんには襲撃の件で用心棒に守って貰う方お願いしていい?
 なんだったら、俺がそっちでもいいけど」
惣子郎
「いや、大丈夫だ。俺が引き受ける」
圭吾
「…………大丈夫なのかよ?
 用心棒が守ってくれなかったら」
惣子郎
「それは……考えるのはよそう」

「…………提案なんだが。
 もし今日、何事もなく乗り越えられたら、
 明日、明後日と、この5人で上手く回していこう」
直斗
「…………投票とか、襲撃とかのことか?」

「そうだ。
 投票も襲撃も危険が伴うし、当然、女子にはさせられないよな?
 ただ、利点もあるんだ。
 用心棒は自分自身と、人狼のことは守れない。意味がないからな。
 てことは、用心棒に守られるってことは、自分が村人だと暗に証明することにもなるんだ。
 ……ゲームの性質的なことも考慮すると、この一件に全員が参加するのは無理があるし、なるべく小規模で回したいところだ。

 ………………もちろん、この中に人狼と用心棒がいなければの話だがな」


 ………………。

朔也
「俺……、村人だよ」
直斗
「…………俺も」
惣子郎
「……俺も、そうだ」
圭吾
「俺も、村人だ……」

「…………なら、そうしよう」




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