036.18日目『岬の自白』


 ――――PM20:00、会議室
朔也
「…………全員、揃ったか」
直斗
「ああ…………」


全員
「……………………」


果帆
「……………………」
空太
(果帆はあれから、機嫌が直らなかった。
 …………人狼なんじゃないかと疑われたんだから、当然だと思う。
 果帆は円を囲むような配置の椅子に座りながら、ぶすっとした表情のまま腕と足を組んでいた)
勝平
「…………なんでそんなに機嫌わりーんだよ」
果帆
「色々あったんだよ……」
勝平
「…………小田切からざっくりは聞いたけどな」
果帆
「じゃあ、言うなよ」
勝平
「………………」
冬司
「それじゃあ、確認だけど…………直斗くん」
直斗
「…………ああ。
 ………………花菜は、『村人』だった。
 つまり、俺は…………サキちゃんが嘘を言っていると思う」

「………………」
美海
「…………サキちゃん、どうしてあんな嘘を吐いたの?」

「…………邪魔だったのよ、……花菜が」


全員
「……………………」


圭吾
「…………邪魔だった?
 俺から見てもな、お前と小日向の仲は羨ましいくらい睦まじかったんだよ。
 それなのに…………邪魔だった?
 なんだよ、なんなんだよ、その言い草は!!」

「……………………」
美海
「………………サキちゃんっ、
 なんとか言って、お願い!」

「……………………」
果帆
「サキ! あたしはあんたを……許せない!」

「…………花菜はね、わたしの心を乱すの。
 …………花菜はわたしの太陽だった。眩しすぎて、あったかくて、
 照らされてるわたしには、時々目障りでもあったの」


全員
「……………………」



「……お察しの通り、わたしは『裏切り者』よ。人狼じゃない。
 …………だから美海、本物確定おめでとう」
美海
「…………な、なに? なんでそんな言い方をするの?」

「…………わたしはね、人狼の味方なのよ。
 …………村人が勝利したところでね、わたしには死しかないの、わかる?
 …………花菜は村人よ。そんなの最初っからわかってた。
 あの子がわたしを欺くなんてできるはずないもの。
 ……それがどういうことなのか、みんなにはわかる?」
朔也
「…………一緒に、生還ができない」

「…………そういうことよ。だから、邪魔だったの。
 ……花菜に嘘を吐かなきゃならない。
 ……花菜を欺かなきゃならない。
 それがわたしにとってどれほ辛いことだったか、みんなにはわかる?
 …………わからないでしょうね。
 …………わかってもらってたまるか」
勝平
「……わかるわけねーだろ、
 お前が言ってることはな、全部自分のことばかりなんだよ。
 …………邪魔だった? だから裏切った?
 ふざけてんじゃねえぞ、こら!」
空太
(勝平がすこし、声を荒げた。
 フェミニストの勝平には珍しいことだ、八木沼以外ではだけど。
 それほど、和歌野の言葉からは身勝手さが滲み出ていた)

「…………それだけじゃないわ。
 …………これ、この冊子はね、『狂人の振る舞い方』と言うんだけど。
 どうやらわたしは嘘を吐くことが仕事らしいわよ。
 …………わたしが解りやすい嘘を言うことで、人狼に存在を気付いてもらうつもりだった。
 明らかに村人だと思ってた花菜が処刑されれば、翌日、生きていれば直斗がそれを証明してくれるわ。
 …………わたしが嘘を吐いていたことに」
小桃
「……それだって、身勝手な理由じゃない」

「そうよ? 悪い?
 …………嘘を吐くのがこのゲームのルールなのでしょう?
 …………なら、誰かがわたしの代わりに裏切り者を演じてちょうだいよ、
 わたしが、……わたしがっ、花菜を殺さなくても済んだように!」


全員
「……………………」



「…………できないくせに、偽善者みたいに勝手なことを言わないで!!」


全員
「……………………」


空太
(和歌野は、荒い呼吸を繰り返していた。
 …………和歌野にとっても小日向を売ることは、辛い選択だったんだろう。
 ………………でも、今やみんなの憎悪は和歌野に向けられていた。
 ………………言葉にできないほどの、強い嫌悪感を)
朔也
「…………もういいだろう。
 サキちゃんが裏切り者なのはわかった。
 …………他にも話さなきゃいけないことが」

「待ってちょうだい。
 …………あのね、わたし、生きて家に帰りたいの。
 わたしの家は、……ろくな家庭じゃないけれど、それでもわたし、生きていたいって願ったの。
 ………………いい? みんな。
 わたしを処刑しようなんて考えない方がいいわ。
 …………意味がないもの。わたしは、『村人』なんだから」
圭吾
「勝手なことばっかり言うなよ!!」

「いいじゃない、こんな状況なんだもの!
 勝手なことばかり言ってなにが悪いのよ!」
圭吾
「お前は生きていたいと思ったかもしれないけど、
 小日向だって同じことを思ってたに違いねえだろ!
 …………なんで、なんでよりよもよって小日向を売ったんだよ!
 あんなに小日向はお前に気を遣ってたのによ!」

「…………だから、邪魔だったからだって言ってるじゃない!」
圭吾
「くそやろう!!
 ……決めた、俺、和歌野に投票する。
 もういいだろう、投票に移ろうぜ!」
冬司
「待って、竜崎くんまで感情的にならないで」
勝平
「俺も和歌野に投票するぜ。
 …………お前のしたことはな、人の道を外れてんだよ。
 俺は曲がったことが大嫌いなんだ」

「人狼だって、……みんなだって、とっくに人の道なんて外れてるわよ!
 花菜に手をかけたのは誰!?
 初めに殴ったのは本堂くん、処刑したのは男子たち全員だわ!
 善人ぶってるんじゃないわよ!」
朔也
「待て、待てよ、落ち着け」
小桃
「そうよ! 言い争いに時間をかけるべきじゃないわ!」
美海
「あたしは、…………サキちゃんを許せないわ」
果帆
「…………あたしもだ。この、外道」

「なによ…………外道はあなたたちも同じじゃない!」
朔也
「ストップストップ!
 俺の話も聞いてくれ!」


全員
「……………………」


美海
「なあに、朔也」
朔也
「…………俺さ、共有者だって言ったろ?
 人狼を罠にかけたくてさ、もう一人は隠しておこうと思ったんだけど、
 ……人狼は頭がよくて、罠にかかりそうもない。
 それに、俺が殺されたら意味がなくなる。
 …………昨晩、人狼は俺の部屋を襲撃に来たんだ。だから、
 ………………もう一人を、証す」


全員
「……………………」


朔也
「……………………佐倉」
小桃
「…………もう一人は、あたしよ」


全員
「…………!!」


冬司
「佐倉さんが…………」
小桃
「ええ。
 夜の11時を過ぎると、乃木坂くんとは電話でやり取りができるようになってたの。
 全て、二人で決めて、実効していたわ」
朔也
「ほとんどは俺のお願いだった。
 でも…………俺は今晩、殺されるかもしれないから。
 だから、……佐倉には名乗り出てもらうことにしたんだ」
冬司
「じゃ、じゃあ、ちょっと待って。
 直斗と、朔也と、竜崎くんは元から村人と確定で、
 白百合さんが本物の占い師で確定して……、
 空太と、俺と、和歌野さんが村人確定。
 それで、共有者と確定してる朔也のカミングアウトがあって、佐倉さんが共有者として確定。
 …………ってことは、人狼は」
果帆
「…………あたしと、勝平と、七瀬って言いたいんだな」
和華
「ち、違うわ! わたしは人狼じゃない!」
勝平
「俺だって違ぇーよ!」
冬司
「…………でも、じゃないと、白百合さんを疑わなくちゃならないことになるんだ。
 …………でも、アキラか八木沼さんが占い師だった可能性は、8分の1なんだよ?
 俺は白百合さんを信用するね」
果帆
「ちょっと待てよ!
 確かに美海が嘘を吐いてるとは思わないよ!
 でもあたしは村人なんだよ!
 ……他に落とし穴はないのか?」
和華
「ちょっと待ってちょっと待って。
 …………頭を整理させて」
圭吾
「誰が人狼だろうと今日ばかりは関係ねえ!
 俺は和歌野に投票する! 絶対に!」
勝平
「…………悪いけど俺もだ」
冬司
「待って。勝利しなきゃ死ぬんだよ。
 …………短絡的な考え方をしないで」
勝平
「どう言われようと俺はこいつを許せねえ」

「…………無駄なことよ」
勝平
「なんだと!?」
小桃
「ちょっと待って。
 …………和歌野さん、無駄ってどういうこと?
 あなたは人狼陣営なんでしょう?」

「ええ、そうね。
 ……でもね、よく、考えてみて。
 今、生き残っているのは11人。3人が人狼で、他の8人は村人。
 幸か不幸か、……わたしにとっては不幸なことだけど、3人の人狼が誰なのか、目処がたったじゃない。
 どういうことかわかる?」
冬司
「…………うん、言いたいことはわかるよ」
直斗
「……なんだ?」
冬司
「……最大でも、5人が生き残ることができる。
 つまりね、ここで村人の和歌野さんを処刑すれば、最低でも、あと4日かかることになる。7人が死ぬ。
 でも、間宮さん、七瀬さん、勝平くんの3人を順に処刑していけば、
 今日を入れて、あと3日で終了だ。和歌野さんを入れて、6人の死亡で終わる。
 たった一人の違いだけど、本物の命がかかっている以上、この違いは大きい」
果帆
「………………」
和華
「………………」
勝平
「………………」


全員
「……………………」



「……………………」
冬司
「……でも、和歌野さんは人狼陣営でしょ。
 ……どの道、君は助からないことになるけど」

「…………一か八か、よ。
 本当にその3人が人狼なのか、わたしには知るすべもないわ。
 ……でもね、ここでわたしを処刑する意味はない。
 それは…………わかるわね?」
朔也
「…………確実に人狼を処刑した方がいいってことが言いたいんだな」

「…………そうね。
 わたしはその間、自分が生き残る方法を模索する以外ないわ。
 だからみんな……よく考えてちょうだい」


全員
「……………………」


空太
「……………………。

 ………………時間が……」
空太
(…………時刻は8時半を回っていた…………)



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