025.15日目『投票と夜の時間』


 ――――PM20:10、会議室

 ……………………。
空太
(8時を過ぎた…………。
 会議室に集まった俺たちは、1日閉じ籠っていた白百合を無言で待っていた。
 …………時計が、かち、かちと時を刻む音がする。

 …………やがて。重々しい扉を開けて、朔也に付き添われた白百合がやってきた……。
 目を、真っ赤に充血させながら…………)
小桃
「白百合さん!」
美海
「ごめんね、みんな、心配かけて……もう、平気だから」
結翔
「…………無理するなよ。大丈夫なわけないだろ?」
惣子郎
「すまない、白百合。
 どうしてもこの場は君が必要で」
美海
「うん、わかってる。ごめんね」

 ……………………。

空太
(小田切の提案通りに、事が進んだ。
 筒井、竜崎、直斗の3人に票が集まり、決選投票だった。
 …………当然、処刑はない。
 …………アキラの死は、不幸だったんだ。きっとなにかの間違いだったんだ)
圭吾
「……………………」
直斗
「……………………」
果帆
「…………ありがとな、3人とも」
直斗
「…………これで、いいんだ」
圭吾
「ああ…………」
惣子郎
「それじゃあ、今日の襲撃先だが…………、
 八木沼、…………すまない、頼む」
由絵
「おっけーだよ〜、
 用心棒の人、由絵をよろしくね〜?」
勝平
「由絵…………っ!」
由絵
「…………おやすみ、勝平。
 また明日ねえ〜?」
空太
(そう言って、八木沼はとっとと出て行ってしまった。
 …………拳を握りしめる勝平が視界の端に映った)
勝平
「……………………」
朔也
「…………俺たちも解散しよう」
惣子郎
「…………そうだな」
朔也
「…………美海、立てるか?」
美海
「うん、…………ごめんね」
果帆
「美海…………風呂に入って、寝よう」
美海
「…………うん」
朔也
「果帆……、美海を頼むな」
果帆
「ああ……」
小桃
「……………………」
空太
(白百合は、今度は果帆に付き添われて会議室を出て行った。
 …………解散の流れになっているのに、他には誰も、席を立たなかった)

「……………………。ねえ」
直斗
「うん…………?」

「みんな、触れたがらないけど。
 …………この中に、わたしたちの中に、アキラを殺した人がいるのよね。
 …………それも、3人も」


全員
「……………………」


花菜
「サキ…………」
惣子郎
「…………そうだ。たぶん。
 ……だが、もしかしたらアキラを殺ったのは人狼じゃないかもしれない。
 犯人が痺れを切らして…………殺ったのかもしれない」
勝平
「…………どういうことだ?」
惣子郎
「…………俺が見たところ、アキラは抵抗した形跡がなかった。
 例えばだが、睡眠ガスなんかを撒かれて、意識が朦朧としてる間にやられたのかもしれない。
 …………アキラを狙った理由は、中心人物を消すことと、…………白百合にダメージを与えることだろう。
 俺たちの間で、重要な立ち位置にいる二人だ」
冬司
「それは、俺も考えてたよ。
 アキラはいつも俺たちを引っ張ってくれたし、白百合さんは、癒してくれた。
 前にアキラが言っていたように快楽目的だとしたら、辻褄も合うよ。
 …………愛する二人を引き裂く、ってね……」
圭吾
「…………なるほど」
空太
「…………じゃあ、人狼がやったわけじゃないってこと?」
惣子郎
「その可能性もあるって話だ。
 …………だから、和歌野。
 あまり、そう言う言い方はしないでくれないか。
 …………みんなの疑心暗鬼を煽るような真似は、褒められない」

「………………そうね。ごめんなさい」
花菜
「で、でも、……サキが言ってることだって一理あるじゃん。
 …………否定することだって、できないでしょ」

「花菜…………いいの、やめましょ」
花菜
「サキ…………ごめん」

「…………わたしたちは失礼するわ」
惣子郎
「ああ。…………すまなかったな」

「いいえ。…………では」
花菜
「じゃあ…………ね」
空太
(和歌野と小日向は、やっぱり二人で部屋を出て行った。
 …………アキラを殺したのが、人狼じゃない可能性。
 それは、俺は考えなかったな。
 ……筒井も小田切もすごいよ、ほんとに)
和華
「…………用心棒は、今日はどうするのかしら」
勝平
「それは…………用心棒にしかわからないだろ」
圭吾
「……くそっ!
 やっぱり俺さ、思っちまうよ。
 惣子郎が言ってる可能性もあるのかもしれない。でもそんなの、誰もわかんねえだろ?
 やっぱり、人狼なのかもしれない。
 …………だとしたら、人狼も、……苦しんでるはずだ。
 用心棒がっ! 用心棒さえ、しっかりしてればよ!」
結翔
「それは俺も思うぜ。
 用心棒がちゃんとやってれば、白百合があんなに苦しむこともなかったのにっ!」
和華
「…………わたしは、どちらも、庇うことも責めることもできないわ」
直斗
「……そうだな。結局、手を下したのは」
勝平
「ああ。…………人狼だ。
 …………自殺するって手も、あったんだろうに」
冬司
「とにかく、様子を見るしかないよ。
 …………今日の夜、どうなるのか」
朔也
「…………きっと、不幸だったんだ。
 今日はなにもない。なにも…………。
 きっと由絵は、無事に明日も生きているさ」
勝平
「……そこまで楽観視はできないけどな」
空太
(…………みんな、アキラの死が受け入れられないんだな……。
 信じたい気持ちと、疑心暗鬼が、ぐるぐると回っていた。
 …………重苦しい空気の中、俺たちは解散した)





 ――――PM22:30、空太の部屋
空太
(寝支度を人通り整えた俺は、ベッドに横になった。
 …………お腹から、ぐうっと音がした。
 そう言えば昼、直斗と七瀬が作ってくれたオムライスを食べてから、なにも食べていない。
 ……こんなときでもしっかり、腹は減るんだな。
 …………時計を見ると、10時半を回ったところだった。
 あと、30分ある…………。

 俺は部屋を出た)





 ――――PM22:35、ダイニングルーム
空太
(ひとりダイニングに来た俺は、そこで、佐倉と出くわした)
「あ、…………佐倉」
小桃
「…………本堂くん」
空太
「どうしたの? こんな時間に」
小桃
「……たぶん、本堂くんと一緒」
空太
「え?」
小桃
「ふふ…………さっきまで、お風呂に入っていたんだけど、
 夕飯食べれなかったから、お腹、空いちゃって」
空太
「……それは完全に俺と一緒だ」
小桃
「ふふふ…………。
 ……ごめんなさい。笑ってる場合じゃないわね」
空太
「うん、…………でも、腹が空くってのは笑えるよ。
 アキラが…………死んだのに」
小桃
「………………。
 秋尾くん、弥重、それに道明寺くん。
 ついこの間まで普通に話すことができたみんなが…………もう、いないのね」
空太
「…………うん」
(この二週間は長かったけど、ついこの間までは、普通の…………高校生だったんだ。
 平和な、なにもない普通の日常だったのに…………)
小桃
「…………誰なのかしらね、犯人は」
空太
(そう言えばこの間、アキラと朔也と、泉沢千恵梨の話をしたんだ。
 …………佐倉は泉沢とは因縁があるし、ちょっと聞いてみようかな……)
「…………あの、さ」
小桃
「ええ」
空太
「この間、アキラと朔也と話したんだけど……、
 その…………泉沢が怪しいんじゃないなって」
小桃
「…………千恵梨?」
空太
「うん。…………犯人、と言うか、その……、
 ……リークしたんじゃないかって、俺たちのことを。
 怨恨が理由で」
小桃
「…………まさか。
 いくら千恵梨でも、そこまでしないわ」
空太
「でも…………泉沢が犯人に俺たちのことを教えたとすると、動機が見えてくるらしいんだ。
 …………朔也への異常な執着と、アキラへの憎悪。
 白百合と筒井への嫉妬。…………それに、佐倉も」
小桃
「……………………」
空太
「それにアキラは…………なんか、七瀬もその対象なんじゃないかって」
小桃
「ああ。…………和華にはね、千恵梨は敵わないから。
 …………あたしたちのグループがまとまってた理由、本堂くんはわかる?
 一見、千恵梨の統率力が優れてたように見えるけど…………本質は、和華が調節していたからよ。
 和華は気が回る子だから…………だから、千恵梨は敵わないの、彼女には。
 …………嫉妬はあったと思うわ」
空太
「…………そっか」
小桃
「…………でも、千恵梨は手段を選らばないところはあるけど、
 けど…………考えられないわ。そう、思いたい」
空太
「そうだよね、…………ごめん」
小桃
「平気よ。あたしこそ、ごめんね」
空太
「どうして佐倉が謝るの……?」
小桃
「…………うつっちゃったかな」
空太
「え?」
小桃
「ううん、こっちの話よ。
 …………それじゃあ、戻るわね。
 …………おやすみなさい、本堂くん」
空太
「あ、ああ! おやすみ……佐倉……」

空太
(佐倉と別れてから、俺もすぐに部屋に戻った。

 …………アキラ。
 …………なんだろうな。
 本当に、根拠もなく、アキラは殺しても死なないんじゃないかって、思ってた。
 図太くて、賢くて、飄々としてて…………そのアキラは、もう、いないんだ。
 少し涙が出た。…………ここへ来て、初めて出る涙だった……)





――――15日目、終了



【残り:15人】


PREV * NEXT



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -