は?
012.2日目『カラオケ大会』
――――AM11:00、リビングルーム
「どう? できそう?」
「大丈夫だと思うわ。
ね、道明寺くん」
「ああ。…………えーっと、マイクは二つか。
誰が先にいく?」
「そこは言い出しっぺの佐倉だろ」
「え、……あたし?」
「ええ〜いいじゃんいいじゃん〜!
はい、佐倉さん! 好きなの歌って♪」
「え、えっと…………でも…………」
「恥ずかしい?」
「……………………(こくり)」
「あはは、無理しなくても大丈夫だよ、佐倉さん。
先に男子行ってよ、男だろ〜?」
「そうよ」
「あちゃーそう言われちゃうと」
「おい、空太、やれよ」
「絶対に嫌だ。せめてみんな歌ってからにして、お願い」
「まったくもう空太は〜」
「うふふ」
「んじゃ、俺、いきまーす!」
「いいよ、なににする?」
「……どうすっかなぁ〜、
…………白百合、なに聞きたい?」
「それじゃ、盛り上がる曲がいいな。
『女々しいね』とか、どう?」
「おっけー!!」
「『女々しいね』っと…………入れたぞ?」
「ほら、マイク」
「女々しいね女々しいね女々しいね♪
痒いよ〜おおお〜〜〜♪」
「ひゅーーーー!!」
「いえーーーい!!」
「よっ、女々しいね!」
「………………」
「………………」
「おう朔也、乗ってるぅ〜?」
「おうよ」
(朔也…………確かになんか元気ないかも?)
「んだよ、疲れてんのか?」
「ああ、昨日あんま寝れなかったわ」
「仕方ないよ。
朔也、無理、しないでね?」
「あ、ああ、ありがとう、美海」
「はい次ーーー!
だれいく?」
「いけ、生徒会長」
「こんなときばかり俺に押し付けるな!」
「会長、七瀬が見てるぜ?」
「ふふ、筒井くんの歌、聴いてみたいな?」
(お、ちょっと意地悪な七瀬だ、珍しい〜)
「わかったわかった!
じゃ、スキマイッチの『楓』で」
「いいねえ〜!」
「キミが〜こど〜もに〜なって〜♪」
(こうして、順番に選曲していくことになった。
竜崎、アキラ、直斗、小田切、七瀬、佐倉、勝平、八木沼の8人が熱唱し終わり、今は和歌野と小日向がデュエットしてるところだ。
…………俺はどうしても嫌だったから最後に果帆と一緒に歌わせてもらうことになった……。
しょうがないじゃん、嫌なものは嫌なんだから)
「さーよな〜ら〜愛してる人〜♪」
「さーよな〜ら〜愛してる人〜♪」
「ず〜う〜と〜愛してる人〜♪」
「ずーうっとずーっとずーっと〜愛してる人〜♪」
「いえーーーーい!!」
「いえーーーーい!!」
「二人とも、上手いな」
「ほんと。和歌野さんのソプラノと小日向さんのアルトがすごく素敵だったわ」
「さっすが宝塚コンビっ!」
「やめて? その言い方」
「うちら別に意識してるわけじゃないからさ」
「でも、名物コンビだったけどね」
「周りが勝手に騒いでただけよ」
「まあ、和歌野さん可愛いし、小日向さんはかっこいいし」
「はは、そう言ってくれると嬉しいね」
「ほら、白百合」
「あ、あたしの番?」
「おう」
「美海は上手だから楽しみ〜」
「そんなに上手いのか?」
「ああ、たぶん、びっくりするぜ」
「では、白百合美海、いっきまーすっ!」
(そんなこんなで。
白百合が歌ったのは今1番女子高生の間で流行ってるR&Bの歌手のバラードだった。
……てゆーか、なにこれ、上手すぎる。
白百合の圧倒的な歌唱力に魅了された俺は、思わず感嘆の溜め息を漏らしていた。)
「白百合ってさ、何者なわけ?」
「ん?」
「顔はかわいい、スタイルは抜群、性格もいい、挙げ句の果てに歌も上手いって、なんだよ、同じ人間?
……すっげー憧れるー……」
「…………お前、あたしの親友と言えど、
仮にも彼女の前で他の女ののろけ話かコラ」
「え!? いやいやそんなつもりは」
「Hate That I Need You〜♪」
「ひゅーーーー! ひゅーーーー!!」
「ちょっと目黒がうるせえ」
「白百合さん、とても素敵だったわ」
「ふふ、ありがとう」
「俺の自慢の彼女だかんな」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
(やっばい、果帆めっちゃ睨んでる……)
「空太と間宮さんの番だよ」
「こいコラ」
「あわわわわわわわわ」
「???」
「さ、さんねんめーの目移りくらーい多目に見てよ〜」
「開き直〜るその態度〜が気に入らねえええんだよおおお!」
「さささんねんめーの目移りくらああい多目に見いてえよおお……」
「両手をつーいて謝ったって許してやんねえぞコラァァアア!!」
「うわあああああ」
「つつつーか! まだ一年! てゆーか全然目移りしてない!」
「おぉおぉ、彼女の前でノロケといてそりゃないぜコラ」
「褒めただけ! 褒めただけだって!
勘弁、マジ勘弁だってば果帆おおおお〜」
「歯ぁ喰いしばれやコラァ」
「なんだ? 夫婦漫才か?」
「なあにイチャついてるの?」
「しし白百合助けてええ〜果帆がああ〜」
「美海は気にするな、こいつの腐った根性叩き直してるだけだ」
「違うの! 俺は白百合すごいねって褒めただけなの!」
「ちょちょちょ、痴話喧嘩の原因はあたし?
ちょっとやめてよ〜」
「だってこいつがあ!」
「もう〜果帆〜本堂くんのこと大好きなのはわかるけど、
美海を困らせちゃだぁめぇ〜」
「おおおおおい/// 由絵っ/// このっ///」
「きゃあ〜こわーい〜」
「ああ、助かった…………」
「ふふふ」
「さて、これで一週したか?」
「えっと…………乃木坂くん、歌った?」
「いや、まだだけど…………」
「はあ!? お前ひきょーだぞ!
なに歌うんだよっ!」
「…………えーっと」
「待って。
…………乃木坂くん、顔色がよくないわ。
体調が悪いんじゃない?」
「…………いや、悪いわけじゃないんだ」
「なんだよ朔也、寝不足か?」
「まあそんなとこだ」
「…………昨晩よく眠れなかったって言ってたもんね。
無理しなくていいのよ? 部屋で休んだら?」
「ごめんな、心配かけて。
……ほんとに、大したことじゃないんだけど、
すこし寝て来てもいいか?」
「うん」
「こんなときに風邪でも引かれたらたまったもんじゃないしさ、
休めよ、朔也」
「悪いな、ありがとう」
「自己管理はしっかりな」
「ああ。…………じゃ」
「朔也…………」
「寝不足だってさ。さっき、話聞いてた」
「本人から?」
「うん。なんか、様子が変だなって思って。
…………気付いたのは俺じゃないんだけどさ。
佐倉が、なんか、変じゃないかって」
「…………へえ〜、佐倉がねえ……。
…………話したんだ?」
「ああ、うん。…………それだけだよ?」
(果帆には、昔佐倉のこと気になってたこと、話したことあるんだよな。
…………変に誤解されなきゃいいけど)
「…………そうか。
……佐倉、まだ朔也のこと好きなのかな」
「それは俺も思った。
…………どうなんだろうね」
「律儀なことだな。
…………まあ、それは晶や朔也にも言えることだけど」
「…………確かに」
(ってことは、やっぱり朔也はまだ白百合が好きなんだな。
…………好きな子の彼氏が、自分の親友。
……朔也にもきっと、誰にも言えない思いがあるんだろうな)
「…………さて。気を取り直して。
次だれいく?」
「んじゃ俺いくー!」
「はいよー」
(こうして、カラオケ大会は大盛り上がりだった。
……………………。
………………………………。
状況を忘れているわけじゃない。
たぶんみんな、こうして無理にでも盛り上がらないと、脳裏に蘇るんだ。
昨日死んだ秋尾のこと、人質になった都丸のこと。
…………忘れたわけじゃない。犯人を許したわけじゃない。
でも…………でも…………。助けがくるまでは、こうでもしないとやってられなかったんだ)