030.16日目『夜の時間』


 ――――PM21:10、死体安置所
空太
(………………………………。

 目黒の遺体は、『死体安置所』と称された部屋へ男連中が運んで行った。
 …………俺は、なにもしていない。
 …………ただ、後ろを着いて行っただけだ。
 本当は手伝わなきゃダメだったのに、脱力感がひどすぎて動けそうもなかった。

 目黒は、秋尾が閉じ込められているロッカーの隣へ、並ぶように押し込められた。
 …………さっきまで生きて騒いでいた目黒は…………死んだんだ。俺たちが殺したんだ)
冬司
「…………戻ろう」
朔也
「そうだな…………」
空太
(死体安置所をみんなで出ようとしたところで、直斗がみんなを引き留めた)
直斗
「待ってくれ! 俺、俺やっぱり、納得いかねえよ!」
惣子郎
「直斗…………もう、始まってしまったんだ、後には戻れない」
冬司
「そうだよ、直斗。
 …………俺だって、悔しいけどさ。結局、犯人の思うがままなのは」
直斗
「…………本当に悔しいと思ってるか?」
冬司
「え?」
直斗
「だってお前…………お前さっき、なんか生き生きとしてたろ。
 ゲームをやりたいって一番思ってるのはお前なんじゃないのか?」
冬司
「…………一番ゲームをしたがってるのはさ、
 …………用心棒でしょ。用心棒がこの事態を招いたんだから」
直斗
「じゃあ…………お前が用心棒なのか?」
冬司
「どうしてそうなるの?」
直斗
「……じゃあ、人狼か?」
空太
(直斗は珍しく、感情的になってるみたいだった。
 泣きそうな顔でそう問い掛ける直斗に、小田切はうんざりしたような表情で応えた。
 …………こんな顔の小田切だって、珍しいことに違いはないんだ)
冬司
「なんの変鉄もないただの村人だけど、残念ながら。
 …………俺が人狼や用心棒だったら、もっと地味に振る舞うね。
 …………自分の意見述べてただけで、楽しそうとか言われても。
 本当に…………この状況を俺が楽しんでると思ってるの?
 仲の良かった目黒くんを殺して楽しんでると思ってるの!?」
空太
(ついに小田切は声を荒げた。
 …………そりゃそうだ。そんな不本意なこと言われて、俺でも黙ってられるわけがない)
直斗
「…………すまん」
冬司
「…………俺の方こそ」
惣子郎
「とにかく…………戻ろう。
 今は女子が入浴しているが…………戻ったら、シャワー浴びて少しでもさっぱりしよう。
 …………こんなところにいつまでもいたくない」
圭吾
「……そりゃ、違いねえや」
空太
「……………………」
(…………俺たちは死体安置所を後にした)





 ――――PM10:00、空太の部屋
空太
(入浴を済ませた俺は、自室の扉を開けた。
 …………すると)
「…………果帆」
果帆
「おう…………悪い、ひとりじゃいられなくて。
 勝手に部屋入っちゃったけど…………ごめん」
空太
「いいよ、俺も、そうだったから。
 …………ありがとう」
果帆
「…………空太、こっちに、来てくれるか」
空太
「…………うん」
(俺たちはベッドに並ぶように座り込んだ。
 先に入浴を済ませた果帆からは、俺と同じ石鹸の良い香りがした。
 …………それだけでも、すこしは心強かった。

 …………果帆が、頭をそっと俺の肩に乗せた。
 珍しい、こんなことをするなんて)
果帆
「美海が…………」
空太
「…………うん」
果帆
「空太のこと、村人だって…………」
空太
「…………うん」
果帆
「…………あたしさ、サキよりも、美海を信じたいんだ。
 …………お前のこと、村人だって言ってくれたのもそうだけど、…………大切な親友だから」
空太
「…………うん」
果帆
「…………もう、誰も失いたくない。
 アキラと由絵みたいに…………あたしの大切なもの、なくしたくない」
空太
「…………うん」
果帆
「…………でもさ、もし目黒が人狼だったとしても、
 あと、二人も残ってるんだよな。
 最短でもあと、二日かかる。あと、4人死ぬ」
空太
「…………考えたくないけど、そうだね」
果帆
「…………人狼は今日誰を狙うんだろう。
 …………そして、用心棒は誰を守るんだろう」
空太
「人狼も…………初めて自分の意思で狙うんだもんね」
果帆
「…………うん。
 筒井、竜崎、直斗、朔也…………美海、サキ…………この中の誰かだろ。
 下手したら、美海か朔也か、直斗が死ぬんだ…………」
空太
(ぽとぽとと、俺の肩に温かい雫が零れ落ちていた。
 …………果帆は中々弱味を見せない。
 …………そんな彼女が俺にだけその姿をみせてくれるのは…………愛しくてたまらなかった)
果帆
「……………………空太」
空太
「…………大丈夫。きっと生きてる。
 ちゃんと人狼を探して、早くここから出よう。
 …………俺も、ちゃんとするから、だから…………」
果帆
「…………ありがとう、空太」
空太
(…………果帆はそうして、落ち着くまで俺の肩で泣いた。
 しばらくして落ち着いたら、涙を拭いて戻って行った。
 …………いつもの、気の強そうな凛とした表情をして)
空太
「……………………」
(…………初めての処刑。思い出すと、手が震える。
 みんなで目黒を押さえ付けて、勝平がスタンバトンで殴って、…………そして首を吊らせた。
 いつも、白百合、白百合って、露骨で、でも照れてるのがどこか憎めなくて、素直だったあいつを、俺たちは殺したんだ。
 …………俺は手を下してないけど、俺だって人殺しの仲間入りだ)
空太
「……………………」
(俺は目を閉じた。
 …………バカみたいに、泣けてきた。
 ひとしきり泣いていたら、いつの間にか、眠りに落ちていた……)





――――16日目、終了



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