021.9日目『弥重の死』


 ――――9日目、PM20:00、会議室

皆さんには失望しました。



空太
(会議室のテレビには、そう一言だけ表示されていた。
 シーンとしてから、徐々にざわつくみんな。

 …………画面が一度、砂嵐にかわる。
 ………………そして)
小桃
「や…………弥重……?」
勝平
「都丸…………」
空太
(画面には、目隠しをされ、椅子に縛り付けられた都丸が映っていた。
 俺たちが穏やかに過ごしていたこの数日間、ろくに風呂もご飯もさせてもらえなかったんだろう。
 元々華奢だった都丸の頬は更に痩せこけ、髪の毛は油でべたついていた)



弥重
《う…………うぅ、》



空太
(画面の中の都丸は、そう呻き声をあげた。
 …………よく見ると、都丸が座らせられてる椅子は、どこか変だった)

「くっそ! 電気椅子だ!」
花菜
「な、なんだって!?」
結翔
「うそだろ…………」
美海
「いゃっ……!」



弥重
《………………………………。
 ぅ、ぐ、ぐぐぐぎゃああああああああ!》




空太
(途端に、都丸は体をがたがたと激しく震わせ、悲鳴を上げた。
 まるで…………まるで、この世のものとは思えないような、地獄の断末魔のようだった。
 …………俺は思わず耳を塞いでいた)
空太
「っっ――――――!」
惣子郎
「やめろぉおお!! やめてくれえええ!!」
小桃
「いやああああああ弥重えええええ!!」
結翔
「うわあああああああああああ!!」



弥重
《ああああああああああああああああががががががががが!
 がががぎががががががががぁぐがががぎゃぐががががががー!》




果帆
「はぁっ……はぁっ……はぁっ」
朔也
「……………………うぅ」
和華
「っ………………っ」
空太
(果帆は過呼吸のように荒い息を繰り返し、朔也は口元を必死で押さえつけ、七瀬は耳を塞いで倒れ込んだ)
美海
「ひぃぃ、…………ぇっく…………うぅ」
由絵
「うわあああん! うわあああん!」
空太
(白百合は耳を塞いで泣きじゃくり、八木沼は大きな泣き声をあげていた)
圭吾
「くそっ! くそっ! くそっ!!」
空太
(竜崎は野球に使う大切な腕で、何度も何度も壁を殴っていた)
勝平
「……ちっくしょう……ちくしょう…………」
空太
(勝平は、膝から崩れ落ちて床に何度も頭を打ち付けていた。

 ………………、やがて)



弥重
「…………ぐ…………ぐ…………」



空太
(…………都丸は徐々に、徐々に、大人しくなっていった……。
 体から煙を立てて、黒こげになって…………そして、死んでいった…………。
 でも、電気椅子の衝撃だけはまだ受けているんだろう。体はまだ激しく揺れたままだった)
空太
「はぁ…………はぁ…………はぁ…………」
(画面がまた一瞬砂嵐にかわり、そして、文字が表示された)

都丸弥重さんは死亡しました。

皆さんのせいです。


空太
(その言葉と共に画面は暗幕した)

 ………………。

 …………………………。

 ……………………………………。


空太
(…………30分経った。
 今は会議室の椅子でみんな円を囲むように座っている。
 ……みんな、放心状態に近かった)
美海
「うぅ、ぅぅ…………」
由絵
「ぇっく…………うぅぅ」
小桃
「………………っ」
空太
(白百合と八木沼と佐倉は、ずっと啜り泣いていた)
冬司
「………………もう、時間がないよ」

「…………そうだな」
冬司
「どうする? 今日の投票……」

「今まで通りやるに決まってんだろ!!!」
空太
「っっ!」
(みんな、びくりと体を震わせた。
 アキラが声を荒げたからだ。
 怒鳴られた小田切とアキラのにらみ合いが続いた)
朔也
「アキラ…………」
冬司
「……………………」

「……………………」
冬司
「……………………」

「…………すまん」
冬司
「……いいよ」

 ………………。



「…………とにかく、今日は普通通りやろう。
 今まで通り…………今まで通りだ…………」

 …………………………。



「…………いいか?
 …………都丸は、死んだ」
小桃
「!!」
勝平
「…………くそっ!」

「もう、人質はいない。いないんだ…………」
惣子郎
「…………アキラの言う通りだ。
 だが、…………だが……」
和華
「…………そんな風に、割りきれないわ」
結翔
「……………………。
 …………うわあああああああああああ!!」

「っっ」
直斗
「――――!」
空太
(途端に目黒が奇声を上げた。
 目黒は席を立つと、喚き散らしながら壁をぶん殴った)
結翔
「くそやろぉおおおおお!
 ちくしょう、ちくしょおおおお!
 ああああああああ、あああああああああああああああ!!

 ……誰だよ……誰なんだよぉぉ……!
 ここから出せよ……! 出してくれよぉおおおお!
 あああああああああああああああああああ!!」
由絵
「……ああああああああああああああああ!!
 出してぇええええ! うわあああああああああああ!!」
惣子郎
「落ち着け!」
果帆
「由絵っ……!」
由絵
「ううう、ええええええん果帆おおおお!
 ううううううううううぇぁううぅぅ……!」
美海
「由絵……っ、由絵ぇええ……っ」
由絵
「美海いいいぃいい、うわああああん!」
圭吾
「目黒…………」
冬司
「目黒くん……」
結翔
「くぅ、うううううううううう!!」
勝平
「……………………」
空太
(……勝平は、周りがこれほど騒いでいるのに放心状態だ)

「…………花菜」
花菜
「……うん…………サキ…………」
空太
(小日向と和歌野は、互いの手を強く強く握り締めていた)

 ………………。

 ……………………。



「い、っせーの、っせ…………」


全員
「……………………。」

空太
(…………今日は、直斗と朔也だった。
 決選投票に持ち込んで、処刑は、なしだ)
果帆
「……画面が」

皆さんの考え方はよくわかりました。

本日の処刑者はいません。

ごゆっくりおやすみください。


空太
「…………ゲームの強要はしないんだな」
朔也
「…………ああ」
惣子郎
「……………………。
 …………みんな、休もう」
結翔
「無理だよ!
 あんなん見せられて、俺……、俺…………」
美海
「結翔くん…………」
結翔
「白百合…………俺、俺…………」
美海
「うん……うん…………、
 みんな、同じ気持ちよ…………」
勝平
「俺…………先に、休むわ…………」
直斗
「あ、ああ」
由絵
「待ってよ勝平!
 由絵のそばにいてよぉ!」
勝平
「よせよ、…………ひとりになりたいんだよ」
由絵
「でも由絵は、あんなの見せられて不安でしょうがないよぉ!
 勝平がそばにいてくれなきゃ、あたし……あたし…………」
勝平
「……ごめんな…………。
 …………白百合、由絵を任せられるか?」
美海
「…………うん……」
勝平
「…………大丈夫か?」
美海
「うん…………」
由絵
「やだあ!
 お願い、由絵のそばにいてよ、勝平!」
勝平
「いい加減にしてくれよ!
 俺だって疲れてんだよ! わかるだろ!?」
由絵
「っっ!」
勝平
「………………」
由絵
「う、うわあああああああん!!」
美海
「由絵…………」
勝平
「…………うるさいんだよ!」
果帆
「あ! 勝平!」
美海
「勝平くん!」
空太
(…………勝平は、八木沼を無視して走って出ていってしまった。
 ……わかる。勝平だってショックなんだ。
 責めることなんてできない、誰も)
由絵
「うう…………えっく……」
果帆
「由絵…………しっかり……」
由絵
「うぅ…………うぅう…………」
美海
「由絵……休みましょう」

「ちょっと待った。
 …………わかってると思うが、今日の襲撃先は俺でよろしく頼む。
 ……勝平が用心棒じゃないことを願うばかりだな」
空太
(今日は…………アキラか。
 順番的に、そっか…………)
美海
「わかったわ。…………あたしたち、部屋にいるわね。
 …………由絵、立てる?」
由絵
「うう……ごめんねぇ…………美海もっ、ショックなのにっ……」
美海
「うん……うんっ」
空太
(そうして、白百合と八木沼は出ていった……。
 果帆は会議室を出ていく二人の背中を見つめていた。
 強く、強く唇を噛み締めて…………)
惣子郎
「みんな、疲れてるんだ……。
 ここへ来て、もう9日になる。
 …………本当に助けは来るのか……」

「…………来ると信じるしかないだろ」
冬司
「……そうだね。
 …………アキラが言ったように、人質もいなくなったわけだし。
 犯人は、無理に俺たちに殺し合いをさせたいわけじゃないみたい」
小桃
「……小田切くん…………言い方に、気を付けて」
冬司
「え?」
小桃
「…………人質が、いなくなったって」
果帆
「…………そうだ。
 今のあたしらには、現実を突き付けられるのは、辛くて堪らないんだ……」
冬司
「…………ごめんね」
空太
(もう、…………みんなぐちゃぐちゃだ。
 都丸のあんな映像みたら、誰だって気が滅入る。みんな、同じだ。
 俺も…………悲痛な面持ちの果帆を、なにも元気付けてやれない。
 秋尾のときは、一瞬の出来事だった。
 でも都丸は…………なぶり殺しにされたんだ。
 犯人への怒りと恐怖で、どうにかなってしまいそうだ…………。
 …………本当に、助けはくるのか…………)
和華
「……………………」

「…………とにかく、ここから出よう」
朔也
「そうだな…………」
空太
「……………………」





 ――――PM21:00、リビングルーム
空太
(リビングに戻っても、重苦しい空気はなにも変わらなかった。
 今は目黒も落ち着いて、誰も、一言も喋らず、時だけが過ぎていく…………)
果帆
「…………あたし、シャワー浴びてくるな」
直斗
「…………ああ」

「…………ひとりで行くの?」
果帆
「ああ、でも、もう9時過ぎてるし、一人ずつじゃ厳しいよな。
 サキと花菜もくるか?」
花菜
「…………そうだね。そうしようかな」

「…………そう、ね」
和華
「…………軽くでいいから、わたしも行こうかしら。
 …………なにもかも、洗い流したい気分だわ」
惣子郎
「……いいぞ。女子、先に入ってくれ。
 …………佐倉も。5人なら入れるだろう」
圭吾
「…………俺らも、適当にやるからさ。
 行ってこいよ」
和華
「…………ありがとう」
小桃
「…………それじゃ、あたしも行くわ。
 …………みんな、早く、休みましょう」
空太
「…………佐倉」
小桃
「? どうしたの、本堂くん」
空太
「あの…………あの、ひとりで抱え込んじゃダメだよ。
 無理しないで…………果帆も……」
果帆
「…………ああ、悪いな」
小桃
「ありがとう、本堂くん。
 …………それじゃ」

 ……………………。



「…………俺は、明日の朝入るわ」
空太
「…………俺もそうしようかな」
直斗
「俺はあとで……シャワーだけでもしてくる。
 …………なんだろうな、身体中が不快なんだ、無償に」
冬司
「…………わかるよ、その感覚。
 ……目黒くんもさ、シャワーだけでも浴びようよ。
 すこしはさっぱりするよ」
結翔
「……………………」
惣子郎
「…………各自、自由にしよう。
 今日くらい……自由に、なろう」
圭吾
「ああ…………俺もひとりになりたい。
 ……でも、ひとりでいるのも不安だな。
 目を閉じると…………どうしたって、あの、都丸の姿が……」
朔也
「言うなよ。俺だって同じなんだ……。
 …………どうしたらいい、俺たちは」

「…………大人しく、助けを待つしかない。
 何日かかろうとも。必ず来ると、信じるしかない。
 もう、なにに気兼ねする必要もないんだ。
 みんな…………少しずつ、少しずつでいいから、また」
惣子郎
「ああ。…………これまでと、同じように。
 こんな場所だけど、また、笑い合えるように」
朔也
「それじゃ、…………俺、戻るな。
 また、明日…………」

「ああ、また…………」

空太
(そうして、みんな、各々戻って行った。

 俺も…………ひとり、部屋に戻ってベットに横たわった。
 …………竜崎が言ったように、目を瞑ると、否が応にも蘇ってしまう、都丸のあの姿…………。
 あんなものを見せられて、みんな、明日からも普通になんてできるのか?
 俺は…………できる自信がない。

 …………果帆。果帆に会いたい。
 でも…………彼女を元気付けてやることもできない。

 でも、…………こんなに心細い夜は、初めてだった)





――――9日目、終了



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