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ジャンル入り混じります。ご了承ください。
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The last final 9
(ロキド) 2012/12/20

「…おれは、お前のトラファルガー・ローじゃねェ」
「ッ…ぅ…、…ア…」
縋りたくて伸ばした手は届かない。冷えた目に射竦められてどっと冷や汗が流れた。
息苦しくなり喉を引きつらせると彼の吊りあがった唇は嘲り笑う。笑わない双眸は鋭さを持ったまま、歪む唇と声だけが楽しげに弾んだ。
「抱かれてたのか?おれに」
気が遠くなり、項垂れそうになる頭を彼が持つ刀で顎を掬われて無理やり顔を上げさせられる。虚ろになる目に無理矢理彼の姿をとらえ汗なのか涙なのかわからないものが頬を伝って行く。
「恋人だったトラファルガー・ローが恋しいなァ…ユースタス屋。お前の死んだローと、おれとを重ねてどうしたい?抱かれたいか…愛の言葉が欲しいか?恋愛ごっこでもしたかったか?」
「ゥ、ッ!あっ…ハァッ…はぁ、はあ…!」
彼の手放した刀が、がしゃりと音を立てて床に落ちた。彼は身を屈めると息苦しさに喘ぐおれの額に落ちる前髪を掻き上げてくしゃりと掴む。
間近に顔を覗きこまれ、どこまでも"同じ"その姿の彼が目に焼き付いた。
「フフ…。そうだな…宿を貸してもらった礼くらいしてもいい」
合わさった唇から熱い舌が入りこむ。いつの間にか弛緩した躰は抗うこともなく、背中に冷たい床を感じていた。
彼の肩越しに天井が映り、躰も吐息も熱いのに気持ちばかりが冷えていく。

欲しい言葉を与えてやろうかと酷く甘くて優しい声は唇で飲みこんだ。
ただせめてもと自ら触れた彼の躰は、指に、掌に歪な傷を感じさせる。ぼんやりと見つめた肩には濃い赤が白い包帯に浮かんでいた。
「トラ、ファ……ぁ…」
硬く閉じた目尻から未だ枯れない涙がこぼれていく。
おれの耳が、躰が感じるのは、弾む息、熱い躰、微かに漏れる低い声だけ。

きっと次に目を開けた時には彼の姿はないんだろうと思っても目を開けることはできなかった。






The last final 8
(ロキド) 2012/12/19

刀半分を鞘から抜き、刃を確かめる。視線を左右に振り、納得がいったのかパチンと小気味いい音を立てて刃を収めなおした。その一連の動作が様になっていて見惚れると同時に、扱いなれた手つきに背中が寒くなる。
「何故隠していた?」
「そんなモン…見つかったら銃刀法違反で捕まっちまう」
「…なるほど。武器の所持が許されてないのか」
頷きながら刀をベッドに放り部屋中を見回した。
「おれの服は?」
「ん…」
彼を連れ帰った時、雨に濡れた服は脱がせて、下だけはおれのスウェットを着せて寝かせていた。傷の深かった肩を動かすのが怖くて上着は着せられなかったが布団に寝かせていたから問題はないだろう。
彼が来ていた服は洗って乾かしてある。
「着れるか?」
「…まぁ、問題はねぇ」
躰の傷の分、服にも破けやほつれが出来ていた。血は落ちにくく所どころに薄く染みにもなっていたが彼は気にせずに身に着けた。懸念していた肩も、怪我を思わせないほどに上げ下げしている。
「世話になったな…」
「…どこか、行くのか?」
「当てはねェ。だが何もしねぇわけにもいかない。おれにはやることがある」
「……そうか」
「この世界のおれに会ってみるのも面白そうだ…フフ。平和なこの世界で何が面白くて生きているんだろうな」
目深に帽子をかぶり、刀を肩に掛けて担ぎながらアルバムを見下ろして嘲りを含んだ声で笑う。
写真に写るローと、ここに立つトラファルガー・ローは同じようで全く違うのだ。
そんな彼がなんとなく発した言葉に爆発的な怒りを覚える。気づけば涙を堪えていた。
「……、ローは…もう」
「…?」
「生きてなんかいねェ…っ」
涙で震える声は彼に届いたらしい。どういうことだと、寄越してくる視線を睨むように見返しながら、今日まで誰にぶつけることもできなかった憤りにも似た焦燥感と喪失感とを彼に吐きつける。

「1年前に、死んだ…!」

悲しい、淋しい、恋しい。
ボロボロと止まらぬ涙を流しながらそれでも彼から目を逸らすことができなかった。
ローとは違う。でも姿はそこにある。

「ロー…!」


縋るように呼んだ名前に、返事はない。
帽子の影が暗く落ちる彼の表情は涙でぬれた視界にぼやけて写った。






The last final 7
(ロキド) 2012/12/18

「参ったな…」
チッ、と舌を打つ音が静かな部屋に響く。アルバムをテーブルに戻し、少し冷えたコーヒーを口にした彼は一人ぼやくとどこか遠くを見た。
「ここには海賊はいるのか?」
「……海賊…?」
「…海賊を知らねェか?」
「いや、知ってっけど」
消えそうな独り言の後に、明瞭な問いかけをされて少しだけ驚いた。その問いかけの内容もすぐには反応できずに首を傾げる。
海賊と聞き、某映画のようなのもを想像してしまうが海のならず者なら今もたまにニュースになる。商船を襲い人質を取り、国を巻き込んだ大事になるのもしばしばだ。
しかし、それは途上国や貧困な地域で起きる事件である。
「ここはどこの海だ」
「…海域ってことか?」
「グランドラインを知っているか?」
「知らねぇ」
「……おれの知ってる世界は偉大なる航路と赤い土の大陸に4つに区分され、海賊のほとんどは偉大なる航路を目指す。おれはグランドラインの後半…新世界に居た」
「……」
「フフ。どれも分からねぇって顔だな」




「どうやら、ここはおれの知る世界と違うらしい」
「…は?」
間抜けな声が出た。その言葉の意味が理解出来ずに口を閉じてしまう。
「信じろ、とは言わない。この世界じゃどんな扱いを受けてるかわからねェがおれは海賊だ」
こことは"違う世界"のことを話す彼は焦りもせずに口元に笑みを乗せていた。
海賊…と閉じた口の中で繰り返しながら、彼と一緒に持ち帰ったあの刀を思い出す。現代の海賊も武器を振りかざし略奪の限りを尽くすのだ。
「そこに何がある?」
「っ、あ」
無意識にシーツでくるみ隠していたそれに目を向けていた。目聡く気づいた彼が手を伸ばしシーツを剥ぐ。するりと現れた長い刀が彼に渡ったことで危機感が増し身が強張る。
彼はそれを手に取り笑みを深めた。
「こいつもここにあったのか」








The last final 6
(ロキド) 2012/12/14

昨日あれから目を覚まさなかった彼を寝かせたまま、切らした包帯や消毒液などを買いに出た。それから少し食糧を買って急いで帰る。
いつ気が付くかわからない相手を放っておけるはずもないからだ。

「動くな」
そうして帰宅すると、ものすごい力で引っ張られ壁に押し付けられていた。昏々と眠っていた彼がまさか目覚めているとも思わなかったが、眠りの妨げにならなようにできるだけ音をたてないように足を忍ばせたのにまるで…いや、気が付いていたんだろう。
正確に伸びてきた手に掴まれ、口を塞がれた。
痛みと、怯えで目を閉じていると低い声に脅される。こんな声…聴いたことはなかった。
それなのに声は確かにあいつを思い出させる。
そろりと目を開けるとあの日から焦がれ続けた姿があった。違うと分かっているのに嬉しさを感じて躰が強張った。
射殺すような眼が、少しだけ見開かれたような気がした。




霧雨が降る外を窓から見下ろす彼は、それから何か思案するように黙ったきりだ。
声を掛けるのも憚られ買ってきたものを袋から出して仕分けた。その間にも火に掛けていたお湯が沸き2人分のコーヒーを入れて、彼の分をテーブルに置いた。
ガラスのテーブルにコツリとマグカップの底が当たり音が鳴る。ゆっくりと彼は振り返り湯立つそれを見下ろした。
「……」
窓際から足を運びテーブルへやってくると手を伸ばす。だが、掴むと思ったマグカップには触れずにその先のアルバムを手に取った。
「あ…」
「これをさっき見せてもらった」
最初の作ったような低い声ではない、おそらく彼の普通の声が聴けた。心地よく耳になれたその声はもう2度と聞けない筈だった。
「ユースタス・キッド」
名前を呼ばれドキリとする。なぜ…と思うがそうだ、彼はアルバムを見たのだ。名簿も載っているのだからそれで知ったのだろう。
頷くと何故だか彼は困惑の色を濃くした。

「トラファルガー・ローだ」

あの声が告げるその名に下げた視線を思わず上げた。こちらを見据える双眸と視線が絡み、ドクリと胸が鳴る。
「だが、これはおれじゃない」
アルバムに挟まれた"ロー"写真を見て彼は眉間に皺を寄せ言い捨てる。
写真の中、おれの隣に写るローは柔らかな笑みを浮かべていた。






The last final 5
(ロキド) 2012/12/13

怯え竦む躰。驚愕と恐怖に揺らぐ瞳は、それでもおれを見据えていた。
こんなに弱弱しくて似つかないのに、とても似ている瞳…矛盾だらけだ。




テーブルに置かれていたのはアルバムだった。同じ制服を着た、学生だろうか。卒業アルバムと書いてあるからそうなのだろう。そして、それに挟まれた数枚の写真。
困惑するには十分すぎた。他人の空似…?いや、それでは片づけられない。気持ち悪いほどに似ていた。
おれと…他にも何人かの知った顔が載っている。だがありえない、覚えがない。知らない…なんだこれは。
「……」
ぱたん。と静かにアルバムを閉じてテーブルへと戻す。部屋の外から微かな音とドアの開く音がした。



「動くな」
「…なっ、んっ……!?」
そっと足音を忍ばせて入ってきたそいつを捉えて壁に押し付ける。声を上げられては煩いからと顎を捉え口を塞ぐことは忘れない。いっそ顎を砕くほどに強く掴み固定した。
捉えたのは男で、痛みに呻いているが予想外のことに恐怖してか抵抗らしい抵抗はせずにいる。
衝撃に顔をしかめ閉じていた目がゆっくり開き、そこで合わさった瞳にギクリと躰が強張った。それはおれも、この男も。
「……ぅ」
「…お前が、この部屋の主だな?」
「…、ぅ、う」
瞬きをするのを忘れたのか、苦しさと頬を掴まれ痛みに瞳を揺らす男は喋れない代わりに喉から微かに音を出し、何度か頷いた。
ふ、と鼻から抜ける声は苦しげで拍子抜けするほど敵意も何も…ない。怯えと困惑の色ばかりが濃く、躰は震えていた。
「手を放す…が、妙な動きはするな。声を上げるな」
壁に押し付けていた力を抜き、口元から手を放してやる。男は はぁ、と大きく息を吸い込み、躰が自由になっても壁に背を預けたまま動かなかった。
「おれはどうしてここに居る?」
どう言う経緯で、腹積もりでおれを匿ったのかは知らないが、救ってもらったのは理解している。だが生憎と裏の無い善意とは無縁の世界で生きてきた。結果、恩を仇で返すことになろうとも疑いを持たずに接するなんてことは出来なかった。
それが、知った顔に似ているなら尚更…。
「…少し、離れた道に倒れてた…から」
「どれくらい眠ってた」
「……丸1日くらい」
閉め切られていたカーテンを開くと思った通りの雨空と靄がかった界隈が見える。
がさりと音がして振り返ると、さっきおれが壁に押し付けた際に落としたのだろう袋を拾っている姿があった。本人は極力音をたてないように務めていたが袋の質上、無理だろう。それを咎める気はなく目を逸らした。
「悪かった」
「え…?」
「普通にしていい」
見下ろした街並みはとても不思議に思えた。雨日よりだからか閑散としているが、今まで見てきたどんな島の街並みとも…どこか違う。
立ち竦んでいた男が漸く躰を動かし始めたころ、男に悟られぬようにそっと溜息をついた。






The last final 4
(ロキド) 2012/12/12

目の前で散った鮮やかな赤。
バタバタと顔に降り注ぎ、視界を眩ませた。咽返るような生臭い鉄錆の臭いは返って己を冷静にさせる。
ぐしゃりと地に這った赤色はそれきり動くことはない。
もう、二度と動かないのだろうな…と、妙な確信があった。


「ぅ、ぐ…げほっ、げほ…!」
ばちりと開けた視界に見覚えのない天井が飛び込んでくる。詰まった呼吸に盛大に噎せて慌てて身を起こし咳込んだ。
途端に躰のあちこちが痛みギシギシと軋み、吐くばかりの息を無理やり吸い込むと喉がヒュッと高い音を出した。気管が冷たく傷むが、徐々に呼吸が落ち着くと視線だけで辺りを見回した。
見知らぬ部屋だ。薄暗く灰色の世界。閉め切られているが遮光ではないカーテンは外の明るさがほんの少しだけわかる。耳が拾うシトシトと濡れた音に今は雨が降っているのだと気づいた。
どうやら少なくとも夜ではない、雨の日よりで薄暗い時分らしい…。
様々な気配を探りながら、自分の現状を確認する。躰のあちこちが突っ張るのは巻かれた包帯やテーピングの所為らしかった。
その中で、右の肩がジクジクと熱を孕んだ痛みを持っている。薄らと白に溶け込んだ色を見るに塞がっていない傷から今も血が流れているんだろう。
それから思考を散らかそうと邪魔をするのは熱だ。雨のせいか湿気と自分の体温が生ぬるく感じられる。どうやら自らの熱でのぼせているようだった。
「それにしても…」
どこだここは。意識を失う前のことを思い出そうとして、先ほど見ていた夢を思い出した。
夢…ではないか。確かに目の前で散った赤色に、あちこちで上がる怒号、臭いさえ覚えている。どうしようもない、ありのままの光景が記憶に残っていた。

汗の伝う頬を手の甲で拭い寝かされていたベッドから降る。ふと部屋の真ん中にあるガラステーブルに視線が行った。一冊だけ出されている本が妙に目に付き手が伸びる。
自分が身を置く現状と、見知らぬ場所に居る焦燥を募らせながら、何かの手掛かりになればとそれを開いた。






The last final 3
(ロキド) 2012/12/11

低く唸るように轟く雷鳴は少し遠くにある。
暫くもすれば寄り近づいてくるだろうと、窓から黒い空を眺めた。


恋人が…死んだ。1年前の今日。
命日の今日、墓参りとあいつが逝ってしまったその場所へ参ってその帰り。
ザァザァと激しい雨の降る中で道に倒れ込んでいる人間がいた。人の通りも車の通りもないそこに臥して雨に打たれる姿を勿論見過ごせるわけもなく、声を掛けた。
遠目から見た力なく倒れているその姿は嫌でもあの日の恋人を思い出させ、焦り、強張る己を叱咤して手を伸ばした。
雨に濡れた躰を刺激しないようにそっと仰向けにさせて容体を確認する。
薄汚れた頬や雨に溶けてはいるがひどく汚れた衣服。だが、それよりもまず驚かされたのはその人間の顔に、だった…。
完全に気を失い生気の感じないその顔は、とても…似ていたのだ。


「くっ……、…」
「……熱が…」
うめき声にはっとして窓から離れる。
連れ帰ってしまった。恋人と…ローととてもよく似た容姿の、でも見ず知らずの人間を。
寝かせたベッドに寄り、様子を見ると高い熱に魘されているようだった。
額や、首に浮いた汗が行く筋も流れる。気休めにしかならないだろうがタオルでそれを拭いながら、この、彼には悪いが「ロー」と呼びかけてしまった。重ねているのだ…この彼に。
「は…は…」
短く、忙しい呼吸を繰り返す彼をただ見ているだけで自分が辛く、苦しいような錯覚になる。見つけた瞬間には病院に運ばないとと思っていたが、それは彼を仰向けにして躰を抱き、支えた時点でその考えは消し去った。
彼の身体の下からは身の丈ほどの刀と思しきそれと、傷は浅いようだが無数に走る傷にどこか普通ではないと知った。
このまま救急車を呼んで病院に届けさえすれば人としての行いは褒められるだろう。その後この男がどうなろうとも知ったことではないで済ませればいいのだ。
でも、それができないのは先に述べた通りに亡くした恋人と似すぎているせい。助けたいが、その先の彼に不利になる要素が今時点では多すぎる。
考える暇もなく、どうにか家へ刀とともに運び入れて介抱してる。
濡れた衣服を脱がし躰の傷を手当てした。切り傷や擦り傷が多いが、右肩の傷が一番深く拭っても拭っても新しい血が滲み出た。
今は包帯で見えないが、このまま血が止まらなかったらどしたらいいのかと不安がある。
刀は、濡れた鞘を拭いた後に恐る恐る少しだけ抜いてみると眩暈がするほどの刃の煌めきに怖くなり慌てて元に戻した。
それから少し迷うが、安易に置いていていいものではないのでシーツに来るんでベッドの脇に置いた。「ぅ…」
「…、…」
言葉を掛けたいのに、掛ける言葉がない。
固く閉ざされた瞼、眉間に寄る皺が辛そうだ。傍らに膝をついてひたすら汗を拭うしか出来ずにいる。
こんなに似ているのに、名前が呼べない…。
呻く声すらこんなにも似ていると言うのに。






The last final 2
(ロキド) 2012/12/10

あの日より、強く降りしきる雨だった。
ローを引いたあのドライバーがどうなったかなんておれは知らない。ただ、生きているはずだ…ローを跳ね飛ばしてから外壁に突っ込んだ車は、フロントはひしゃげたが事故った直後にドライバーは自力で脱出して、呆然としているおれの視界は入らないところで同じようにどこか他人事のように放心していた。
顔、姿も覚えちゃいない…ローの葬儀前後に泣いて謝っていたような気がする。
謝って…なんになるのだろうとおれは思っていた。

そっと、事故が起きた道の端に花を添えた。墓参りも済ませてここにも寄った。
足元に跳ねる雨粒が添えた花をすぐに濡らしてしまう。
声に出さず名前を呼んだ。ひたと頬に冷たい水が伝い、目頭が熱くなる。
きっと、あいつはこの世に止まるとか、そんことはしないだろう。
あいつが、この世に止まっていればこの1年のうちにさっさと声を聴かせてきただろうから。いまだに夢にだって出てきやしねぇんだ。

ザァ、とまた雨脚が強まった。その音に弾かれたように足を動かし帰る方へと進む。
喪失は癒えることなく、惰性で日常を送ってきた。今日が終われば、また来年の今日まで色の無い時間を過ごすのだ。
俯けた傘で欠ける視野。足元だけを見て歩いていると バシャリ と音がした。
反射的に傘を傾ければ、雨で靄がかった先の地面に投げ出されたような人の影があった。
転倒したのだろうか?驚いてしばらく見ているがピクリとも動かない躰に1年前のあの光景が重なった。
「おい…っ」
傘を投げ出す勢いで走り寄り、躊躇う腕を叱咤してその躰に伸ばし、触れた。
「――…ぁ…!」
大丈夫か、と呼びかけながら俯せに倒れた躰を仰向けると息を飲んだ。
嘘だ、と呟く声は音にはならず雨に溶けていった。







The last final 1
(ロキド) 2012/12/09

*ローの事故死から始まる物語







さっきまで何を話していただろうか。

キッドは立ち尽くし、赤く染まる足下を見た。
じわりと広がり、靴底を濡らすそれは、濡れた地面に横たわるローから流れ出して小雨に交じり溶けていく。
あぁ、何を…話していたっけ?
思い出せずにいる脳内には警告の赤色灯が音もなく点滅していた。




スピードを出し過ぎた車が、雨にハンドルを取られてこの場所で事故を起したのは1年前の今日だった。
連立って、傘を差し歩いていたローとキッドに向かい突っ込んできた車。
咄嗟に反応したローはキッドを突き飛ばしたまでは良かったが、ローの身体は車を避けることが出来ずにはね飛ばされてしまった。
キッドはあの時の鈍い衝撃音を忘れる事が出来ずにいる。それだけではなくローの頭部から溢れ出る血も、血色が見る見る内に悪くなっていく様も、いまだ鮮明に網膜に焼き付いていた。
「…ロー…」
一年前、やっと呼び馴れて来た名前を今いくら呼んでも返事は返って来るはずもなく。
あの日に、全てをここで、思いでさえも無くしてしまったような気さえする。
そう思いながらキッドはじっとアスファルトを見つめた。



『そろそろ慣れろよ。キッド』
『つっても今更…なかなか変えられねぇよ』
唇を触れ合わせて、見つめ合って、名前を呼べよと優しく笑った顔。
ずっと、何年もトラファルガーと呼んできたのに、いきなり『ロー』と名前を呼ぶ事が照れくさかった。
ユースタス屋、と独特な呼び名で呼ばれてきたのに、『キッド』と呼ばれることもまた凄く照れた。むず痒くて、それが幸せだって思えた。


思い出すのはそんな幸せなやり取りだった。
今は隣りにいないアイツを漸く「ロー」と呼び慣れ始めたところだったのに。
もう少し素直になっていれば、とそんな後悔ばかり毎日のようにし続ける。
もっと、呼びたかった。返事をしてほしかった。
恥ずかしくても、照れてでも、あの声に呼ばれたら返事をしたかった。

「ロー…」

あの日から、鳴らなくなった指定の着信音。
あの日から、出てくれないアイツの携帯…
おれの気持ちも、何もかも全部、止まったままだ…






たった今おれ、遭難
(ロキド) 2012/12/05

ユースタス屋が浮気をした。
「だって、おまえもシただろ」
…うん、そうだ。心の中でだがそう返事をしてしまった。
だって、あまりにもユースタス屋は悪びれずに、無感情な声で坦々というから…ああ、よろしくない。雲行きが非常によろしくない。

どうしたって、ことの始まりはおれの浮気からだった。ユースタス屋のことは大好きだけど遊びもしたい。ばれなきゃいいかな、と…思うこと数回。完全に調子に乗っていたおれが悪い。
「お前が浮気して、3回目のとき、おれは別れるんならさっさと別れてやるって言ったよな?」
うん。そう…1回目でばれてしまった遊びの後、ユースタス屋は浮気するくらいなら別れると言った。
でもおれはユースタス屋に本気だからと別れないでくれと縋ったのだ。
ユースタス屋はわかった、と別れずにいてくれて、しばらくはおれも大人しくして…。
「で、思ったんだよ。お前、1ヶ月も待てずにさ…浮気?しだして?もう…何言っても無駄だなってさ」
だから、ユースタス屋は気づいていながらおれはわざとほったらかされていたのだ。
わざとほったらかさせれているのに気付かずに、そしてユースタス屋の浮気にも気づかずに…おれがユースタス屋の浮気に気づいたのはもう大分、ユースタス屋がその回数を重ねてからだった。
「お前がしてんのに、おれが一人でおまえのもんになってんのとか、不公平じゃねェか」
ごもっともだ。お前が何様だってんだよ、ってユースタス屋に言われるまでもなくおれは何様のつもりでいたのだろうか。
「で…?お前、さっき、おれに、なんつった?言えた義理か?」

さっきのこと。
ユースタス屋が浮気をしたと知って…それもおれの知人が相手で、その男から聞いたのだ。お前ら別れたのか?なら、今度はおれが――…なんて、そんな世間話みたいな感じで。おれは頭にキてユースタス屋のマンションへすっ飛んで行き、何食わぬ顔で出迎えたユースタス屋の胸倉を掴み詰め寄ったのだった。なに浮気してやがるんだ、と。
ユースタス屋はきょとんとして、しらばっくれるなと噛みつくおれに「いや…今更かよ、って思って」と呆れた顔で言ったのだ。
そして、この状況である。
そもそも…と切り出すユースタス屋はおれの悪行を並べた上ですんなりと浮気を認めたのだった。

だけどだ…俺たちは男同士なわけで、まぁ…おれは女を抱い楽しんでいたんだが、ユースタス屋は男に抱かれて浮気をしていた。
ユースタス屋はゲイってわけじゃない。おれと付き合う前は女が好きで彼女もいたし女に苦労したことないはずだ。おれと付き合ってどっちが上になるか下になるかでも揉めたのだ。
男に抱かれるのに慣れたわけじゃないだろうに。せめて、おれと同じように女抱くとかしてくれたら…そしたら、男だから女を抱きたくなることだってあるだろうって…自分勝手だけどそう思えたのに。
だから、言ってしまったのだ。「おれへの当て付けに抱かれたのかよ」と。
「それ以外に、何があんだよ」
ユースタス屋は、そこで初めて苦そうに一瞬だけ顔をしかめた。ほんの一瞬だけ…それ以降は無表情になってしまう。
「おれが女抱いたって、お前は痛くもねーじゃん。お前とおんなじことして、男と女の抱き心地の違いをむざむざ感じて、女役のおれにとって何が楽しいってんだよ。女抱いての浮気ならカウントしねぇってそんなこと言い出すんだろ、お前」
図星と言う奴だった。ユースタス屋が女をいくら乱そうったってなにを思うわけではないが、ユースタス屋が誰かに乱されるのは……。
「みじめだろうが…そんなの。男に抱かれんのだってみじめでたまらねェ…けどな、お前に少しでもしてやったって思わせられるんならヤればキモチイイしどうってことねぇって思った」
メンソールのタバコを一口吸い込み、ユースタス屋はため息とともに吐き出した。喋るのに疲れたと言い出しそうだ。

「別れたいんなら、別れるぜ」
一呼吸おいて、ユースタス屋は言う。あの日と、同じように。
「もう…しない、ほんとに…ユースタス屋…おれは、別れようなんて……」
思っていないんだと、自然と、深々と頭が下がった。
バカみたいに首を垂れて許しを乞うた。
「今更、それ信じろって言うのか?」
「……ほんとに、しないから」
「ふーん」
勝手に頑張れば、と聞く耳を持たない様子。まったく信用されてないのはこうなってしまっては仕方のないことだ。
だが、しかしこのままでは。おれが続ける限りユースタス屋も続けるわけで。それは我慢できない。

「約束する。だから、」
「おれは約束しねぇぞ。」
「え…」
「別れたくなったら、いつでもそう言え」


短くなった煙草をもみ消し、明後日の方に紫煙を吐き出すユースタス屋はもうおれを信じるとか信じないとかの次元ではなかった。

ああ、もう取りつく島もない。


−−−−−
聴く耳もたんキッドさんとしょうもないローさん。
ローが改心するのかは謎。




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