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ジャンル入り混じります。ご了承ください。
趣味のクロスオーバーもあるかも
・完結見込みのない話も置いてあります。


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The last final 15
(ロキド) 2013/01/05

鏡に映る傷を縫うのは普段と勝手が違い過ぎた。距離感も掴むのが難しく針を刺すのに迷いが出る。
これが他人の傷ならば正確に素早く縫い合わせることができるのに。
自分の躰なら多少歪になろうと構わないが、針が傷から近すぎ、遠すぎるのは流石に拙い。傷もちゃんと付かない恐れも出るだろう。

「…っ、…、〜…」
「……おい。いい加減にしろ…気が散って仕方がない」
ただでさえ熱に散らされかけている集中力が、向かいで鏡を持つ男の息を飲む音や度々歪む表情に余計に邪魔をされていた。
口に含んでいたタオルを吐き出して溜息を吐くと、罰が悪そうに男の視線が泳いだ。
「い、痛そうで…」
「そう思うなら見るなと言っただろう。わざわざ見ていてもらわくてもいい」
乾いた目を癒そうと目を閉じる。途端に瞼の裏で光が破門状に揺れた。
実際、痛みには強い方だが傷に腫れもあるからか針や糸が皮膚を通る痛みは強い。
舌を噛まないようにタオルを含んではいたが、傷に集中しているからか無意識に歯を食いしばっていたようで顎が疲れている。
「それとも縫ってみたくてそんなに見ているのか?」
「!?違っ…」
「そうか?」
この男はどうにもからかい甲斐がある。傷も傷を縫うのを見るのも恐ろしいのだろうに目を逸らさずにおれの手元を見ていた。
何故か自分が痛みを感じているかのように顔を歪めながら冷や汗をかきながら…泣きそうにしながら。
「お前がやってくれるならそれがいいと思ったんだがな」
冗談半分、微かな望みで半分…言ってみて、フッと自分で笑いが込み上げた。再びタオルを咥えピンセットで針をつまむが取り落としてしまう。集中力は完全に切れてしまった今、後は気力だけだった。
辟易した気分になりつつ落とした針を取りなおそうとした、熱のせいで熱いおれの手を緊張からか汗ばんで冷たくなった手が掴んだ。
「……っ、どうなっても、文句は言うなよッ」
目を吊り上げて、男はおれの緩んだ指からピンセットを取り去りそろりと針を掴む。
経験も自信もないのに見兼ねたのだろう。どうせ自分でやったとて満足に縫えやしないのだから申し出はありがたい。
「ああ…言わねェ。傷が付きさえすりゃいいさ」
少しつつけばムキになるのも、覚えのあるあの男そのままだ…。
緊張で色の無い頬に汗を滑らせる男はぎこちなく傷口に針を構えた。おれは逆の手で鏡をかざし傷を映す。男の手元が針先を迷わせているのを見る。
「もう少し傷の方でいい…ああ、そのあたりだ。おれが痛いのは今更だから気にせずに縫え。…だが布を縫うんじゃねぇんだ、刺し直しは勘弁してくれ」
「ふ…ぅ…うぐっ…」
「糸はまだ引っ張っていい。多少斜めになっても気にするな…上手くなくて当たり前だ」
意を決して針を潜らせる男はその感触と触れれば動く肉に呻きを上げた。
糸を引けば遊んでいた傷口が少しずつ合わさり閉じていく。
「焦るな。ゆっくりやればいい」
「…、…は……」
「息はしろ…酸欠になるぞ」
細かい作業をやっているからか無意識に呼吸を止めているらしく、一針毎に細い溜息が聞こえてくる。
あと3針くらいでいい。そう言えば男は黙って頷き額の汗を拭った。


「…ッ、はぁ、…これで、いいんだろ…?」
「ああ、上出来だ」
震える指を叱咤し、根性で傷口を縫い上げた男は汗でも目に入ったのだろう。目を赤くさせ潤ませていた。
余程緊張していたのか、縫合が終わった途端に頭をうなだらせ座り込んでいる。
まるで大手術後のようだが…まぁ、仕方がない。小さな傷ならともかくなれない人間には酷だったのかもしれない。
「へたり込んでいるところに悪いが、まだ手を貸せ」
包帯を巻いて暫くは安静と言ったところだ。男は泣きはらしたような顔を上げて最後の一仕事に包帯を巻いて行く。
「きつくねぇか?」
「丁度いい。包帯を巻くのは上手いな」
「……悪かったな…変な縫い方して」
返した言葉は皮肉と取られたらしい。自分なりの礼のつもりだった言葉だが、伝わらなかったようだ。
ふい、と視線を逸らされたことに胸のつっかえを感じた。
「アァ…それにしてもお前には借りが出来過ぎるな」
「別に借りとか……、ちょ…おいっ」
男の腕を取り引き寄せて躰を近寄らせると焦ったように掌が胸を押し返してきた。
「借りはその都度返した方がいいだろ?」
「ッ、…そういうのは、いいっ……もうあんなことしな…!」
煩く拒む口を身を乗り出して距離を詰めた唇で塞ぐ。すぐに背けようとする顔を、顎をとらえることで止めて硬く閉じる唇に舌を這わせた。
「ンッ…ぁ、ふぅっ…」
暫く抵抗して見せていたがそれも緩み、隙間から舌を割り込ませる。口腔を探り唇を食んで唾液を混ぜる。
胸を押していた手も今は添えているだけで、その手はいつまでも冷え切ったままだった。
「ンン…」
「暫く厄介になるんだ…礼はこれしか出来ねェが頼むぜ…ユースタス屋」
互いの瞳を覗き込むように間近に顔を寄せる。
ぎゅっと眉間に寄る皺に閉じる口元が不服さを物語っていた。






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