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ジャンル入り混じります。ご了承ください。
趣味のクロスオーバーもあるかも
・完結見込みのない話も置いてあります。


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The last final 14
(ロキド) 2012/12/29

ぐらりと傾きそうになった躰を慌てて抱きしめて、なんとか倒れ込むのを防ぎながらずるずると一緒に座り込んだ。
「…ロ…、トラファルガー…?」
「……平気だ」

家までの道のりはとくに話すこともせずに帰ってきた。肩をかそうかとも思ったがスタスタと自分で歩く彼に余計な気遣いかとも思ったが、玄関に着くなり彼はふらついて、その躰を支えきれなかったおれと共に膝をついた。
「怪我、あのままなのか?」
「治療するにも手がなくてな…自分の船ならどうとでもなるんだが」
帽子を脱ぎ捨てた彼の顔色は青く、冷たい汗が流れている。やっぱり病院へいかなければまずいんじゃないだろうか。
あのときはなんとか消毒して包帯を巻いてはやれたが、直視するのも躊躇う程の傷が肩に出来ていた。
「水、浴びれるか?」
「…バスルームはそこだ。風呂入るのか!?」
「血を流して、躰を冷やしたい…。湯を沸かしててくれないか?」
「は?」
「鍋にでもなんにでいい…それと針と糸あるか?純度の高いアルコールもあれば…」
「なに、すんだ…」
「傷を縫う」
服を脱ぎ捨ててバスルームに入って行った背を呆然と見送る。包帯が全体的に赤茶に塗れているのを目に止めてしまえばゾッとしたものが背中を這った気がした。
おれには考えられないことを今からしようとしている彼に信じられない気持ちになるが兎に角、湯を沸かして裁縫用の針と糸を探す。そこで、ふと…ローの遺品の中のものを思い出した。

「タオルを汚すことになるが」
「ああ…そんなの構わねェけど」
着替えとタオルを出しておいたらトラファルガーはそれを使ってバスルームから出てきた。タオルで重傷の肩を押えているところを見るとまだ血は止まっていないらしい。
ドサッとおれの向かい側に腰を下ろして、テーブルに並んだものを見た。
「…お湯は沸かした。あと…針と糸は……これ、使えるのか?他には裁縫用のしかねェし…」
「これは…なぜこんなもの持っている?」
「ローは医者を目指してたんだ。練習用って言ってたけど、それはこっちで、これがまだ開けてないやつ。」
「そうか…ふふっ廻りあわせとでもいうのか?面白いな」
「何が?」
「おれは医者だ。海賊の船長でもあるが船医でもある」
縫合セットを開けて見ながらトラファルガーは目を細めて笑った。言っていたように水を浴びたからだろう、相変わらず顔色は悪いがここではじめて本当に彼が笑った顔を見たような気がした。
「ありがたい、これを使わせてもらう。これを熱湯に暫く漬けてくれ…それからアルコールはあったか?」
「消毒薬じゃダメか?アルコールはそのためだろ?」
「ああ、それがあるならいい。ここは得体のしれねぇ熱帯でもジャングルでもないからそうそう危険ではないだろうしな」
それからトラファルガーに指示されるまま従い、熱殺菌した針と糸は殺菌した皿の中に注いだ消毒液に浸した。トラファルガーは環境が悪いわけではないからそう神経質にならなくていいと言ったが、テーブルや自分の手指も消毒液で拭き上げる。
「…お前、大丈夫か?」
「何が?」
「傷を見れるか?」
タオルに覆われた下が、あれからどうなったかわからない。治っている方向には考えられない…変わらないか、悪化しているかだ。
しかしトラファルガー自身が見るには難しいだろう。それどころか縫うことすらも……
「…見せろ」
「安心しろ。まだ腐ってはねェ」
神妙な顔で言うおれがおかしかったのか、トラファルガーは不敵に笑いタオルを除けた。赤く腫れた傷の周りから、てらてらと裂けた傷口が覗きじんわりと赤を滲ませる。出血は治まりつつあるのかもしれないが体液はゆっくりと流れだしている。
「ぅ…わ…」
「どうした?」
「…っ、う……」
「アァ、骨でも見えたか?バカだな…気持ち悪いならじっと見るな」
顔を背けたおれを見ていよいよ楽しげに笑いだす。口元を隠しクックッと肩を揺らした。
「〜〜〜、腫れてる、けど…膿んだりはしてねぇと思う…多分。血、出てるけど…一昨日よりは…」
「ならいい…悪いな」
思いっきりやれ、と言われキャップを根本から開けた消毒液を傷口に流し周りも拭う。
見るだけで沁みて強烈に痛みそうなのにトラファルガーは顔色も変えなかった。
「さて、緊張も解れた…鏡を持ってるくらい、できるな?目を閉じておくなり、顔を別な方に向けておくなりしててくれ」
「…本当に自分ですんのかよ…麻酔も、ねぇのに」
「するさ。麻酔なんてモノ、めったに使わねェな…多少の傷に使ってられる程の優しい海じゃねぇんだ」
おれと鏡の位置を調整すると、トラファルガーは口にタオルを咥え針を取る。
ふ、と一度鼻から息を抜き、皮膚に針を潜らせた。







The last final 13
(ロキド) 2012/12/28

伸びてきた手にびくりと躰を引くと、一瞬その手は止まりそれでも再び差し伸ばされる。それが目尻や頬に触れたのに驚き見上げると眉間に皺を寄せムッとした顔が帽子の影から窺い見れた。泣くな、と口が動いたような気がする。
「おれは、この世界で死んだトラファルガー・ローの霊でも、生まれ変わりでもないつもりだ。だが、トラファルガー・ローだ。」


「手を貸してほしい」

噛みあったままの視線は外されることなく、トラファルガー・ローは言葉を続けた。
「もし、魂と言うものがあっておれと、ここで死んだトラファルガー・ローのそれが同じであったとしても…生きる環境が違えば人は変わる。お前が恋しいものはわかるが、理解しろ…おれからは与えてやれない」
それでも、と抱きしめられる。耳元で囁かれる甘言は不毛で躰を抱きしめる腕は虚実を物語るようで。
「"トラファルガー・ロー"をおれに譲れ。お前の邪魔はしない…ただ暫く匿ってくれればいい。この世界で、頼めるのは…お前だけ、……だ…」
「…?」
抱きしめられ触れ合っていた躰にずし、と彼重みが掛る。辛うじて背中にまとわった腕の力は弱くなるばかりで思わず彼の背に手を回した。ふ、と熱い吐息が耳に掛り、触れそうな程近い生身どうしの首にじんわりと熱が伝わってきた。
「……おまえ、もしかして熱が…」
「…ああ…傷から…、…フフ。お前が…助けてくれなかったら、おれはこのまま死ぬだろうな」
「ッ…!?」
「どうする?死んだ恋人に似ている男を…見捨てて、勝手に死ぬのを…まつか……それも、おまえの…かってだがな…まぁ…助けても、おれは恩を仇で返すような…海賊だ」
ぜぇ…と肩を大きく揺らすほど呼吸も苦しいのだろうに皮肉を交えた言葉を止めない。
彼を見捨てれば再びローを殺してしまうことをさす様な暗示をするくせに手を貸せと言っておいて、助けたくなくなるようなことを言う。
「……どっちにしろ…お前にはきっと後悔させるだろう」
悪いな。
「くそ…やろぅ……ッ」
噛み締めた奥歯がキリリと鳴る。彼が倒れないようにただ添えていただけの手に力を込めて強く抱きしめた。笑ってるのか、クツクツと喉が鳴るのを聞いたが今はどうだっていい。
「もう少しだけ、自分で歩けよ」
「…ああ。」
「病院は…」
「…面倒事になりそうなら、よしてくれ」
抱き合っていた躰を放して、彼は一度頬に流れた汗を拭っただけで平静を装っていた。
少しだけ息が上がってること以外、先ほどのしおらしさなど微塵もなく呆気にとられる。おれをそそのかすための演技だったのかと疑ってしまいそうだ。

でも、どうせ失ってしまうとしても。後悔しても…救わずにいるなんてことはできなかった。








The last final 12
(ロキド) 2012/12/25

目を覚ますとやっぱり彼はいなかった。

泣いて涙のせいか頬が突っ張っているような感じがする。それを手で擦りながらベッドから這いだした。
押し倒されたのは床の上だったが、彼が寝かせてくれたのだろうか。散らばった自分の服と、無くなっているシーツに気が付く。彼が持って行ったのだろう…刀を隠すために。
勝手に持って行かれたことに怒りが湧くわけでもなかった。逆にホッとしてしまう…少しでもあれで隠せるなら無くして困るものでもないし。
気怠い躰を引きずってシャワーを浴びる。目立つ情交はなかった…首に触れた唇の感触もなんとなく覚えているけど痕が残っているわけでもない。腫れぼったくて重い瞼を押えながら顔にシャワーからお湯を降らせる。
洗い流して、彼のことも夢のように消えていきそうだ。
消さなければ、いけないのだろう…。

冷たい目も、言葉も、ローとは違うのに目の前の男はローの姿で、声で。
だから目を閉じたのに途端に甘く優しい声で欲しい言葉を強請らせた。苦しく喘ぐ呼吸に交じり名前を呼びそうになった。そんな声で、やめてほしかった…ローだと錯覚してしまうから。おれのトラファルガー・ローはもういないから。
喋らないでほしい。そんな思いで唇を重ねた。止んだ声にホッとする。
指に触る凹凸に、縋りついた躰…こんな逞しい躰をローはしてなかった。首に縋りつくと頭の後ろと背中に手が回りその一度だけ強く抱き返される。

それも夢だったんだと、水の滴る頭を軽く振った。






久々に雨が降りやんだ。雲間からは少しだけ光が射しているがまだ厚い雲は空に浮かんだままだ。
昨日の夕方から雨は振り続けていた。夢で片付けたかったがそれも出来るわけもなく、彼は当てなどないと言っていたがあの雨の中どう過ごしたのだろうかと考えてしまう。

探そう、なんて思ったわけじゃない。期待をしたんじゃない…それなのに、ここでその姿を見つけてしまえばおれは……。

「……なんで」

「どうして、ここにいるんだよォ…」

振り向いた彼に問い詰めていた。
あの日、ローが死んだ場所に、その1年後にローに似た彼が倒れていたこの場所に。
この世界を知らないと言ったくせに、自分が倒れていた場所も分からなかったくせに。
「……ここで死んだのか」
「…あんたが、倒れてたのも」
「…そうか…」
目深にかぶった帽子のせいで表情は見えなかった。それを意図するように帽子を被っているような気さえする。
彼はただ頷くとコツ、と靴の底を鳴らして一歩一歩近寄ってきた。立ち竦むおれは後ろにも前にも動けずに詰まりつつある距離を見ているだけだ。







The last final 11
(ロキド) 2012/12/24

抵抗なく重なった唇を一通り味わって、組み敷いた躰を見下ろす。
薄く開かれたままの唇から覗く舌に、天井をぼんやりと見上げる濡れた瞳。
「期待しておれを拾ったんだろう?」
皮肉や嘲りの言葉は自然と口を吐く。この世界ですでに死んでいる男をおれに重ねてみようとしている男に無性に腹が立った。
写真を見た時は似ている男を放っておけなかっただけだろうと思っていたが、そうではなかった。二度と戻ってくるはずのない男が戻ってきたと思いでもしたのだろうか。
おれが甘い声で名を呼びとでも思ったのだろうか。そしておれを呼ぶ声に返事をするとでも思っていたのだろうか。
「名前を呼ばれたいか?」
"ロー"はどんな愛を言葉にした?耳に吐息と共に吹き込み、躰を暴いていく。
服の下にはそれなりの筋肉があったが記憶のそれよりも薄く、傷一つない肌。再び言葉を催促すると、ただされるままに寝てた躰が身じろいだ。
首筋を舐めていた俺の頬に手を添え、それに引き寄せられるままに深く重なる唇。硬く閉ざされた瞼が見えて腹の底にあった怒りがすっと冷めていく。からかい、嬲ることを楽しんでいたはずなのにその気も失せていく。

喋るな、と暗に示すような接吻はおれから言葉の一言をも奪うには十分だった。





「……降りやんだか」
眠っていた意識が浮上する感覚と共に周りの音が聞こえ始める。
湿った空気は相変わらずだが雨は降りやんでいた。見上げれば灰色の雲は浮かんでいるがところどころの合間から明るい陽の光が見える。
耳を澄ませば排気音やエンジン音が様々な場所から聞こえてきた。
雨が降り続き、夜になり、1日半ほど動くことができなかった。濡れて歩けば体力を消耗するだけできっと得ることはない。漸く天候が変わり陽も差し始めた。
「さて…どうするか」
時を待ちただじっとしていれば帰れるという保証はない。
右も左もわからないが、やり様がないわけではない。その辺の人間を捕まえて少し"話"をすればいい。だがこの世界に限らず荒事を起こせば面倒になることは確かだ。
行先のない足を、踏み出した。行く当てはないのは相変わらずだがどうしても気になる場所がある。
ここまで来た道を引き返し、雨が降っていた時と印象の違う街を目の端に入れながらそこへ向かう。
見慣れない乗り物がすぐ横や目の前を走り去っていくのを煩わしく思いながら、雨に朽ちゆくのを任せていたあの花束の場所へ。


変色して萎びた花弁は雨に融け昨日見た時よりも無残なことになっていた。
人は傲慢にも供物を燃やし、朽ちるのを待ち、腐敗するのを見届け、その姿が変わり果て消えゆくのを見、初めて"供物"として捧げられたと認識する。
花も。この世で凛と先綺麗な姿のまま捧げられ今朽ちて…渡って行ったのだろうか。
誰に訊く当てもないが、と一人笑ってから背後の気配に目を向けた。相変わらず鮮やかな赤が目に留まる。
「……なんで」
困惑と少しだけ憤りを含ませた声が滲んで聞こえる。
「どうして、ここにいるんだよォ…」







The last final 10
(ロキド) 2012/12/21

塞いでやろうと思っていた瞳は自らで硬く閉ざしていた。
耳元で囁けば肢体を跳ねさせすすり泣く。低く漏れ出す喘ぎ声は淫靡で酔いそうになった。
背中に這う手がおれの躰中にある様々な傷を辿り、窪みや隆起した傷に指先っが引っかかる。
おれの唇が模ったそれを、あいつによく似たこの男はきっと見ていない。



今まで、初めて踏み入れる島に不安や恐怖を感じることはなかった。仲間が居ようと居まいとそれは同じで、一人、大海原に出た時からそう言う感情は遠いものになっていた。
それが…どうだ。
分厚く、灰色の雲が立ち込める空の下。おれは一人知らない"世界"の知らない街を当てもなく歩きだした。
道に倒れていたと言うおれを拾って介抱してくれた男の部屋から出て、冷めきった躰と頭を連れて道なりに足を進める。
人の通りはない。一人取り残されたような錯覚さえして、ああでも。異世界から来たおれは一人なのだ…。
すべきことは元の世界に戻る術を探すことだが、この世界に来たその術さえも、意味さえも分からないのにどうしたらいいのだろうか。
きっと海は遠い。固められた地面に、塀に、遠くにそびえる建物に太陽も出ていないんじゃ方向さえ狂わされる。
「………」
当てなどなく歩いていたのに、不思議と足が止まった。
雨曝しで萎れた花束がひっそりとそこに添えられ、湿気を含んだ風に時折花を包む薄いフィルムがはためき小さな音を立てていた。
ぽつり。頬に雨粒が落ち、しとしとと足元に斑点を浮かべていく。
再び雨に打たれる花を暫く見ていた。何れ花の色は褪せ、花びらは朽ちて落ちる運命だと知ってはいるが。



あの男の家から拝借した布で刀を包んでいたおかげで雨水を多分に含んだ布は重くなり刀を担ぐ肩にのしかかった。
雨に打たれた濡れた躰を今更雨の凌げそうな場所に移し、帽子から滴る雨水が落ち靴に落ちる。既に濡れてしまってる足元だから気にはしないが。
「っ…。流石に塞がるわけがないな…」
指に伝った雨水が仄かな赤色を帯びているのに気が付き、片袖を抜いて肩の傷を確かめる。
動かし過ぎて緩んだ包帯に、雨水が血を滲ませてひどく汚く見える。傷は全く塞がっていないようだ。
よく動く場所なのと傷が深い所為だ。本来ならすぐに縫い合わせて数日包帯で固定すれば気にはならなくなるが自分の船ではないからそれも難しい。
「腫れが出てきたな…。」
濡れた包帯の上から患部を撫でれば腫れと熱を孕んでいることがわかる。
取りあえずとして刀を包む布を細く破り肩をきつく縛っておく。こうなったら下手に包帯は取らない方がいいだろう。
「ふぅ…。…ククク…ああ。今更こう言うつまらない窮地に陥ることもねぇなァ…」
若い頃、駆出しの頃ならいざ知らず…。今になってこの程度の傷で自身を危ぶんでいる。
だがこの程度の怪我が小さくないこともよく理解しているから、こそ。


刀を抱いて目を閉じる。
ドクン、ドクンと刻む自分の鼓動を数えながら雨が止むまでの暫くを過ごそう。






The last final 9
(ロキド) 2012/12/20

「…おれは、お前のトラファルガー・ローじゃねェ」
「ッ…ぅ…、…ア…」
縋りたくて伸ばした手は届かない。冷えた目に射竦められてどっと冷や汗が流れた。
息苦しくなり喉を引きつらせると彼の吊りあがった唇は嘲り笑う。笑わない双眸は鋭さを持ったまま、歪む唇と声だけが楽しげに弾んだ。
「抱かれてたのか?おれに」
気が遠くなり、項垂れそうになる頭を彼が持つ刀で顎を掬われて無理やり顔を上げさせられる。虚ろになる目に無理矢理彼の姿をとらえ汗なのか涙なのかわからないものが頬を伝って行く。
「恋人だったトラファルガー・ローが恋しいなァ…ユースタス屋。お前の死んだローと、おれとを重ねてどうしたい?抱かれたいか…愛の言葉が欲しいか?恋愛ごっこでもしたかったか?」
「ゥ、ッ!あっ…ハァッ…はぁ、はあ…!」
彼の手放した刀が、がしゃりと音を立てて床に落ちた。彼は身を屈めると息苦しさに喘ぐおれの額に落ちる前髪を掻き上げてくしゃりと掴む。
間近に顔を覗きこまれ、どこまでも"同じ"その姿の彼が目に焼き付いた。
「フフ…。そうだな…宿を貸してもらった礼くらいしてもいい」
合わさった唇から熱い舌が入りこむ。いつの間にか弛緩した躰は抗うこともなく、背中に冷たい床を感じていた。
彼の肩越しに天井が映り、躰も吐息も熱いのに気持ちばかりが冷えていく。

欲しい言葉を与えてやろうかと酷く甘くて優しい声は唇で飲みこんだ。
ただせめてもと自ら触れた彼の躰は、指に、掌に歪な傷を感じさせる。ぼんやりと見つめた肩には濃い赤が白い包帯に浮かんでいた。
「トラ、ファ……ぁ…」
硬く閉じた目尻から未だ枯れない涙がこぼれていく。
おれの耳が、躰が感じるのは、弾む息、熱い躰、微かに漏れる低い声だけ。

きっと次に目を開けた時には彼の姿はないんだろうと思っても目を開けることはできなかった。






The last final 8
(ロキド) 2012/12/19

刀半分を鞘から抜き、刃を確かめる。視線を左右に振り、納得がいったのかパチンと小気味いい音を立てて刃を収めなおした。その一連の動作が様になっていて見惚れると同時に、扱いなれた手つきに背中が寒くなる。
「何故隠していた?」
「そんなモン…見つかったら銃刀法違反で捕まっちまう」
「…なるほど。武器の所持が許されてないのか」
頷きながら刀をベッドに放り部屋中を見回した。
「おれの服は?」
「ん…」
彼を連れ帰った時、雨に濡れた服は脱がせて、下だけはおれのスウェットを着せて寝かせていた。傷の深かった肩を動かすのが怖くて上着は着せられなかったが布団に寝かせていたから問題はないだろう。
彼が来ていた服は洗って乾かしてある。
「着れるか?」
「…まぁ、問題はねぇ」
躰の傷の分、服にも破けやほつれが出来ていた。血は落ちにくく所どころに薄く染みにもなっていたが彼は気にせずに身に着けた。懸念していた肩も、怪我を思わせないほどに上げ下げしている。
「世話になったな…」
「…どこか、行くのか?」
「当てはねェ。だが何もしねぇわけにもいかない。おれにはやることがある」
「……そうか」
「この世界のおれに会ってみるのも面白そうだ…フフ。平和なこの世界で何が面白くて生きているんだろうな」
目深に帽子をかぶり、刀を肩に掛けて担ぎながらアルバムを見下ろして嘲りを含んだ声で笑う。
写真に写るローと、ここに立つトラファルガー・ローは同じようで全く違うのだ。
そんな彼がなんとなく発した言葉に爆発的な怒りを覚える。気づけば涙を堪えていた。
「……、ローは…もう」
「…?」
「生きてなんかいねェ…っ」
涙で震える声は彼に届いたらしい。どういうことだと、寄越してくる視線を睨むように見返しながら、今日まで誰にぶつけることもできなかった憤りにも似た焦燥感と喪失感とを彼に吐きつける。

「1年前に、死んだ…!」

悲しい、淋しい、恋しい。
ボロボロと止まらぬ涙を流しながらそれでも彼から目を逸らすことができなかった。
ローとは違う。でも姿はそこにある。

「ロー…!」


縋るように呼んだ名前に、返事はない。
帽子の影が暗く落ちる彼の表情は涙でぬれた視界にぼやけて写った。






The last final 7
(ロキド) 2012/12/18

「参ったな…」
チッ、と舌を打つ音が静かな部屋に響く。アルバムをテーブルに戻し、少し冷えたコーヒーを口にした彼は一人ぼやくとどこか遠くを見た。
「ここには海賊はいるのか?」
「……海賊…?」
「…海賊を知らねェか?」
「いや、知ってっけど」
消えそうな独り言の後に、明瞭な問いかけをされて少しだけ驚いた。その問いかけの内容もすぐには反応できずに首を傾げる。
海賊と聞き、某映画のようなのもを想像してしまうが海のならず者なら今もたまにニュースになる。商船を襲い人質を取り、国を巻き込んだ大事になるのもしばしばだ。
しかし、それは途上国や貧困な地域で起きる事件である。
「ここはどこの海だ」
「…海域ってことか?」
「グランドラインを知っているか?」
「知らねぇ」
「……おれの知ってる世界は偉大なる航路と赤い土の大陸に4つに区分され、海賊のほとんどは偉大なる航路を目指す。おれはグランドラインの後半…新世界に居た」
「……」
「フフ。どれも分からねぇって顔だな」




「どうやら、ここはおれの知る世界と違うらしい」
「…は?」
間抜けな声が出た。その言葉の意味が理解出来ずに口を閉じてしまう。
「信じろ、とは言わない。この世界じゃどんな扱いを受けてるかわからねェがおれは海賊だ」
こことは"違う世界"のことを話す彼は焦りもせずに口元に笑みを乗せていた。
海賊…と閉じた口の中で繰り返しながら、彼と一緒に持ち帰ったあの刀を思い出す。現代の海賊も武器を振りかざし略奪の限りを尽くすのだ。
「そこに何がある?」
「っ、あ」
無意識にシーツでくるみ隠していたそれに目を向けていた。目聡く気づいた彼が手を伸ばしシーツを剥ぐ。するりと現れた長い刀が彼に渡ったことで危機感が増し身が強張る。
彼はそれを手に取り笑みを深めた。
「こいつもここにあったのか」








The last final 6
(ロキド) 2012/12/14

昨日あれから目を覚まさなかった彼を寝かせたまま、切らした包帯や消毒液などを買いに出た。それから少し食糧を買って急いで帰る。
いつ気が付くかわからない相手を放っておけるはずもないからだ。

「動くな」
そうして帰宅すると、ものすごい力で引っ張られ壁に押し付けられていた。昏々と眠っていた彼がまさか目覚めているとも思わなかったが、眠りの妨げにならなようにできるだけ音をたてないように足を忍ばせたのにまるで…いや、気が付いていたんだろう。
正確に伸びてきた手に掴まれ、口を塞がれた。
痛みと、怯えで目を閉じていると低い声に脅される。こんな声…聴いたことはなかった。
それなのに声は確かにあいつを思い出させる。
そろりと目を開けるとあの日から焦がれ続けた姿があった。違うと分かっているのに嬉しさを感じて躰が強張った。
射殺すような眼が、少しだけ見開かれたような気がした。




霧雨が降る外を窓から見下ろす彼は、それから何か思案するように黙ったきりだ。
声を掛けるのも憚られ買ってきたものを袋から出して仕分けた。その間にも火に掛けていたお湯が沸き2人分のコーヒーを入れて、彼の分をテーブルに置いた。
ガラスのテーブルにコツリとマグカップの底が当たり音が鳴る。ゆっくりと彼は振り返り湯立つそれを見下ろした。
「……」
窓際から足を運びテーブルへやってくると手を伸ばす。だが、掴むと思ったマグカップには触れずにその先のアルバムを手に取った。
「あ…」
「これをさっき見せてもらった」
最初の作ったような低い声ではない、おそらく彼の普通の声が聴けた。心地よく耳になれたその声はもう2度と聞けない筈だった。
「ユースタス・キッド」
名前を呼ばれドキリとする。なぜ…と思うがそうだ、彼はアルバムを見たのだ。名簿も載っているのだからそれで知ったのだろう。
頷くと何故だか彼は困惑の色を濃くした。

「トラファルガー・ローだ」

あの声が告げるその名に下げた視線を思わず上げた。こちらを見据える双眸と視線が絡み、ドクリと胸が鳴る。
「だが、これはおれじゃない」
アルバムに挟まれた"ロー"写真を見て彼は眉間に皺を寄せ言い捨てる。
写真の中、おれの隣に写るローは柔らかな笑みを浮かべていた。






The last final 5
(ロキド) 2012/12/13

怯え竦む躰。驚愕と恐怖に揺らぐ瞳は、それでもおれを見据えていた。
こんなに弱弱しくて似つかないのに、とても似ている瞳…矛盾だらけだ。




テーブルに置かれていたのはアルバムだった。同じ制服を着た、学生だろうか。卒業アルバムと書いてあるからそうなのだろう。そして、それに挟まれた数枚の写真。
困惑するには十分すぎた。他人の空似…?いや、それでは片づけられない。気持ち悪いほどに似ていた。
おれと…他にも何人かの知った顔が載っている。だがありえない、覚えがない。知らない…なんだこれは。
「……」
ぱたん。と静かにアルバムを閉じてテーブルへと戻す。部屋の外から微かな音とドアの開く音がした。



「動くな」
「…なっ、んっ……!?」
そっと足音を忍ばせて入ってきたそいつを捉えて壁に押し付ける。声を上げられては煩いからと顎を捉え口を塞ぐことは忘れない。いっそ顎を砕くほどに強く掴み固定した。
捉えたのは男で、痛みに呻いているが予想外のことに恐怖してか抵抗らしい抵抗はせずにいる。
衝撃に顔をしかめ閉じていた目がゆっくり開き、そこで合わさった瞳にギクリと躰が強張った。それはおれも、この男も。
「……ぅ」
「…お前が、この部屋の主だな?」
「…、ぅ、う」
瞬きをするのを忘れたのか、苦しさと頬を掴まれ痛みに瞳を揺らす男は喋れない代わりに喉から微かに音を出し、何度か頷いた。
ふ、と鼻から抜ける声は苦しげで拍子抜けするほど敵意も何も…ない。怯えと困惑の色ばかりが濃く、躰は震えていた。
「手を放す…が、妙な動きはするな。声を上げるな」
壁に押し付けていた力を抜き、口元から手を放してやる。男は はぁ、と大きく息を吸い込み、躰が自由になっても壁に背を預けたまま動かなかった。
「おれはどうしてここに居る?」
どう言う経緯で、腹積もりでおれを匿ったのかは知らないが、救ってもらったのは理解している。だが生憎と裏の無い善意とは無縁の世界で生きてきた。結果、恩を仇で返すことになろうとも疑いを持たずに接するなんてことは出来なかった。
それが、知った顔に似ているなら尚更…。
「…少し、離れた道に倒れてた…から」
「どれくらい眠ってた」
「……丸1日くらい」
閉め切られていたカーテンを開くと思った通りの雨空と靄がかった界隈が見える。
がさりと音がして振り返ると、さっきおれが壁に押し付けた際に落としたのだろう袋を拾っている姿があった。本人は極力音をたてないように務めていたが袋の質上、無理だろう。それを咎める気はなく目を逸らした。
「悪かった」
「え…?」
「普通にしていい」
見下ろした街並みはとても不思議に思えた。雨日よりだからか閑散としているが、今まで見てきたどんな島の街並みとも…どこか違う。
立ち竦んでいた男が漸く躰を動かし始めたころ、男に悟られぬようにそっと溜息をついた。




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