りんさく

2015.04.20 Monday


「なありんね。女の子は、いいぞ」いつだったか、夢見心地な顔をして彼の父がそんなことを言っていた。いい年をして相変わらず浮ついたことばかり──と冷ややかな一瞥で一蹴したことを、りんねは覚えている。「女の子ってのは、ふわふわしていて温かいんだ。いつまでだって抱き締めていたくなる。同じ生き物なのに、なんであんなに違うんだろうな。──ま、お前は知らないだろうけど」今だったら、悔しいくらいにはっきりと、父親の言っていたことが分かる。桜を腕のなかに収めている今ならば。ほかの女子のことは知ったことではないが、どうして彼女のからだは、マシュマロのようにふわふわして柔らかいんだろう。日だまりで一日中うたた寝したあとの猫のように、ぽかぽかと温かいんだろう。「六道くん、いつまでこうしてるつもり?」なかなか離してもらえず桜が苦笑する。離したくない。できることならこのまま、ひとつになってしまいたい。不埒な下心でもなんでもなく、少年は素直にそう思った。


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