B/M

2017.10.27 Friday


(Reign/クイーン・メアリー)
「時々、あなたを遠く感じるわ」
 振り返らずにつぶやくメアリーの声に、寂寥がにじんだ。
 スコットランド女王にして、フランス王太子の婚約者であるこの女性と、彼はつかず離れずの距離を保って関わりあっている。英明な女王は、その意図的な隔たりをとうに見抜いていた。
「バッシュ。私はあなたと、よき友でいたい。あなたは私と同じ気持ちではないの?」
 セバスチャンは弟を思う。友ではなく、恋人という肩書を与えられた唯一の男。フランソワがいる限り、彼はつねに二番手だ。──だからといって、王の庶子である彼にはメアリーを略奪する力も、その気概もないのだが。
「俺はただ、ないものねだりをしたくないだけだ」
「それは、私にはあげられないもの?」
「ああ。……君には無理だ、メアリー」
 彼は女王の背中を目に焼き付けた。遠からず、フランス王妃となる女性だ。その後ろ姿に恋焦がれていたことさえ、忘れなければならなくなる時が来るだろう。


剣薫

2016.07.03 Sunday


会津の高荷恵から暑中見舞いに桜桃【さくらんぼ】が届いた。「桜桃なんて初めて食べるわ」薫は目をきらきらと輝かせている。女性は真新しいものや愛らしいものが好きなのだな、と微笑ましく思いながら剣心は木桶に氷水を張り、赤い宝石のような果物を浸した。「あ、双子でござる」「えっ、どれどれ?」薫が隣にぴたりとくっついてきた。剣心は水も滴る双子の桜桃をつまんでもちあげる。今か今かと待ちわびる薫の唇に寄せてやるのかと思いきや、その片割れをぱくりと食べてしまった。「あっ、ずるい!」「いや、薫殿にはもっといいものが」彼は悪戯っぽく笑って、氷水から、三つ子の一房をつまみあげた。


王摎

2015.08.01 Saturday


「摎は生傷が絶えませんねえ」寝台に腰掛け、彼女の脇腹に包帯を巻いてやりながら王騎が笑う。真剣を使っての鍛錬中また怪我をしたのだ。「王騎様は、剛胆な女はお嫌いですか?」どこか不安そうな摎の肩に将軍は自分の外套をそっとかけてやる。「摎、頑張るあなたはとてもいじらしいですよ」


縁薫

2015.04.13 Monday


風呂場から出たところで、バスローブに着替えた縁と出くわした。運悪く湯浴みの時間がかぶってしまったらしい。つい先程首を締められたことを思い出して思わず身構える薫に、誘拐犯はじろりと冷たい一瞥をよこして「邪魔だ、どけ」と言った。また殺されかけてはたまらないので、さすがの薫もおとなしく従うことにする。さわらぬ神に祟りなしとばかり、あてがわれている部屋に戻ろうとすると、「おい」と背後で呼ぶ声がした。振り返ると、ドアノブに手をかけたまま縁が彼女を睨んでいる。いや、睨んでいるわけではなく、ただ観察しているだけなのかもしれないが、その奈落の底のような暗い瞳は見ていて寒気がしそうになる。「──なによ」さりげなく後ずさりながら聞けば、呼び止めるんじゃなかったとでも言いたげな苦々しい顔をして、縁が吐き捨てた。「しぶとい女だ」喉のことを言っているらしい。「剣心に会うまでは、何があったって死なないわよ」「ふん。……勝手にしろ」なぜだろう、その声にはかすかな安堵が滲んでいるように聞こえた。


実写秋直

2015.04.03 Friday


(※LGF放送記念)
「キスされると思ったか?」口角を持ち上げてしらじらしく笑う秋山に、直は顔を赤らめて反論する。「あの状況だったら、誰だって勘違いしますよ!」「そうか?」「当たり前じゃないですか!秋山さんって、本当に人を騙すのが上手なんだから──」でもこんなふうに騙され続けていたら、心臓がもたないです。背中を向けた直がこぼす一言に、秋山はふとまじめくさった顔になる。彼とてあれは意図してとった行動ではなかった。リップクリームがほしいなら、素直にそう頼めばよかっただけのこと。わざわざあんな風に近付いて触れたりする必要はなかった。あらぬ期待を抱かせることはわかっているのに。元来合理的なたちのはずが、なぜああして回りくどいことをしなければならなかったのか。「……たとえ嘘でも、ドキドキしちゃいました。思い出すと、ほら、まだ心臓がうるさいです」胸をおさえてささやく直。背中を向けてはいるが、どんな顔をしているかは手に取るように分かる。こんな時に限っては、馬鹿正直な彼女が羨ましくも思える秋山だった。


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