縁薫

2015.04.13 Monday


風呂場から出たところで、バスローブに着替えた縁と出くわした。運悪く湯浴みの時間がかぶってしまったらしい。つい先程首を締められたことを思い出して思わず身構える薫に、誘拐犯はじろりと冷たい一瞥をよこして「邪魔だ、どけ」と言った。また殺されかけてはたまらないので、さすがの薫もおとなしく従うことにする。さわらぬ神に祟りなしとばかり、あてがわれている部屋に戻ろうとすると、「おい」と背後で呼ぶ声がした。振り返ると、ドアノブに手をかけたまま縁が彼女を睨んでいる。いや、睨んでいるわけではなく、ただ観察しているだけなのかもしれないが、その奈落の底のような暗い瞳は見ていて寒気がしそうになる。「──なによ」さりげなく後ずさりながら聞けば、呼び止めるんじゃなかったとでも言いたげな苦々しい顔をして、縁が吐き捨てた。「しぶとい女だ」喉のことを言っているらしい。「剣心に会うまでは、何があったって死なないわよ」「ふん。……勝手にしろ」なぜだろう、その声にはかすかな安堵が滲んでいるように聞こえた。


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