ハク千

2015.03.31 Tuesday


「ハク様なんて大嫌いです」
懇意にしている少女の捨て台詞に、父役に指示を出していた帳簿係の少年はきょとんと目を丸めた。
「これっ、千!お前、ハク様になんということを!」
顔を青くした父役蛙があわててとりなそうとするが、千は前言撤回するつもりはないらしい。ツンと顔を背けて、
「用事は済んだので、これで失礼します」
我にかえったハクは、この世の終わりのような絶望的な顔で駆けていく背を見送った。
「父役、私は何か千の気に障ることをしただろうか?」
父役がしどろもどろに慰めの言葉をかけていると、パタパタと足音がして、いなくなったはずの千が戻ってきた。
「ハク様!」
「どうした、千?……まだ私に何か言い忘れたことでも?」
傷心のハクが肩を落として問うと、千は先程のそっけなさが嘘のようにニッコリと笑いながら、
「明日はお昼過ぎまで会えないから。今日のうちに、エイプリルフール!」


りん+魔

2015.03.30 Monday


(※行き触れネタ)
「お前は招かれていないはずだが?」
にやにや笑いながら御祝儀袋を押しつけてくる悪魔に、花婿はおもいきり不快そうに眉をひそめた。
「なぜお前がここにいる?誰が中に入れた?」
「まあまあ、そう水臭いこと言うなよ、りんねくん。お祝いは多めに入れておいたんだからさ」
訝しみながら御祝儀の中身を確認すると、中身は一万円が四枚──。
りんねの肩がぶるぶると震え出す。
「お前、わざと二で割れる枚数にしただろう!」
「あれっ、そうだっけ?」
「しかも、数字が縁起悪いっ!」
「おっと失礼!なにしろ地獄暮らしなもので、現世の習慣には疎いんでね」
とぼけてみせる悪魔。祝いの席に水を差された花婿は、今にも死神の鎌を取り出しそうな勢いだ。
「まだ桜にちょっかいを出すつもりなら、魔狭人、今日という今日は引導をくれてやるぞ!」
「晴れの日に物騒なことを言うなよ、りんねくん。──ところでこんなところで油売ってていいのかい?ドレスアップした花嫁が、首を長くしてきみを待っているんじゃないか?」
それもそうだ、とりんねがそわそわし出したところで、魔狭人は不意に真顔になる。
「りんねくん」
「なんだ、まだ用か?」
りんねの、薔薇の花を一本入れた胸ポケットに、どん、と拳を突き当てて、
「絶対に幸せにしてやれよ」


りんさく

2015.03.29 Sunday


いつもの放課後、ひと仕事を終えたりんねは手伝ってくれた桜を家まで送り届けている。
途中喉が渇いたらしい桜が自動販売機でアップルジュースを買い、栓を開けた。
「本当に六道くんの分も買わなくてよかった?せっかくだからおごるのに」
気持ちだけ受け取っておく、と丁重に断るりんね。いつも甘えている身で今更と言われればそれまでだが、あまり厄介になりたくなかった。
桜はジュースを二口三口飲むと、隣のりんねに差し出した。目の前の缶にりんねはきょとんとする。
「喉渇いてるでしょ?遠慮しないで」
にっこりと笑う彼女には、善意しかない。
だが、これはいわゆる「間接キス」になるのでは?
聞きたい。けれど聞けない。
桜のくれた缶ジュースからはとろけるように甘い匂いがした。


犬かご

2015.03.28 Saturday


かごめが身ごもった。楓の見立てによれば、まず間違いないという。まだ薄い腹をいとおしげに撫でながら、楓の家から出てきたかごめは目を輝かせた。
「生まれるのは、きっと桜の花が咲く頃だろうって、楓おばあちゃんが──」
言葉は最後まで続かなかった。犬夜叉がそっと彼女を抱き寄せたから。
「かごめ」
「なあに、犬夜叉?」
「お前はこれ以上、今よりももっと、俺を幸せにしてくれるっていうのか……?」
ささやく声が揺れていた。かごめは、目を細める。
「ねえ犬夜叉。あたしたちの幸せに、限界なんてないのよ?」


りんさく

2015.03.27 Friday


普通の女子高生になりたい。いつもそう思っていた。幽霊が見えることにはすっかり馴れたものの、いつまでもそのままでいたいわけではなかった。
「幽霊が見えたって、私には何のメリットもなかったから」
少し意地悪だと自覚しながらも、それがありのままの本音だったので、直球に告げる。すると隣のりんねが、真面目くさった顔をした。
「お前にとっては、確かに無意味なことかもしれない。でも俺には、奇跡のようなことなんだ」
「──奇跡?それは大袈裟じゃない?」
「いや、本当のことだぞ。おばあちゃんには感謝してるんだ。おばあちゃんがうっかりミスをしてくれたおかげで、いま、お前はこうして俺を見てくれてるんだから」
はたはた、と黄泉の羽織が風にひるがえる。刺繍にあしらわれている金の糸が、きらきらと目に眩しい。
「今の私にとっては、もう無意味なことなんかじゃないよ」
目を細めながら一言。今の本音は、こっちだ。
「こうして六道くんを見ていられることは」
空飛ぶ死神の少年は、滅多に見せない笑顔をちらつかせた。


捨かぐ

2015.03.26 Thursday


姫は不幸だった。富も名声も寵愛もこの世の全てが思いのままだったのに、それでも青年の腕の中がいい、ここが一番の幸せだったのにと哀しく笑った。時を巻き戻せるなら、あの手を取って逃げるだろうか?運命をゆがめられたなら、今あの娘は彼の隣にいただろうか?澄みきった月は何も答えてはくれない。


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