六道家

2015.05.26 Tuesday


(備忘録)
「相手は誰なの」普段は温厚な母が痛いほど真剣な表情で問いただす。「あの世に住む誰もが知っていますよ。勿論、おかあさまも」「籍は入れるんでしょうね?」放蕩息子は静かに首を振り、夢見るような目で虚空を仰いだ。「ぼくが独り占めすることはできない。あの女は、本当に得がたい存在なんです」


ハク千

2015.05.17 Sunday


(Twitterログ)
見渡す限りの向日葵畑が青空との境目まで続いていた。千尋は背の高い向日葵の陰に隠れてはハクを驚かそうとした。彼女の居場所なんて隠れていようがお見通しのハクだが、眩しい笑顔が見たくて、何度も姿の見えない千尋を探すふりをした。二人で両腕一杯に花を抱いた。あれは永遠の夏、千尋がいた季節。

蝉が鳴くのをやめたら私も帰るよ。どこへ帰るのと千尋は聞くがハクは答えない。また離れ離れになるというのに悲しそうな様子は微塵も見せずにただ静かに微笑んでいるだけ。噴水のしぶきが光の粒になって二人に降り注いだ。夏が来ればまた会える、彼は言う。なぜなら私とそなたは夏に約束をしたから。

空色のシャーベットが溶けて千尋の腕を伝った。ハクは少し首を傾けて何とはなしにそれを舐めとった。くすぐったいよと俯く千尋に、このままの方がくすぐったいだろう?澄んだ声で笑う。ハンカチは?この方が早かったから。夏の日差しがじりじりと首筋を焦がす。つねに涼しげな龍が羨ましい彼女だった。


ハク千

2015.05.13 Wednesday


絵本を閉じたハクはふふ、と優しい微笑みを浮かべて千尋に向き直った。
「シンデレラ、ね。なるほど、そなたの言うとおり、素敵な物語だ」
でしょう?と目を輝かせる千尋。
「シンデレラはね、女の子のあこがれなんだよ」
「千尋もシンデレラになりたいの?」
「ち、小さい頃は、そう思ったこともあったかな。今はもう大人だし、お姫様になりたいだなんて思わないよ」
素直じゃないね、千尋は。そうやって、夢見るような目をしているのに。
ハクはおもむろにソファからおりると、千尋の目の前で片膝をついた。
きょとんとする千尋ににこりと笑いかける。フローリングに投げ出された彼女の右足を、壊れ物を扱うように両手でそっと持ち上げたかと思うと、
「小さな足だね。あの頃よりは、随分成長したけれど」
楽しげにそう言って、白い足の甲にそっと、唇を落とした。
「ハク!?」
顔を真っ赤にした千尋が慌てて足を引っ込める。彼が予想のつかない行動をとるのは昨日今日に始まったことではないが、なんとも心臓に悪い。クスクス、とたまらなくなって笑い声をこぼしながら、上目遣いに彼女を見上げるハク。
「私にとっては、千尋こそがその『シンデレラ』だよ」
「何言ってるの?からかわないでよ、もう──」
「からかってなど。あの時のこと、忘れてしまった?」
吸い込まれそうな深緑の瞳に、記憶の深淵を見出した千尋ははっとなる。
幼いころの、あの夏の日の出来事──。
「そなたは私のなかに靴を落とした。ガラスでできた魔法の靴ではないけれど、それでもそのまま水の底に沈めておくのは忍びないような、ついつい拾い上げてしまいたくなるような、小さくて、可愛らしい靴をね」
千尋は抱き締めていたクッションにぐりぐりと顔を埋めた。恥ずかしげもなくそんなことを言えるハクが、恨めしくもあり、少し羨ましいような気もした。
再び隣に座ったハクが、彼女の肩を自分のほうへ抱き寄せた。カーテン越しに吹き抜ける風が心地よさそうに、しばらく目を閉じて感じ入っていたが、ふと何か思い立ったらしい。
「千尋、絵本をもっと増やそうか」
「どうして?」
「色々な物語を語り聞かせたいだろう?男の子でも女の子でも、どちらでもいいように、たくさん絵本を買っておこう」


りんさく

2015.05.04 Monday


(※行き触れネタ・その後)
わたしたちは手を繋いで、遠巻きにその二人を見守っていました。
大きな薔薇の花束を抱えた桜さんは、差し出した手に真新しい指輪をはめてもらっています。
優しくて控えめな桜さんは、いつもこの公園のみんなの人気者でした。
そんな桜さんのこころを射止めたりんねさんも、物静かで決して親しみやすい人ではないけれど、いつだって面倒見が良くて、みんなから慕われていました。
どうやら桜さんからもらい泣きをしてしまったようで、りんねさんは手の甲でごしごしと目を擦っています。桜さんが屈んでなだめていると、りんねさんは感極まったように、ぎゅっと抱き締めてしまいました。
大きな薔薇の花束。思わず、うらやましい、とつぶやいたら、となりで彼が咳ばらいをしました。
ぼくだって、大きくなったら──。
そう言って、彼はほっぺを真っ赤に染めました。
りんねさんは桜さんを離そうとしません。苦労して、苦労して、やっとつかんだかけがえのない幸せです。桜さんもりんねさんを抱き締め返します。そうしていると、ほんとうにお似合いでした。
春の日の柔らかな陽射しが二人に降りそそいでいます。
──袖振り合うも、他生の縁。
そう言ったのは、だれだったかしら。
死神さん、よかったね。いつまでも、しあわせにね。
いつかわたしたちも、あんなふうになれるといいな。


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