犬かご

2020.01.04 Saturday


─ あらたま ─

 三が日を過ぎてもまだ日暮神社は参拝客が絶えなかった。しびれをきらして井戸を通ってきた犬夜叉だったが、かごめはいつになく忙しかった。
「……いい? 絶対に、外に出てこないでよ!」
 目の下にクマをつくって凄まれては、さすがの犬夜叉も頷かざるを得ない。言いつけを守り、居間で草太や猫と大人しく戯れていることにする。
 うたた寝から覚めると、猫をはさんだ隣にかごめが巫女服のままぐったりと寝そべっていた。先程の鬼気迫る様子が別人のようなふぬけぶりに犬夜叉は思わずにやけた。片手で顔を支えつつ、空いた方の手で猫の丸い背を撫でていると、かごめが薄く目を開ける。
「すっかりへたってるじゃねえか、かごめ」
「しょうがないじゃない。お正月の神社って、すっごく忙しいんだから……」
「言うこと聞いて、おれと帰ってればよかったんだ」
 それもそうね、そうもいかないけど──。猫を撫でている指に、かごめがじゃれて手をかぶせてきた。
 猫につられて欠伸する顔が、いつになくあどけない。


犬かご

2020.01.04 Saturday


─ きのふの夢はけふの花 ─

「少しだけ待ってて」
 そう言って身を離したかと思うと、かごめは外へ出ていってしまった。少しだけ、その言葉を信じて忠犬のように戸口を見守り続ける犬夜叉だが、彼女はなかなか戻る気配がない。
 ひとり残された彼は、性急すぎたかもしれない己の行動を後悔せずにはいられなくなる。──祝言を挙げぬうちに触れようとしたことがいけなかったのか。ただ一刻も早くそうして心を分かち合いたいと願っただけだが、それは身勝手な欲望に過ぎないのかもしれない。
 帰ってきたかごめは、全身をしっとりと濡らしていた。
 犬夜叉は息が詰まりそうになる。
「この寒いのに……水浴びか?」
「だって、きれいにしたいじゃない」
 ──初めてなの。
 かすかに震える体をみずから寄せてきたとき、彼の杞憂はあとかたもなくその胸から消え去っていた。


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