ハク千
2016.10.25 Tuesday
龍と人の婚姻は真新しいものではないが、すでに依り代となる水をなくした、いわば生霊のような龍が人を娶った先例はない。ハクは考えた末、まだ誰にも統べられていない「水」に思い至った。「この町では雨が降ると海ができるだろう?私はあの気まぐれな海の主になろうと思うよ」
千尋
2016.10.25 Tuesday
八百万の神々御用達の商店街には文字通りの「目玉商品」がある。ハクの腕にしがみついてびくびくしながら歩く千尋にも、「嬢ちゃん、蛙の目玉は滋養があるんだよォ……」「龍と人間の目玉は上玉だねェ……」ニタニタと気味の悪い笑みを浮かべながら手を伸ばしてくる輩達がいる。
魔狭人
2016.10.25 Tuesday
悪魔は闇に生きる動物の化身である。魔狭人は蝙蝠の翼をもつ悪魔だが、かつて父の古い知り合いに梟をよすがとし、魔公子と呼ばれた邪悪な悪魔がいた。自らが人になした呪いによって身を滅ぼしたというその悪魔によれば──「すべての呪いには、それに見合った対価が必要である」
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2016.10.25 Tuesday
簾をくぐると壁には古びた掛軸がかかっていた。黒目黒髪の華奢な娘の絵姿。屈託のないその笑顔はまるで生身の娘から向けられたもののように生々しい。「掛軸を見た者は御館さまのお手打ちに遭うそうだ」屋敷内で囁かれる噂を思い出した妖犬の少年は背中にぞっと悪寒を覚える。
殺りん
2016.10.25 Tuesday
「言わないで」りんは言葉のふたで殺生丸の口を塞ごうとする。「言わなくても、わかるから」彼は静かにかぶりを振る。「りん。私はこれ以上、おまえのことを有耶無耶にするつもりはない」いよいよ最後の逃げ道は絶たれた。彼の長い指が、桜色に染まるりんの頬をやさしくなぞる。
架れん
2016.10.25 Tuesday
蓮の花が早咲きでなければいけないと、誰が決めたのか。「れんげ。きみもぼくも死神だ。一緒に過ごせる時間なら、まだ余るほどあるだろう」薬指の輝きにはにかむ彼女は美しかった。出会った頃から百年もの時が経っていようとも。「遅すぎることなんてない。そう思わないか?」
鯖苺
2016.10.25 Tuesday
「きみがあの少年にキスされるのを見ていたよ」少女は黙って唇にリップクリームを塗っている。間がもたなくなった男はその手から小さな手鏡を奪った。「ああ」はみ出ちゃった、と苺は不満をもらす。「あなたのせいよ」男は親指の先でそれをぬぐう。「ぼくを見ないきみが悪い」