ハク千+カオナシ
2016.07.05 Tuesday
カオナシは嬉しそうだった。両隣には油屋から遊びにきたハクと千尋が座っている。二人にはさまれて、仮面の目じりが笑っているかのように下がりっぱなしになっている。「今日のケーキは、お前達のためにその子が焼いたんだよ」銭婆の言葉に誇らしげに頷くカオナシ。ハクと千尋は顔を見合わせ、同時にふっと口元をゆるめた。「おもてなしをありがとう、カオナシ」
ハク千
2016.07.04 Monday
「いい子だね」と口癖のようにハクは言う。最初のうちはとくに気にも留めなかったことなのに、近頃千尋はおおいに不満を抱いている。「いつまで子ども扱いするの?」「子ども扱いなどしていないよ」ぽんぽん、と千尋の頭を撫でてなだめるようにハクは笑う。「そんな目をしないで。ほら、おいしいお菓子をあげようね」「だから、それが子ども扱いなの!」
剣薫
2016.07.03 Sunday
会津の高荷恵から暑中見舞いに桜桃【さくらんぼ】が届いた。「桜桃なんて初めて食べるわ」薫は目をきらきらと輝かせている。女性は真新しいものや愛らしいものが好きなのだな、と微笑ましく思いながら剣心は木桶に氷水を張り、赤い宝石のような果物を浸した。「あ、双子でござる」「えっ、どれどれ?」薫が隣にぴたりとくっついてきた。剣心は水も滴る双子の桜桃をつまんでもちあげる。今か今かと待ちわびる薫の唇に寄せてやるのかと思いきや、その片割れをぱくりと食べてしまった。「あっ、ずるい!」「いや、薫殿にはもっといいものが」彼は悪戯っぽく笑って、氷水から、三つ子の一房をつまみあげた。
アシサン
2016.07.01 Friday
サンの髪が伸びた。鬱陶しがって短く切ろうとするのを、もったいないとアシタカは惜しむ。「髪には不思議な力が宿るというよ。それに」サンの耳元に唇を寄せて、そっと囁いた。「──長い髪のそなたも、美しい」