犬かご
2015.04.15 Wednesday
朝起きると、隣にかごめの姿がなかった。まだほのかにぬくもりが残っているから、きっと近くにいるだろう。犬夜叉は戸口の菰を押し上げて外に出た。もやもやと朝霧の立ち篭めるなか、さああ、と糸のような細い雨が降っていた。「かごめ?」雨の匂いでかごめの居場所がわからない。きょろきょろとあたりを見回していると、視界の端で赤いものがゆらめいた。唐傘を差したかごめが少し離れたところで、犬夜叉に背を向けて佇んでいた。「かご──」名を呼びかけて犬夜叉は口をつぐむ。雨音に混じって、かすかな嗚咽が聞こえたようなしたのだ。すっかり馴染んだ巫女装束の、緋袴の裾が雨に濡れていた。ひょっとしてこれまでも、ひとりで隠れてこうして泣いていたのだろうか?ゆっくりと近付いていくが、かごめは気付かない。押し殺した嗚咽が彼の耳を震わせる。犬夜叉は背後から、かごめをそっと抱き締めた。驚いた彼女の手から、傘がからりとおちる。「ひとりで泣くな。──何のための、夫婦だよ」かごめ。俺はいつだって、お前のそばにいる。