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ジャンル入り混じります。ご了承ください。
趣味のクロスオーバーもあるかも
・完結見込みのない話も置いてあります。


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The last final 32
(ロキド) 2017/03/11


「トラファルガー…」

涙の滲む声が呼ぶ。

「…トラ…ファルガー……」
「……キッド」
「っ……うう……」
何度も繰り返し呼ぶ声に応えると虚ろだった瞳に光が戻る。
何処を見ているかわからなかった目が夢から覚めるようにおれを映し、くしゃりと顔を歪めて嗚咽を上げた。
それでも泣くのを堪えようとする素振りを見せる男の身体を強く穿つ。
「…っあ!…っ、ふ…あっ、ああ…」
堰を切ったように熱に浮かされた喘ぎと涙を溢れさせながら、ユースタス屋はおれの背中を掻き抱いた。
ぐずぐずと鼻を啜り、身体を穿つたびに漏れ出る声を震わせて、そろりそろりと爪を肉に食い込ませながら。
「トラファルガー」
肩口に顔を埋め、歪な傷に唇を寄せてユースタス屋は おれ を呼ぶ。
ユースタス屋の乱れた髪を梳かし、泣き腫らした瞼に、濡れた頬に、苦しげに開く唇に口づけた。




籠っていた部屋の空気を息苦しく感じて窓を開ける。いつの間にか降りだしていた雨が、まだ夜が明けきらぬ街を濡らしていた。
風は無く、雨水が吹き込んで来ることはないが部屋と変わりのない湿った空気では窓を開けた意味も無くしてしまった。
男は…。ユースタス屋はすっかり寝入ってしまっている。

汗の通る隙間もないほどに身体を重ねて、言葉の代わりにキスを交わした。
意外と。そう…意外と。熱烈に求められたお陰でおれの背中はひっかき傷だらけだろう。
熱を晴らしたユースタス屋は、ここ最近の生活も祟ってかぱたりと意識を手放して無防備に眠っている。
うっすらと隈の浮かんだ目元は明らかな疲労の所為だ。
「…夢も見ねェだろうなこの様子じゃあ」
今日ばかりは夢を見たところできっと見たことすら忘れるだろう。
涙の痕も残っている頬に触れても眠りの妨げにはならなかった。
「………」
「フフ……」
唇が音にならない寝言を言っている。

開けた窓から聞こえてくる雨音が少し強くなった。恐らくこの雨は一日中降り続けるだろう。
窓を閉めると雨音は少し遠ざかる。
代わりにゆっくりとした規則正しい寝息が良く聞こえてきた。
「流石に狭いな…」
今日はゆったりと身体を仰向けにして寝ているユースタス屋の横に寝転ぶ。
もう少し壁際に追いやりたいところだが、流石に起こしてしまうだろう。
身体を横向きにしてユースタス屋の上に片腕を被せて目を閉じる。

目が覚めた時、ベッドの下に寝てたら男に蹴落とされたのだと思おう。





==========
とてつもなく久々の更新でした。






「悪い頭でごめんなさい!」 「俺の頭のことなんつったア!?」
(JOJO) 2016/05/07

*仗助くんと億泰くん



億泰は馴染んできた風景を視線の端に捉えながら学校からの帰りの道をのんびりした足で歩いていた。
ポケットに手を突っ込んで歩く姿は、肘が張り無駄にエラそうに見えるし猫背気味な姿勢の悪さも相まってガラも非常に悪く見える。
天気もいいし日も長くなってきた空はまだまだ明るくこのまま、まっすぐ家に帰るのももったいないような気もした。
どこかへ寄り道でもしようか…そう、隣りを歩く友人に声を掛けようかと思っていると肘がその友人の仗助の腕に当たった。
ふと仗助を見ると、肘が当たったことなど気にも留めてないのかぽかんと口を半開きに、どうも気の緩んだ様子で空ともどこともつかない遠くの景色を見ながらだらだらと歩いている。
「………」
まじまじとその横顔を眺め、億泰は感心してしまった。
整った顔である。それはもう、嫌味とも思えない…ただ感心するばかりだ。自分がこんな顔して歩いていたら本当に絵に描いたようなアホ面であることだろう。
兄貴にこんな面を晒したら「マヌケ面」に始まる耳に痛い悪口(一口に罵詈雑言と言う言葉があるのだが億泰には咄嗟にでない言葉である)を言われるはずだ。
億泰は遠慮のない視線で仗助を改めて足元から天辺までを見る。
身長は同じくらいだが、まあ多分姿勢の悪さを抜きにしても仗助の方が少しばかり高いだろう。
不良の出で立ちではあるのに野暮ったくなく、まあ少し理解のできない部分もあるがこれは絶対口には出さないでおこう。

「えーっと、億泰?」
「あ?」
「なにジロジロみてんだよ穴が開きそうになるぜ」
「穴ァ?俺には穴開ける能力なんかねえぞ?」
「知ってるよぉ…そーじゃなくて…あー…。ま、いっか」

大分前から億泰の視線には気づいていた仗助が、とうとう耐え切れなくなって億泰の方を振り返る。
困ったような素振り首の後ろを掻きながら、億泰に一から説明するのをすぐにあきらめた。

「で、なに?」
「なにが?」
「ずっと見てたからよぉ。俺になんかついてんのかと思うだろ」

何もついてないよな?と仗助は自分の身体を見える範囲で見まわしてみるが特にこれと言って見つからない。首を傾げながら億泰が熱心に寄こしてきた視線の理由を考えてみるがスタンドの気配もないし思い当たることもなかった。

「なんもついてねえよ?」
「そうかよ……今、俺の頭見たか?」
「違うチガウ!!……仗助ぇ」
「なんだよ?」
「おめー、なんっか顔エロいよな〜〜」
「は!?っはぁ〜〜〜!??」
「女顔じゃあねぇのになんでだろうな?」
「知らねえよ!なんだ急に」
「唇かなあ?唇がよ〜〜こう、こ〜〜なんつーのかな、ぽてっとしててよぉ」
「お…おいおい…」

億泰は身振り手振りに加え、ニュアンスを出したいのか唇を突き出す真似もする。
仗助は堪ったものではない。こんな距離でそんなことをされては…

「おめーの母ちゃんも美人だしな〜」
「……おい」
「ぅおっ…」
「いい度胸だな億泰ぅ〜〜〜〜〜〜」

仗助は笑顔こそ浮かべているものの、両手で億泰の両肩をガッシリを掴む手にはそうとうな力が籠っていた。
やっべー、と思わずギクリと固まる億泰は後ずさりもできずに強張った笑顔を晒したまま心持仰け反ることが誠意いっぱいだ。

「グレートだぜ」
「じょ、仗助ぇ…?」
「よぉ、それならよお…億泰」

吐息がかかるほど近い距離で、仗助の這うような低い声がする。億泰は息を呑み汗を流しながらこれで頭突きでもされようものなら更なるバカになりそうだとただただ身構える。

「もっと近くで見てみろよ…俺の顔をよ」
「じょうす…っ!!?」



もしかして時間が止まったのではないかと億泰はない頭で考えた。
瞬きをすると仗助は先ほどと変わらない位置にいた。

「うわーーーー!!」
「うおおお!?でっけぇ声出すなよ仗助!」
「いいいい、いや、ごめん…マジでごめんっなんかゴメン!」
「なに謝ってんだ?つーかおめーがあんまり顔近づけるからなんか触ったぜ?」
「いや…触ったっつーか」
「頭突き食らうかと思って目ぇ閉じたから顔なんて見なかったけどよぉ、別に馬鹿にしたんじゃあねーんだから怒んなよ〜〜」
「えーーー…」
「それによぉ、母ちゃん美人っつっただけで」
「もー、いいよ…」
「なんだよ機嫌悪ィな…」
「だって肘でつっついて来たりよぉ、じっと見てきたり顔がどうだとか言って来たりされたらよ〜〜そう言う…アレかと思うだろうが」
「そう言うアレぇ…?喧嘩か?喧嘩は売ってねェぞ?」
「違うよ!そうじゃなくて…」
「あー?仗助。俺、頭悪いんだからよぉわかるように言えよ」

話が見えないと困惑顔で自分の馬鹿を棚に上げ非難する億泰に、仗助はマジかよとがっくりと項垂れた。
整った顔を盛大にへたれた情けないものに変え途方もない恋慕の情に嘆きを入れ深い深いため息を吐いた。


「…こいつぁ…グレートに………手ごわいぜ」
「??」






The last final 31
(ロキド) 2015/07/19

男のもたつく足を引き擦るように手を引いて歩いた。
男はなにも言わずぼんやりと足下に視線を落としていた。
あの場所を通りがかる時、男の様子を伺うとまるで意識していないのか特になんの反応もしなかった。

帰りついた男の部屋の扉が締まる音に、ようやく男は自分のいる場所に気がついたようだ。
見慣れた部屋を視界に入れ、靴を脱ぎ部屋に上がろうとする男の腕を引き寄せる。
公園からの道のりをずっと掴んで引いていた男の手首には掴んだ跡が赤く色づき残っていた。

「っ…」

公園で一頻り喋った後すっかり口を閉ざしたきりの男に妙な苛立ちを感じて、顎を捉えて無理に上を向かせるとその口をこじ開けるように舌を先を捩じ込んだ。
驚きよろける身体を玄関に扉に押し付けて、酒気の残る舌を追い回すと男は酸欠に喘いでいるのか自ら口を開く。
口の端から唾液が一筋溢れ出て男の襟を濡らした。
「ん…っ、…」
だらりと垂れ下がっているだけだった片腕がおれの背に回りくしゃりと裾を握った。
うっすらと開いた目に涙の膜を張り、男は抵抗すら見せずにいる。
口腔を荒らすだけ荒らし、掴んだままでいた男の手首を解放するとその手もすがる場所を探すようにおれの背後へと回った。
色の無い瞳はぼんやりとおれを見上げ、瞬きで溢れさせた涙が頬を滑って落ちていく。
追うように頬に、目蓋に唇を押し付けるとより強く腕がすがり付いてきた。


「ッ…ふ、ぅ…」
「……」

ベッドに縫い付けた男の身体を暴き、乱れた姿を見下ろす。
何処を見ているのか、虚ろな瞳は開いているのに視線が交わることはなく、思い出したように瞬きをする。
上の空かと頬に触れれば鼻に掛かった喘ぎを漏らした。






The last final 30
(ロキド) 2015/05/03

ローの息がすっかり落ち着いて、気が付けば公園を囲んでいる木の向こうに見える家に明かりが灯っていた。
お互い一言も発さないままで何してるんだろ…と、馬鹿らしい気持ちになってきた。
喧嘩の続きをしたいとは勿論思わない。でも謝るのも嫌だった。
気になるのはローのことだ。なんでここに来たんだろう…チラリと横目で見れば、まだ不服そうな仏頂面をしていた。ローにも謝る気はなさそうなのはその表情で分かった。
「バカみたいに根競べってやつ?いい加減腹も減ってたし、お互いに腹ん中ですっげー文句言ってたと思う」
足を組みなおしたり、意味もなく頭を掻いたり…次第に落ち着きなくなっていった。



そしたら段々…心配になって来たんだ。あいつも腹減ってんじゃねーのかとか、早く帰った方が身の為なのに…と。
足元の砂利をざりざりと鳴らしながら、ついに痺れを切らしたおれはボソボソと声を出した。
『んだよ…』
『なにが』
ローが横目でおれを見ながら返事を返す。どっちも不機嫌で掠れた声だった。
『なんで居んの』
『…お前が出てったからだろ』
『…はァ?』
『お前が帰らねェならおれも帰れねェ』
『意味わかんねーし』
『折半してんのに片方だけ出てって外に居るんじゃ不公平だろ』
『んだよ…それ』
『うるせぇ』
舌打ちとため息を散々聞かせ合って平行線のままただ時間が過ぎた。隣りでくしゃみをしたローが鼻をすする。
息を切らしてここに来たし汗が冷えたのだろうか。携帯で時間を見れば20時が回りそうで、思わず『帰れば?』とローに向かって言った。
無言で、睨むような視線だけを寄越すローにしかめっ面を返す。
『……何時だ』
ローが時間を聞いて来たので大凡の時間で『8時』と教えてやる。ここで無意味に過ごした時間を嘆くように顔を仰向けにしたローがぼんやりと空を見る。
『ここに居るって何で分かった?』
『…そっち…通った時に誰かいるのが見えた』
『おれじゃなかったらまだ探してたのかよ』
『思い当たりが全部潰れるまではな』
『…電話した方がはえーんじゃねぇの』
『したってどうせ出ねェくせに…、…?』
ローは呆れたように溜息を混ぜ言い捨てながら、はたとジーンズのポケットを弄った。一通り確認してから盛大に舌打ちをする。
『…家か?』
『ああ。……暫く待っても帰って来ねーし…傍で救急車走るし…慌ててたからな』
心配した。と呟くローにおれは急に泣きそうになった。引っ込みがつかなかった気持ちが萎れておれは何に対してかはっきりしない『ごめん』を言った。
そんなおれの顔を見てローは漸く顔の強張りを解いてベンチから腰を浮かす。
『帰るぞ…キッド』

ぎこちなく名前を呼ばれて見上げるとローの後ろには月と星が綺麗に見えていた。街灯の届かないところまで薄ぼんやりと輪郭を確認できるのは月や星が明るいからだった。
公園に入ってきたのが、ローだとわかったのもこの明るさだったから。

「結局…そのケンカした理由にケリは着かなかった。でもそれを通り越して生活に慣れてくりゃどうでもよくなってケンカしたことすら忘れっちまってたけど」
あの日、明るい夜道をローに手を引かれて歩いて帰った。小言を言い合いながらだったけど……

「……トラファルガー」
「………」
「帰ろうぜ」
重い腰を上げて立ち上がる。空を見上げても街灯の光に目を焼かれただけだった。
踏み出した酒に酔った足は小さな小石にも足を取られそうになる。
大きく力の強い手に腕を引かれて暗い夜道を進んだ。

どの道を歩いて帰っているのか…霞んだ目にはよくわからなかった。






The last final 29
(ロキド) 2015/05/02

「一々おれの言動を真に受けるな。おれはお前の知る男じゃないと言ってるだろ…世話になってるのはこっちだが、諂うつもりはない」
そう言って彼はおれの隣りに座りベンチの背に凭れかかった。
小さな子供が一人座れそうなほどのスペースを隔てて肩が並ぶ。
「さっさと帰れ。……顔色が悪い」
まるで独り言のようだったが、彼はそうおれに促した。
一人で帰れと言うことだろう…そして彼はまた外で夜を明かすのだろうか。
打って変わり、彼は黙ったままでいた。虫も鳴かない夜に雨の匂いを思わせる風が吹き抜けた。
このまま一人で帰れば、狭いと文句を垂れることなく悠々とベッドで休める。彼の気配を気にして過ごさずに済む。
その代わり、彼は…。どこで過ごすのだろうか。さっき宛ても目的もないこの世界で気を紛らわせたかったと言ってた。
昨日はそれで気が紛れたのだろうか。見知らぬ場所を歩き回るだけで、本当に…。

「………おい」
「…昔…、って言ってもローと今の部屋で暮らし始めてからだったから、3年とかそのくらい前だけど」
暫く黙って肩を並べていたが、彼は動かないおれに焦れたのか口を開いた。
そんな時、なんだか懐かしいことを思いだした。思い出したら口にせずにはいられなくなって勝手にぽつりぽつりと言葉になる。
話し出したおれに、彼は取り敢えずは耳を傾けてくれた。
「一緒に暮らしだして…やっぱ、融通きかねェこととか見えてきてケンカになった」

どちらが悪いと言うことではなかった。強いて言うならどちらともが悪くてお互い引けなくなっただけだ。
初めてのケンカだったわけじゃない。付き合い始めてから何度も喧嘩したし、その度に自然と仲直りしたり謝ったり、謝られたりした。
ただ、一緒に暮らすと互いに逃げ場がなくなった。ワンルームの狭い部屋だから尚更だ。目の前に恋人がいれば気持ちは落ち着かなかった。
おれは部屋を飛び出して、散々悪態を吐いた。それでも別れようとか思った訳じゃない。恋人を嫌いになったわけじゃない。好きだからこそ食い違いが起きて、これ以上嫌いたくないと思って逃げてしまった。
謝れば済むってわかってるけど素直にそれが出来ていれば最初から喧嘩もしないし部屋から飛び出したりもしない。
結局、少ししか離れていないこの公園にふらりと逃げ込んだ。日が暮れはじめて遊んでいた子供たちも帰った後の淋しい公園だった。
時折忘れたおもちゃを取りに来た親子や犬を連れて散歩にくる近隣の住民が横切って行くのを眺めていた。
別れようなんて思わない…でも許せない。一緒に居たらもっと酷いことを言いそうで怖い。
その前に、別れようと言われるんじゃないかと思うと怖かった。酷いことを言われるんじゃないかと、仲直りできないんじゃないかと思うと彼の居る部屋に帰ることができなかった。

「どうしようって、そればっか考えてた。携帯見てもローから連絡はねェし…薄情な奴だって勝手にまたあいつのせいにして」
そしたら、仏頂面したローが大股で公園に入ってきて無言でおれの隣りに座った。
そんな風には見せないようにしてたけど、静かな公園ではローの少し荒くなった息遣いは隠せていなかった。
ベンチの端と端に座ったまま、結構長いことそうしていたような気がする。気まずくて仕方なくて顔も背けたままで。
でも立ち上がった方が負けなような気がして。








The last final 28
(ロキド) 2015/05/01

街灯に照らされた彼の表情は、濃く落ちた陰で良くは見えなかった。
同僚からの通話を無理やり切り上げるが同僚は最後までおれのことを按じてくれていた。
いつから居たのだろうか…彼はただ静かにおれを見ていた。突き刺さるような視線を感じておれは後ろめたさから彼のことを見れなかった。


「おれには関係のないことだ」
「……!」
夜の静けさに大きく張り上げたわけでもない彼の声がよく通り、急に発されたそれに驚き思わず肩が跳ねた。
「帰りの時間を咎めるつもりもねェし何をしてたかなんて一々聞きもしねェ。おれがここに来たのも……偶々だ。」
暗に、おれに興味がないと言いたいのだろうか。彼の抑揚のない声はおれの浅はかな気持ちを知っている様にも聞こえた。
バカみたいに期待してしまった…。彼は、昨夜の様に出歩いていただけなのだろう。
意味もなく強張らせていた肩の力が抜けた。

「ただ…お前が今ここに居ることも含めて、おれの所為だと言うなら話は別だ。余所者を匿うのに疲れたか?」
「っ……」
全部見透かしたような優しさを錯覚させる声だった。
「それならそう言え。お前を恨みはしねェよ……。礼くらいおれも言える」
「待てっ…違…っ!」
そのまま去ってしまいそうなトラファルガーに咄嗟に腕を伸ばしかけた。
しかし以外なことに彼はこちらへ向かって歩きあっという間に隣りに立った。手の先が彼の腕に触れる。
おれは驚きすぎてトラファルガーを見上げているばかりだった。
彼は視線を逸らすことなくおれの目を覗き見る。

「……昨夜は眠れなかった。月が明るかったから外に出たが…おれにはこの世界で目的もなにもない。ただ、気を紛らわせたかった。お前が気にする必要のない気まぐれだ」
脈絡なく一方的に話す彼に呆気にとられた。早口ではなかったが口を挟む暇もなく言葉を紡ぐ。
「気が立っていたのもある。おれの世界へ戻る方法はおろか、それを見つける手立てもねェんだからな……」
淡々と話して居るように見えた彼の顔が、微かに苦く歪んだ。
この世界で何も進展することなく過ごす日常に彼が焦りを感じないわけがなかったのだ。







悪魔と出会いました 2
(クロスオーバー) 2015/05/01

DMC1のダンテ、バージル(捏造)とキッドの話。詳しくは前の話を
カテゴリ:クロスオーバーからどうぞ。





厚い雲に覆われ薄暗い道。足を進める度、濃くなる血の臭いに顔をしかめる。
帰りついた事務所のドアをいつものように蹴り開けた。

「バージル………?」



「なにやってんだ?アンタ」
「…。…遊びに付き合ってやっていた」
「ふうん?どーでもいいけど、事務所を汚すのは勘弁してくれよ。また借金が嵩んじまうぜ」

事務所を開けていたダンテが戻ってきてみると、ワックスの剥げた床…だけではなくそこかしこに血が飛び散った散々たる光景が目に飛び込んできた。
おまけに、双子の片割れである兄がその血溜まりに横たわっている。
しかし、普通ではないダンテの兄であるバージルもまた普通ではない。
仮に殺しても簡単には死なないのだ。
惨状に驚くこともせず、ダンテはバージルの側を横切った。
その間にも息を吹き返したバージルは何事もなかったかのようにむくりと起き上がり、乱れた髪を掻き上げる。

「掃除しろよな。客が来たらびっくりしちまう」
「ふん。客など滅多に来ないだろう」

ダンテは倒れた椅子を蹴りあげて起こすと素早く腰を下ろし、行儀悪くも黒檀の机に組んだ足を乗せた。

「で、何があった?」
「閻魔刀を奪われた」
「Hum...そりゃ大変だ。それで、あの坊やも一緒に取られちまったのか?」
「いいや。キッドに奪われ、序でに殺された」
「へえ。随分熱烈だったみてぇだな。素敵なキスマークなんか付けてアンタ羨ましいぜ」
「少し性急だったがな…まぁ、若いだけと言ったところか」

血に染まったシャツを脱ぎ捨て、バージルはいまだ塞がらない首筋の噛み痕に触れる。
深い穴が二つ。血は流れていないが、バージルはそこから自身に備わる魔力が抜け出ていくような気に晒されていた。
ふと、視界の端から何かが飛んでくるのが見え、パシりと掴み取る。

「高い貸しだぜバージル」
「これは?」
「毒消しさ。毒なんていつかは治るが、時間がかかるだろ?あって損はないからな」

ダンテはリベリオンの刃先を眺めながらニッと笑う。
バージルはそんなダンテを一瞥し、元より治りの速い身体は毒の消滅と共に瞬く間に傷は塞がった。
血に染まり穴の空いたシャツは丸めてごみ箱へ放り、新しくダークブルーのワイシャツにダンテの羽織る真っ赤なそれとは対照的な蒼いコートを羽織った。

「家族の誼だ。依頼料は後払いでいいぜ」
「貴様…今までいくら俺が立て替えてると思っている。安心しろ利子までとは言わん。後はこの血溜まりの掃除にまけておいてやる」
「ちぇっ…ま、掃除は帰ってから坊やにさせるとする…か!」

弾みをつけて立ち上がり、ダンテは壁に掛けてあった大振りの剣をバージルに寄越す。

「フォースエッジ…」
「無いよりはましだろ?ベオウルフはまぁ、休ませておいてやろうぜ」
「ダンテ貴様…」
「ほら、先月モニュメント壊しちまっただろ?あれの肩代わりにさ…あーあー、んな顔すんなよバージル。まとまった金が出来たら払い戻してくるさ」

帰って来たときと同様に事務所の扉を蹴り開け、一層暗さを増した空の下に出る。

「さて、悪ガキのお迎えに参るとするか」



===
正直終わるかわからない話だけどサルベージがてら。






The last final 27
(ロキド) 2015/04/30

未だ帰らない男に焦れ、今朝のことを気にして帰らないつもりなのかと呆れてくる。
自分の家なのだから帰ってきておれが気に食わないなら叩き出せばいいものを。
もう日を跨ぐぞ…。
自分の所為だと自覚がある分、男が帰らないことにしたくもない心配と苛立ちが湧いた。
遠くでサイレンが鳴っているのが聞こえる。この世界では珍しくない音だとはわかっているが今聞くのには癇に障った。



星も月も隠れた夜道はこの世界でも暗かった。街路灯は途切れ途切れにあるが細い通りになると寝静まりつつある町は闇と静寂が広がっていた。
おれには好都合であるから人目を気にせず道なりに歩く。この周辺は最初で歩き回った時に覚えた道だが、今も目的や当てがあって歩いているわけじゃない。
男の帰らない部屋から出て、いったいおれは何をしているのか…。まとわりつくような湿った風を鬱陶しく感じながら、また気づけばあの場所だった。代わり映えのないひっそりとした夜道。
感傷的になるのは下らないと足求めずにその場を過ぎ去った。

車も稀にしか通らない。男がどこでなにをしてるかも検討すらつかないと言うのに、男の家周辺を歩いて何になるのだろうか。
そう思っていると微かな音が聞こえた。甲高い、しかし虫の声とも違うもっと機械的な。
耳を澄ましたところですぐに聞こえなくなってしまったその音の方向へ何故だか足が向いた。
しばらく歩くと低い樹木に囲われたそう広くはない公園を見つける。音の聞こえた方にに向かって歩いてきたが音の出どころはわからなかった。
ただ、遠目にも街灯に照らされたベンチ座る人影を見つける。様子を見る限り一人でいるのに何か喋っているようだ。
確証があるわけではなかったがその人影に向かい歩み寄る。脱力したようにベンチに凭れて座るのはあの男だった。

この世界で言う"携帯電話"で男は時折困ったような顔をして微かに笑いながら話していた。
男の声を聴いている限り頷く声だけが多く、時折辟易とした表情をして見せる。
歩み寄って行くうちに街灯の真下に入り、眩しさに少し顔を顰めると男の顔がこちらを向いた。
目を見開き驚いた男は電話相手への返事を吃らせた。慌てて取り繕いながら男は頻りに「平気、大丈夫だから」と繰り返しておれから顔を背けるように背を丸める。
「もう切るぜ…ああ、大丈夫だって……ありがとう、な」
最後は消え入りそうな声で礼を言い通話を終わらせた男は動きの悪い人形の様に身を固く強張らせていた。






The last final 26
(ロキド) 2015/04/29

長く眠っていたと思ったがまだ昼も過ぎていなかった。男が仕事へ出ていってから数時間…何に備える必要もないこの世界では身体が鈍りそうだ。
その証拠に、こうして深く眠り平穏な昼下がりを迎えようとしてる。まったく自堕落な生活だ。
身体を起こせばツキリと引き攣る肩の傷を煩わしく思い、わざと大袈裟に傷のある肩を回した。

しかしやることのないこの世界では腑抜けもすると言うものだ。この世界のトラファルガー・ローが所持していたと言う医療知識の詰まった本は大半読み終えた。
知っている知識も多かったが、この世界ではさらに発展し画期的な治療法が日々産み出されているらしい。
この世界のトラファルガー・ローは古い医療技術にも興味があったようでそれらの本も稀にあった。
ただ、最初にこの部屋で目覚めた日に見たアルバムは目の届く場所にはないようだ。
あの日はテーブルの上に出されていたから元々の在り処はわからない。だが、しまうならこの本棚だろうとは思っていたがそれらしき物はなかった。
男が意図的にしまう場所を変えたのだろう。家探しすれば簡単に見つかりそうだがそこまでする理由も目的もない。
トラファルガー・ローが書き溜めたノートの一冊を手に取り捲る。
書いた覚えのない、自分と似た筆跡の文字を奇妙に思いながら目で追った。




日が暮れ、部屋に差し込んでいた西日も落ちてからどれだけ経ったか。男はまだ帰ってこなかった。普段なら多少のばらつきがあってももう帰ってきてもいい頃のはすだが。
そう思い始めてからも時間は過ぎて行き、暗闇に慣れた目で部屋の輪郭を眺めていた。
「チッ…」
無意識に出た舌打ちが嫌に耳に付く。今朝の男とのやり取りを思い出した。

昨夜眠れずに外へ出た。浅い眠りの中、隣りで啜り泣く男の声を聴いて過ごす趣味もない。
確かに、おれ自身がイラついていたのもある。この世界の微温湯のような平穏さ加減には気が狂いそうだ。
そのイラ立ちを男にぶつけるのは道理ではないとわかっているから下手な干渉をするのもされるのも拒んだ。
男が起きる時間に戻ったつもりだが、それよりも早く起きていた男は外から戻ったおれを見て驚き、そしてあからさまにほっとした顔を見せた。
その顔から次いで出てくる言葉は想像がついた。案の定、何処へ行っていたのかと問う男に『お前には関係ない』と返す。その言葉で意味を汲み取った男はそれ以上詮索せずに口を噤んだ。

もう一度出そうになった舌打ちを堪えて溜息を零す。
「関係ねェ…か」

自嘲の笑いがでる。随分自分勝手な物言いだ。
こうしてあの男に取り入っている身の上だと言うのに。






The last final 25
(ロキド) 2015/04/28

湿った風が頬を撫でて行く。朝には雨が降りそうだ。
おれはベンチに腰を下ろしたまま動けないでいた。連日の解けない緊張と取れない疲れに加えて、飲酒して憂さを晴らす様に動かした身体はどんどん重くなっていく。
ふと、ポケットの中で携帯が震え静かな夜闇にけたたましい音が鳴った。先ほど別れた同僚からだった。

「…はい」
出ないわけにもいかなくて通話に出る。酔いに任せていた先ほどの陽気な様子とは違い大分落ち着いた同僚がまたおれを気にかけて連絡を寄越してきたようだ。
同僚たちにつられるように笑っていたおれが、同僚の目には無理していると映ったようだ。
「ああ…平気。久々だったからはしゃいだだけだ」
心配される自分をどこか客観的に感じて思わず笑う。それを聞き咎めた同僚は間をおいて心配しているのだと言ってくれた。
生返事を返すと、まだ完全に酔いが醒めてないのかどこか説教臭く同僚が喋り出す。
苦笑いをしながら繰り返し返事を返していると、視界の端に街路灯に浮かんだ陰が目に入り肩がはねた。
「あ、いや…なんもねェよ。ああ…わかったから。もう平気だって」
こんな夜更けに音もなく人が現われたらただでさえ驚きもすると言うのに、現われたのが彼…トラファルガーだった。
息を詰まらせたおれを不審そうにする電話の向こうの同僚に慌てて返事を返す。少し離れたところからじっと寄こされる視線から逃れるように顔を背けた。
ドクドクと胸が煩く鳴り響き、同僚の声は半分も聞き取れなかった。




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