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ジャンル入り混じります。ご了承ください。
趣味のクロスオーバーもあるかも
・完結見込みのない話も置いてあります。


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Place of my heart
(ロキド) 2015/03/20

たまに抱かれる男に、好きとか愛しいとかそんな言葉を吐かれる。
自分のモノになれ、好きなものを与えてやるからとヤった後の気怠い微睡みの中に笑いたくなるほど真剣に説く。
折角、気持ちのよい微睡みに身を任せていたのに。そんな残念な気持ちになりながら横たえていた身を起こしてさよならを言う。
次はもうない。用なしの携帯をテーブルに置き去りにして、代わりに煙草とライターを貰って行く。

「そう言うのは間に合ってる」


薄暗くなって行く街中にネオンが映え出す頃。
暗がりに紫煙を漂わせながら、目的の場所へと足を運ぶ。
いかにもオッサンが好みそうなキツイ煙草が不味く煙草を吸ってるのにイライラしだす。がじ、とフィルターを噛んでみてもちっとも気が張れなかった。

にゃお。
愛相程度の鳴き声に足下をみる。見知ったネコが尻尾をくねらせながら、靴先に頬擦りした。
しゃがみこんで猫の額を指先で掻いてやり、ふと前に言われた言葉を思い出した。

お前の吸う煙草の煙は、猫のしっぽみてェだな

ふうわりと帯がたなびくように煙る。うねり、揺れながら行き先を探す煙りが目の端へ流れてはスゥと消えた。

ボイラーと排気ダクトの唸りが繁華街の賑やかさを追いやる路地裏。
酒瓶のケースやゴミの積まれた小汚ない場所に、見知った猫は4匹に増えていた。

「おっと…今日は1匹多いな。フフ…お前らの取り分が減るァ」

ギッ、と耳につく軋んだ音をたてて店の裏口が空く。
中の灯りが外に漏れ出して、おれは眩しさに目を細めた。
猫たちは尻尾を立てながら、店の中から出てきた男の前に集りだす。

「久しぶりだな。誰かに拾われたのかと思ってた」

毛色だけは良いからな…なんて声を聞き、腰エプロンの長い裾が見える足下から視線を上げればゆるりと笑っている顔があった。
男は猫に擦り寄られないように注意しながら上背を屈めて猫たちの前に皿を置いた。途端に群がる猫がカツカツと皿に盛られた餌を頬張りはじめる。
あれほど男に愛想振り撒いていたのに、餌を与えられればもう男の方を見向きもしない。

「お前ももう少しまめに愛想を振り撒きにくれば可愛げもあるのにな」

揶揄されて苦い顔をするおれにもう一度声に出して笑い、吹かすだけの煙草を取り上げた。
一口吸って溜め息混じりに紫煙を吐き出す。

「こんなオッサンしか吸わねェようなキツい煙草…趣味が悪ィ」

そう言うなり外の水道脇にあったバケツの中に煙草を投げ捨てた。
じゅっと火の消える音を微かに聞き咎めて、すっかり皿を空にした猫たちはダクトの下で顔を洗い始めていた。

「入れよ。食いっぱぐれのままじゃ可愛そうだからな」

猫には触れなかったその手でおれの頭を一撫でして中へ促す。


「おかえり。ユースタス屋」

おれが来る度そう言って迎えながら。


ーーーーーーーーー
猫のようなキッド。
携帯は遊び相手がまるで首輪代わりに持たせてやってる設定。要らなくなったら返すか捨てます。
エプロン男は勿論ロー。最近上がり込んでくるようになった猫が可愛い。







The last final 22
(ロキド) 2014/01/17


こんなにからっぽで無気力でも仕事はできるのもなのだと知ったのはそれこそ一年前のことだ。
ローの家族でもなんでもないおれはローの葬式の為に3日間仕事を休んだ。
名分は「友人」の葬式なんていうもので、おれは翌月の給与明細に付いた休暇のしるしを見て淋しかった。

考えないように、ただ仕事をしていたらあっという間に一日が経つ。同僚のやっと終わったという気だるげな溜息に交じって、嘆息する。
彼は、どうしているのか。
『お前には関係ない』耳に残る声が帰宅を躊躇わせた。いっそ、今朝方の様にどこかへ出ていればいいのにとさえ思ってしまった。
匿うと決めたのは自分なのに。

「ユースタス。最近すぐ帰るけどいい人でもいるのかよ」
そんな同僚の声に鼻で笑い飛ばしながら悪態を返してやる。
鼻で笑ったのは脳裏に浮かんだ彼に似た男の姿を打ち消したかったからかもしれない。
「そんなんじゃねェよ」
「じゃー、たまには飲んで行かねェ?」
「……1杯くらいは奢りだろ?」
「はー?…ま、しゃあねーなァ、誘っちまったの俺だし」
「マジで!?お前の奢りかよ」
「お前らには奢らねェよ!」
他に数人寄ってたかってくる同僚に交じって笑いながら、おれは帰りたくないと思うままに久し振りに同僚に誘われることにした。

そうだ。どうせ関係ないのだから…。






The last final 21
(ロキド) 2013/09/13

夢を見た。細部まで覚えてはいないけれどそれはローの夢だった気がする。
何かを話すローの声は聞こえなかった。パクパクと動く唇を読み解こうとおれは必死になっていたような気がする。
手を伸ばしてもローは遠ざかるばかりなのに、おれの頬を拭ったのは、誰の指だったのだろうか。




差し込んできた朝の光に起こされる。窓を見ればカーテンが少しだけ開いていていた。しっかり締めなかったのだろうかと昨夜のことを思い出しながら、ふと己の横を見る。
トラファルガーの姿がなかった。
「…いない…」
シーツを撫でてみても温もりは残っていなかった。先に起きているのだろうかと耳をそばだてても部屋のどこからも物音や気配を感じられなかった。
「彼奴の世界に帰ったのか…?」
その呟きに帰ってくる声もなく、外から聞こえる車や生活音に掻き消される。
ローの夢のあとに、似た存在とは言え彼が居なくなっていることが哀しく思えた。胸に冷たい何かか流れ込んでくるような気さえする。
「……」
動かなければ。仕事もあるし、と立ち上がるとそれが目に入った。トラファルガーの刀だ。
これを持たずに帰ったのか…?手を伸ばしかけたところで、玄関のドアノブが回る音がした。
「…!…トラファ…」
「あぁ…。起きてたか」
外に出ていたのか、トラファルガーは部屋に入るなりドサリとベッドに仰向けに寝転んだ。その時丁度アラームが鳴り、トラファルガーはその方向を見ずに少しだけ後ろに伸ばした手で煩わしい音を止める。
「何処…行ってたんだ…?」
「その辺だ。…お前には関係ない」
そう言って目を閉じてしまった彼は、今から寝るつもりなのだろうか。詮索をするなと暗に言われたその言葉におれの言葉は続かなかった。

朝の支度をして、ベッドに寝そべったきりそのままの姿で動かない彼をチラリと伺う。目を閉じてはいるがきっと寝ていないだろう。
軽い朝食を飲み物と共に流し込み、居心地の悪い部屋から彼に声を掛けることなく出た。
彼の分の朝食はテーブルにそのまま…気が向けば食べるだろうし、食べないならそれでいい。

彼は同じベッドで過ごすことに飽きただけだろう。怪我も治ったと自分で言っていたし。行こうと思えば何処にだって…だから、何処へでも行けばいいんだ。


(ロー…)
お前を焦がれる思いだけが膨らんでいく。






The last final 20
(ロキド) 2013/09/12

「…ロー…」
ぽつりと閉じた瞼から水が落ちていく。暗がりに慣れた眼でそれは十分に見て取れた。
ぐずりと涙にぬれた声音がおれのものではない名を呼ぶ。
夢の淵での再会を果たしているのか、それとも別れの際を繰り返し見ているのか…男の夢を覗き見ることなんてできないので、泣いている理由もわからなかった。
時折動く指先は何を求めているのだろうか。
だが、夢の中の『ロー』は男を連れて行くことはないだろう。姿を見せては離れて行くはずだ。
男を…ユースタス屋を置いて。
「苦しむなら見なければいい…」
夢は記憶の焼回しだ。
「そいつを焦がれて今さら何になる。夢に逃げてその度に泣くつもりか」
眠る男に語りかければ固く拳を握っていた。浅い夢に眼球が動き瞼を震わせている。
「馬鹿な男だ」
濡れた目尻に指を這わせ、涙を拭ってやった。
ふ、と息を吐きくたりとこちらを向く横顔を異様に明るい月明かりが映し出していた。






The last final 19
(ロキド) 2013/04/22

波の音も聞こえない夜の静寂。
耳を澄ませばいろいろな音は聞こえてくるが、この世界では何に備えようもなく気配を探ることも耳を欹てることもやめた。
気の抜けきった知覚に無音が煩く思える。その中に緩やかな寝息が微かに混じって聞こえるのを、唯一の音として認めていた。

気を張ることに慣れていない躰は連日の寝不足も相まって短時間の間でも深く眠りに落ちるようになったようだ。
頑なに浅い眠りを繰り返しおれを気にしていた男は今は疲れに負け眠りの底に落ちている。深い底に落ちる前に寝返りをしたのか、いつものように壁の方ではなく此方を向いて寝ていた。
そのうち、浅いところに戻って来ては慌てて壁の方へ向き直るのだろう。
整髪料のついていない髪が目元や頬にかかっている。線が細い優男なわけでもないのに、見知った男と比べると儚さを覚えた。
この世界で死んだトラファルガー・ローを思い続けているからだろう。後を追うこともできず、ただただ生きて、自分にもいつか訪れるだろう死を早く早くと待っているのだ。
無意識に伸びた手を寸でで寝乱れた髪のひと房に触れるだけに留めた。
手負いの獣も、拾われたのも己の方だと言うのに、この男と居るとまるで迷い猫を保護したような気分だ。






The last final 〜寝物語〜
(ロキド) 2013/04/13

「どうした、眠れないか?」

日付を超す間近になり、キッドはトラファルガーに促されるままベッドの壁際に寝そべった。
最近では慣れたと言うよりも諦めてこの現状を受け入れていたキッドだったが、今晩はどうにも素直に目を閉じる気になれずにいた。
普段はすぐに壁の方を向いてしまうのに仰向けのままそう高くもない天井を見る。
そんなキッドにトラファルガーはベッドに腰掛けた格好で問いかけた。
そうだとも違うとも言葉返ってこなかったが、様子を見れば眠れそうにないことは明らかだった。
これまで頑として背を向け、眠れずとも硬く目を瞑って長い夜をやり過ごしていた男が珍しいと、トラファルガーは思う。

「つい今まで夏の日差しが差していたと思えば行き成り雪がちらつく」
「…は?」
「そんな海を航海していた」

突然喋り出す男の背に、キッドの疑問符が飛んだ。

「航海には、先を示す指針…記録指針、永久指針が不可欠でそれを頼りに航路を決めて島から島へと渡って行くんだ。その道中にどんな厄介事があろうとな」
「厄介事…?」
「天候もだが、他の海賊船や海軍との抗争、海王類…島に上陸しても海軍や賞金稼ぎに追われもする」
「船って、やっぱりでかいのか?」
「そうだな。ただ、おれの船は潜水艦だ」
「…へぇ…」
「想像がつかねぇか?ふふ…まぁ、口でも説明は難しいけどな」

トラファルガーは思い返す様に目を閉じ、今日になるまで元の世界に帰るすべを見つけていられないことへの焦りを募らせる。
船長が居ない、指示も残していない己の海賊団がどうしているのかが気がかりでならなかった。

「……お前さ…」
「うん?」
「海、恋しい…とか?」

キッドの声に少しだけ背を振り返ると、しおらしくした顔が見えた。
どこか声も頼りなさげで、そんなキッドを見たトラファルガーは一度呆けて、そのあと肩をすくませてクツクツと笑う。

「クッ…フフフ…!」
「なっ!人が真面目にッ」
「わかってる、悪い悪い…クックックッ…ああ、そうだな…海が恋しい。ここじゃ潮の匂いも届かねぇし海と空の混じる地平線なんかも見えやしねぇからな」

トラファルガーが再び背を向ければ、皺を眉間に寄せるキッドの不満顔は見られることはなく。また、今も喉の奥で笑っているトラファルガーの表情も見られることもなかった。

「海……!」
「どうした?」
「あ…いや、…海、行ってみっか?」
「…海があるのか?」
「近くはねェけど…。電車乗って行けば1時間ちょい?」
「いつ行ける?」
「え、あ…次の休み…とか」
「そうか」

今度は身体ごとキッドへ向き直ったトラファルガーが口元に笑みを見せる。
キッドがさっき言いかけて止めた言葉は、トラファルガーの中にもあったようだ。
『海に行けばなにかあるかもしれない』
それを胸に、今トラファルガーは期待感を膨らませていた。

「…そんな、海が好きかよ」

キッドはぽそりと言葉を零した。そして言ってしまってから迂闊さに後悔する。
トラファルガーの視線から逃げるように目を逸らした。

「どうだったか…忘れたな。ただ、海には嫌われてる」
「…?」
「おれはカナヅチなんだ。海に入ると体の力が抜けて、全身が浸ると抗うことも出来ずに沈んでいく」
「…泳げねぇのか?海賊なのに」
「偏見だな。まあ…海に出る以上は泳げた方が身のためだが。おれは泳ぎ方を知っていても、泳げずに沈んでくのさ…海に嫌われっちまったからな」
「意味、わかんねぇんだけど…」
「瞬きせずによく見ておけ」
「は?…おわ!?ッ!?」

キッドの揺れた視界に、さっきまで自分が頭を乗せていたクッションが映る。
一瞬の間に頭の下から抜けたクッションの嵩が減り、キッドの頭が直接シーツへと落ちた。一瞬で消えたように思ったクッションは今はトラファルガーの手に乗っていた。

「手品…!?」
「能力、と言ってもらおうか。これが…これだけじゃないが、海に嫌われてカナヅチになる代わりに手に入れた能力だ」
「い、意味わかんねェ……!」
「お前の手足をバラすこともできるぞ?して見せようか」
「!?」
「なに…死ぬことはねェさ、多分な。ただ世界が違うって言うのがどう作用するか分かったもんじゃねえからなァ…近い場所の物の移動はできるようだが」
「お、おまっ」
「冗談だ。お前に死なれたら困るんでな…確証のない実験台にはしない」

キッドの反応に面白そうに笑いながら枕を返しトラファルガーはさっさと電気を落とす。
返された枕を不審そうに見て触れていたが、いきなり電気が消えると少しだけ驚いた後にもそもそと寝る体勢を整えた。

「…眠れないか?」
「寝れるわけねェだろッ」

トラファルガーに言わせれば『能力』、そんな変な能力を見せられた後にころりと眠れるはずもなく、語気を荒げるキッドに対して笑いを含ませた声がする。
文句の為、思わず壁に背を向けた躰に長い腕が乗った。

「あッ…」
「おやすみ」

鼻先に男の温もりを感じる。
向かい合った躰が眠りを迎えるのはまだまだ遠そうであった。



---------------
閑話






The last final 18
(ロキド) 2013/04/06

躰を重ねたのはあれっきりだった。それでよかった…むしろもうそう言う行為を重ねたくなくておれは敬遠していた。
彼相手におれがいくら間合いを取って身を固くしようと、きっとその気にならずともやすやすと手を出すことは簡単だろうけど。
『借りはその都度返した方がいいだろ?』
そう言って口を重ねた男はその夜、不敵に笑って言った。
『"ロー"が恋しいならいつでも躰を貸してやるぜ?』
傷からの熱で火照った躰で迫ってくる彼を押しのけて『そういうつもりはない』と剣幕を立てるおれを見ても瑣末にも捉えず、顔を寄せてきた。
パシン、と乾いた高い音が掌から鳴る。彼の頬を這った手がじんと痺れ自分の起こした衝動に気が付いた。
『あ…』咄嗟に、やり返されると危惧しながらも、しかし謝るのもおかしい気がして言葉が続かなかった。そんなおれに彼は鼻を鳴らすとゆっくりと身を引いていった。
『うわっ!?』近かった躰が遠ざかって行き、気まずくとも少しほっとしたのも束の間、すぐに腕を引かれてベッドへと突き飛ばされる。
躰を貸すなんて言いながら強硬手段に出ようとでも言うのか。彼の行動に慌てて抵抗すると熱く、重い躰がのしかかった。
『もっとそっちに行け』
『なにっ』
『おれが寝れないだろ』
ベッドに乗り上げた脚でおれを端へ押しやって隣りに入り込んでくる。
セミダブルに大人、それも体格のいい男が2人はとてもじゃないが狭い。
『お前1人で…っ』
『お前はどこで寝る?』
『おれ…は、いいから!退けって、手ェ離せよ!』
『良くねぇな。風邪を引かれちゃいい気がしねェんでね。どうせほかに布団もないんだろ?それともおれを床に寝かすか?』
『〜〜…!』
『多少の寝返りは気にしねぇさ。とっとと横になれよ…おれも流石に疲れてるんでな、早くしてくれ』
『…電気』
『おれが消す』
腰かけていた腰を浮かせてトラファルガーが電気を消す。その間に壁の方を向いて横になる。
電気が落とされて闇に包まれた部屋に絹擦れの音だけが目立った。
ギシっと音を立ててベッドが沈む。トラファルガーが隣に身を横たえたのが気配で分かった。しかも、おれの方を向いている。
『……、おい』
『仕方ないだろ。仰向けかそっち向くしか出来ねぇんだ』
なら素直に仰向けで寝ればいいのにと、悪態をつきたくなった。傷のある肩を下にしては眠れないだろう、かといっておれとトラファルガーの場所を入れ替わると、仰向けになったりおれが寝返りを打ったりすれば傷に触ってしまう可能性もあった。
身じろぎするのも憚られる窮屈さに眠れそうもない。なによりトラファルガーの体温が背中に伝わってくるような気がして、吐息が側で聞こえて落ち着かない。
ただじっと壁を見ながら身を固くしていると、小さく、吐息で笑う音が聞こえた。
『眠れ』
ベッドが少し揺れる。トラファルガーが仰向けになったのだろう。
『部屋の中で起きて動き回られる気配があるとおれが落ち着かねぇ…、いっそこうしてる方がマシなんでな。大人しく…寝てくれ』
闇になれた目がぼんやりと部屋の輪郭を映す様になる。そっと躰を起こして隣りの男をみると目を閉じて緩やかに胸を上下させていた。




あの夜、ベッドを揺らさないようにゆっくり躰を戻して、冴えて眠れそうにない目を無理に閉じた。
男の微かな呼吸音を聞きながら、ローと同じように狭いベッドで寝ていたことを思い出していた。
足を絡め、身体を触れ合わせて眠った夜はもう2度と―――

「寝るぞ」
時計を見た男が読みかけの本をパタリと閉じた。おれを気遣っているのだろう、夜は日付の変わる前にベッドへ促す。
数日経った今も同じベッドで寝ていた。布団を買ってしまおうかと思ったがトラファルガーが要らないと言ったのだ。「おれが元の世界に帰ればもて余すことになる」と言いくるめられた。
その時は、そうだな…と思ったがこう寝る前になるとやっぱり買った方が良かったんじゃないかと思う。
いつまでこの男がいるのかわからない今、せっかく布団を揃えた日にふつりと居なくなる可能性も、このまま一月…もしくはそれ以上いる可能性もあり悩まされるままだ。
「寝れねぇことはないんだ。余計なものが増えなくていいと喜べばいいだろ?」
まだぐずってんのか、と男が笑う。
「おれは文句ねェと言っている」
「おれはあんだよ」
「拾いモンをしたのはお前だろ」
「……」
「フフ…」
腕を引かれベッドへ押し込まれる。電気を消した男はもう傷を庇うような仕種は見せず躰全体でベッドの端へ追いやられた。
「たまにはこっちを向いて寝ろよ。躰が凝るぜ?」
「…」
「…ハァ」
「なっ!?」
「腕のやり場がねェんだ、貸してくれ」
傷のある向こう側の腕がおれの躰に乗せられる。トラファルガーに背中から抱きしめられるような形になり、背中にトラファルガーの胸元が触れた。
「折角拾ったんだ…手の中にある内は好きに使えばいい。言っただろう…おれはローじゃないが、いつでも貸してやる」
囁かれる甘い言葉が耳を擽る。背中に伝わる熱が恋しがる気持ちを呼び覚まそうとする。
「おやすみユースタス屋」
目を開けているのか、閉じているのかわからなくなるような闇に声が融ける。
違う男だと分かっているのに。
この男はおれを少しも想っていないのに。








The last final 17
(ロキド) 2013/04/04

数日間を共にして、あんなに似ていると思った筈の彼を「そうでもないんだ」と思いはじめた。
あの日、彼を拾った日。似ているんではなく、おれは本当に『あいつ』だと思った。帰ってくるはずは無いのに、再び会うことなんて出来るはずないのに容姿がまったく同じ彼を見て浅はかに期待をした。

「おい」
「っ、んだよ…」
彼とあいつが似ていないと思うことの1つとして、いまだ慣れないこの距離だった。
おれ自身、身長があるので友人知人で目線の合う奴も少ない。自分が視線を下げることがあっても見上げることなんて滅多になかった、のに。
「この本は読んでもいいのか」
「ああ…勝手にどれでも読めよ。その辺のはローのだし…」
別の世界から来たらしいこのトラファルガーは、俺よりも幾分か背が高かった。
おれの知るローはおれよりも10cmくらいは低かったのに、同じ声がほぼ真横からそして振り向けば真っ先にかち合う目線がとても奇妙に思えた。
「…?なぜ視線をそらす」
「別に…、っちょ…や!」
「フフ。コーヒーを淹れてくれ…今のは礼の先渡しだ」
強引な手に顎を掬われて唇が重なり合う。硬く引き結んだおれの口をやんわりと食んで離れていった彼は唇をニヒルな笑みを乗せていた。

彼との生活は付かず寄りつかずだった。トラファルガーは基本的に無駄に動きもしなければ喋らなかった。この世界のことを度々、二言三言尋ねるほどで。
おれも最低限距離を置いて聞かれれば答えるに徹する。居心地がいい物ではないが、声に、雰囲気に、そこに居る気配に少しだけ安心していた。
ローが死んでから、ローのことを忘れるのが嫌であいつが読んでいた医学の本や辞書を本棚に並べていた。勉強に使っていたノートも数冊…本やノートから飛び出る付箋や、あの頃読んでいたハードカバーの小説に挟まれた栞が日々挟まる頁を進ませていくのを見るのが楽しみだった。
それらを今、彼が手に取り眺めている。組んだ足に本を支える手を預けて視線を上下させる。時折淹れてやったコーヒーをすすり、また頁を捲るそんな仕草の1つ1つ。
ローと重なっても、どこか違った。


このトラファルガー・ローはおれを好きではないのだ







The last final 16
(ロキド) 2013/03/28

ぐるりと肩を回すと、それを見ていた男は物を言いたげに顔をしかめた。可笑しい奴だ…自分の躰のことではないのに何故そうも心配できるのか。
縫合して4日経った傷は動かせば突っ張るがこの程度動かしたところで開くことはないだろう。"治った"と言うことにしてここしばらく傷を覆っていた包帯やガーゼを取り払った。
固定してた煩わしいそれらから解放され、再び肩を回せば凝り固まった筋肉が解れるような気さえした。
「そんな顔をするな。もう傷は塞がったって言ってるだろう」
「あんなに深い傷がか?」
「柔な躰には出来てねェんでな。下手に縫っても治りは早いさ」
「…」
「冗談だ」
男は余程、自分の施した縫合を気にしているようだが見目はどうであれ傷は付いたのだ。それ以上に望むのもがなければ傷が残って惜しい躰でもない。現に消えない傷は至る所にあるのだ。
「仕事に遅れるんじゃないのか?」
「ああ…」



あの男に世話になるとなってからこの世界のことを聞いた。元の世界よりよっぽど平和で、秩序に塗れている。自由に海賊をやっていた己としては退屈で、不自由に感じた。
けれど、自由の為にもルールや縦社会に居たおれは柵(しがらみ)の中に居るのと変わらなかったか。
この世界に来て1週間近くなる。はじめの2、3日はともかく、この数日は男の部屋に篭もりっぱなしだった。傷による熱はすっかり引いたが満足に動かない腕に、武器が持ち歩けないとなれば大人しくしているに限る。
男はここに1人で暮らしている様だがそのためにも稼がなきゃならないのは当然で、おれがここに身を置くことにした翌日もおれを気にしながら仕事へと向かった。故に日中は1人で過ごすことになる。
ここを出て行く、そんな気は今はない。テーブルに置かれた銀色の鍵はこの部屋の鍵だと言って男は置いて行った。探索に歩くなら…と言うことだろう。
それでおれがここに帰ってこなかったとして、あの男はどう思うのだろうか。…考えて、止めた。
数日で見慣れた男の表情はいつだっておれに似た男を焦がれ、おれの中のそいつを見ている。期待を滲ませる。そして失望して悲しげに目を伏せる。
おれがいることで苦しむくせに、おれがいることを喜んでいる男を見るのが心地よく思えた。








The last final 15
(ロキド) 2013/01/05

鏡に映る傷を縫うのは普段と勝手が違い過ぎた。距離感も掴むのが難しく針を刺すのに迷いが出る。
これが他人の傷ならば正確に素早く縫い合わせることができるのに。
自分の躰なら多少歪になろうと構わないが、針が傷から近すぎ、遠すぎるのは流石に拙い。傷もちゃんと付かない恐れも出るだろう。

「…っ、…、〜…」
「……おい。いい加減にしろ…気が散って仕方がない」
ただでさえ熱に散らされかけている集中力が、向かいで鏡を持つ男の息を飲む音や度々歪む表情に余計に邪魔をされていた。
口に含んでいたタオルを吐き出して溜息を吐くと、罰が悪そうに男の視線が泳いだ。
「い、痛そうで…」
「そう思うなら見るなと言っただろう。わざわざ見ていてもらわくてもいい」
乾いた目を癒そうと目を閉じる。途端に瞼の裏で光が破門状に揺れた。
実際、痛みには強い方だが傷に腫れもあるからか針や糸が皮膚を通る痛みは強い。
舌を噛まないようにタオルを含んではいたが、傷に集中しているからか無意識に歯を食いしばっていたようで顎が疲れている。
「それとも縫ってみたくてそんなに見ているのか?」
「!?違っ…」
「そうか?」
この男はどうにもからかい甲斐がある。傷も傷を縫うのを見るのも恐ろしいのだろうに目を逸らさずにおれの手元を見ていた。
何故か自分が痛みを感じているかのように顔を歪めながら冷や汗をかきながら…泣きそうにしながら。
「お前がやってくれるならそれがいいと思ったんだがな」
冗談半分、微かな望みで半分…言ってみて、フッと自分で笑いが込み上げた。再びタオルを咥えピンセットで針をつまむが取り落としてしまう。集中力は完全に切れてしまった今、後は気力だけだった。
辟易した気分になりつつ落とした針を取りなおそうとした、熱のせいで熱いおれの手を緊張からか汗ばんで冷たくなった手が掴んだ。
「……っ、どうなっても、文句は言うなよッ」
目を吊り上げて、男はおれの緩んだ指からピンセットを取り去りそろりと針を掴む。
経験も自信もないのに見兼ねたのだろう。どうせ自分でやったとて満足に縫えやしないのだから申し出はありがたい。
「ああ…言わねェ。傷が付きさえすりゃいいさ」
少しつつけばムキになるのも、覚えのあるあの男そのままだ…。
緊張で色の無い頬に汗を滑らせる男はぎこちなく傷口に針を構えた。おれは逆の手で鏡をかざし傷を映す。男の手元が針先を迷わせているのを見る。
「もう少し傷の方でいい…ああ、そのあたりだ。おれが痛いのは今更だから気にせずに縫え。…だが布を縫うんじゃねぇんだ、刺し直しは勘弁してくれ」
「ふ…ぅ…うぐっ…」
「糸はまだ引っ張っていい。多少斜めになっても気にするな…上手くなくて当たり前だ」
意を決して針を潜らせる男はその感触と触れれば動く肉に呻きを上げた。
糸を引けば遊んでいた傷口が少しずつ合わさり閉じていく。
「焦るな。ゆっくりやればいい」
「…、…は……」
「息はしろ…酸欠になるぞ」
細かい作業をやっているからか無意識に呼吸を止めているらしく、一針毎に細い溜息が聞こえてくる。
あと3針くらいでいい。そう言えば男は黙って頷き額の汗を拭った。


「…ッ、はぁ、…これで、いいんだろ…?」
「ああ、上出来だ」
震える指を叱咤し、根性で傷口を縫い上げた男は汗でも目に入ったのだろう。目を赤くさせ潤ませていた。
余程緊張していたのか、縫合が終わった途端に頭をうなだらせ座り込んでいる。
まるで大手術後のようだが…まぁ、仕方がない。小さな傷ならともかくなれない人間には酷だったのかもしれない。
「へたり込んでいるところに悪いが、まだ手を貸せ」
包帯を巻いて暫くは安静と言ったところだ。男は泣きはらしたような顔を上げて最後の一仕事に包帯を巻いて行く。
「きつくねぇか?」
「丁度いい。包帯を巻くのは上手いな」
「……悪かったな…変な縫い方して」
返した言葉は皮肉と取られたらしい。自分なりの礼のつもりだった言葉だが、伝わらなかったようだ。
ふい、と視線を逸らされたことに胸のつっかえを感じた。
「アァ…それにしてもお前には借りが出来過ぎるな」
「別に借りとか……、ちょ…おいっ」
男の腕を取り引き寄せて躰を近寄らせると焦ったように掌が胸を押し返してきた。
「借りはその都度返した方がいいだろ?」
「ッ、…そういうのは、いいっ……もうあんなことしな…!」
煩く拒む口を身を乗り出して距離を詰めた唇で塞ぐ。すぐに背けようとする顔を、顎をとらえることで止めて硬く閉じる唇に舌を這わせた。
「ンッ…ぁ、ふぅっ…」
暫く抵抗して見せていたがそれも緩み、隙間から舌を割り込ませる。口腔を探り唇を食んで唾液を混ぜる。
胸を押していた手も今は添えているだけで、その手はいつまでも冷え切ったままだった。
「ンン…」
「暫く厄介になるんだ…礼はこれしか出来ねェが頼むぜ…ユースタス屋」
互いの瞳を覗き込むように間近に顔を寄せる。
ぎゅっと眉間に寄る皺に閉じる口元が不服さを物語っていた。






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