遼仁
突然、張遼の力強い腕に抱きしめられ曹仁は困惑した。
「曹仁殿、樊城にて関羽殿にやられたと聞いたが無事で何よりです…心配しましたぞ」
「ああ…張遼、すまないな心配掛けて。傷はそこまで酷くないから大丈夫だ」
曹仁は抱きしめてくる張遼に微笑む。
「関羽殿に、酷い目に合わされたと聞いたが身体は大事ないか?」
「ああ…少し疲れたがゆっくり休めば平気だ」
「本当に?」
「何故、そんなに聞いてくるのだ張遼…?」
不思議に思い、曹仁は張遼に尋ねる。
「だが、曹仁殿の首筋に…痣が出来ている」
「痣だと?」
「ああ…」
張遼の言葉に曹仁は樊城での戦を思い出す。
確かに関羽と一戦交えた。
確か、関羽の青龍刀が首筋に掠めたのは覚えている。
「問題ない。これは武器が当たった時の痣だ」
「なら、本当に関羽殿とは何もなかったのか?」
「くどいぞ、張遼…私はふちらな想いを関羽殿には抱いてはいない。相手は敵だぞ…」
心配そうな張遼に曹仁は宥めるように呟く。
「私は曹仁殿が好きなのです。貴方は無茶をするから心配なのです…」
「すまない…張遼」
曹仁は張遼の腕の中で呟き身体を委ねた。
「貴殿の言う通りだ。私は無茶をしてまでも樊城を守りたかった…」
「曹仁殿…」
「結局は無駄な足掻きなのはわかっていた…呉の協力が無ければ城は落ちていただろう」
「それでも貴方は立派に役目を果たしたのだ…後悔しないで欲しい」
「張遼…ありがとう」
曹仁は張遼の背中に腕を回し抱きしめる。
「今は私がおります。だからゆっくりと休んで欲しい…」
「なら、今日は側にいて欲しい。張遼がいるなら何もいらない…」
「ええ…曹仁殿の側にいますから安心なされ」
「すまないな…それにありがとう…」
「礼は良いですよ。貴方が無事なら私も嬉しいですぞ」
「張遼の優しさに甘えさせてもらおう…」
曹仁は張遼の側でその日を過ごしていったのであった。
終
遼仁
こんな晴れた暑い日は水を浴びて身体を冷やすのが一番と、曹仁は井戸に行き、水を汲んだ。
下穿き姿になると水を汲んだ桶を持ち上げると頭から汲んだ水を浴びさせる。
勢い良く熱を持つ身体を水が流れていく。
水に濡れた身体は一度では体温は下がる事はない。
曹仁は再び井戸に桶を投げ入れ、水を汲んで先程と同じように身体に水を被せる。
「はあ、気持ちいいな…」
鍛えられた肉体に水が滴り落ちる光景。
それだけなのに見る者は今の曹仁が色っぽく見えるだろう。
曹仁はその事に気づく事はなくまた水を頭から被せ、身体を冷やしていく。
その行動を静かに遠目から張遼は曹仁を見つめていた。
想い人が外で肌を晒して水を浴びるだけで欲情が高ぶる。
濡れる身体を見ると思わずゴクリ、と喉を鳴らした。
「そんな所で何をしているのだ張遼…」
「曹仁…殿、さっきから何をしているのだ?」
「何って行水だ…こう暑いと敵わないのだ。少しでも涼を取りたいと思ってな…」
「成る程、確かに一理ありますな…」
「どうだ、張遼もするか?」
「いや、私は結構です。これから殿に頼まれた仕事をしなくてはならないので」
「そうか…」
「折角の誘いなのにすまん…」
「いや、気にするな…」
曹仁が身体が涼しくなったのか布で身体を拭っていく。
「子孝…私が背中を拭いて差し上げようぞ」
「それはありがたい…」
曹仁は張遼に布を渡すと張遼に背中を向けた。
張遼は曹仁の背中を布で拭っていく。
日に焼けていない身体は筋肉に覆われており、とても艶やかであった。
「子孝の肌は綺麗だな、それに触り心地良い…」
「そうなのか?あまりそんな事を気にしなかったな」
曹仁は張遼に背中を拭ってもらいながら呟いた。
背後から見る曹仁が何故が色っぽい。
張遼は思わず曹仁の項にキスして舌で舐める。
「ひゃあっ、な、何をするんだ!」
曹仁は思わず張遼を殴ってしまう。
不意打ちのように殴られた張遼はよろけたが倒れる事はなかった。
「いや、子孝があまりにも色っぽいからつい手がでてしまった…」
「だからっていきなり項を舐める奴がおるか!」
「悪気はなかったんだ、そんなに怒らないでくれ子孝…」
張遼は曹仁を抱きしめると曹仁は黙ったまま抱きしめられる。
「誰かに見られたら嫌なのに何故そのような事をするんだ。張遼の馬鹿…」
「すまない、でも子孝も人が悪い。こんな姿でいたらまるで誘っているようにしかみえんぞ…」
「そんなつもりは私にはなかったのだが」
「だから私以外の者にその姿を見せないで欲しい…」
「わかった…これからは気をつける」
曹仁は張遼に抱きしめられながら顔を真っ赤に染めた。
そんな可愛らしい曹仁の姿に張遼は満足しながら、曹仁に口づけを落としたのであった。
終
遼仁
(獣化パロ)
「子孝殿…」
「どうした張遼殿?」
「その頭はどうされたのですか?」
「実は殿の悪戯によって兎の耳が生えてしまった」
「はあ、そうなのですか?」
「しかも尻尾まで生えておる」
曹仁が後ろを振り向くと可愛らしい尻尾が見えた。
「これはまた奇妙な…」
「私だけではない夏侯淵は猫耳が生えたらしい」
「なんと夏侯淵殿も?」
「元譲が戻るまで保護しているようだが。本当に困ったものだ…」
曹仁は溜息をついた。
気分に合わせてなのか曹仁の兎耳が垂れてしまっている。
よほど嫌らしいとわかる。
「このままでは、外出もままならないぞ…執務はともかくだ。会う人に説明していくのも面倒だ」
「なら、曹仁殿が元の姿に戻るまで私が貴殿を保護したいのだが…」
「え゙っ…!」
張遼の提案に曹仁は嫌そうな表情を浮かべた。
「まさか、良からぬ考えで申してはおるまいな?」
「何を言う。愛しい曹仁殿の為なら私はなんでもしよう…」
「せっかくの申し出だが遠慮しよう…」
何故であろうか、悪寒がしてならない。
嫌な予感が拭えないのだ。
「曹仁殿は私の事は信用しておらぬのか?」
「そうではない。たかが兎耳が生えた位で何も問題はない。自分でなんとかなる」
「夏侯惇殿のように私も貴殿を保護して戻るまでの生活を保障したいのだ」
張遼は曹仁の両手を掴み、真剣な眼差しで訴える。
その姿に曹仁は溜息をついた。
「解った、お主の申し出に従おう。ただし、変な事をしたらお主とは絶交だ。よいな…」
「わかりました。こな張文遠、約束は守りますぞ!」
元の姿に戻るまで愛しい者と一緒に居られるなんてなんて幸運か。
張遼は嬉しさに笑顔を浮かべ、曹仁を抱きしめたのであった。
終
遼仁
(軍人パロ)
「張遼…」
声がする。
反応して顔を上げる。
『なんでしょう、曹仁大…佐…』
そこにある主の顔が曇っていて。
なにか悪い事をしたかと思いを巡らす。
『曹仁大佐…あの…』
「っ…よかった…」
そう言って主…曹仁がナビごと俺を抱き締めた。
なにがなんなのか分からない。
『あの…大佐…?』
「ん?」
『どうかされたのですか?』
「ん…ちょっとな」
逞しい腕から解放され、やっと曹仁の顔が見えた。
先程よりはマシになったが、やはり表情がくらい。
『曹仁大佐?』
「…夢を見たんだ…」
ぽつり、と言った。
「夢の中で犯罪が起こって…張遼が殺されてしまった…」
ぽたり、と涙が落ちた。
「俺はなにも出来なくて…ただお前がいなくなった拳銃を握り締めることしか出来なくて…」
『…曹仁大佐…』
電子画面に涙が落ちる。
触れないのにそれに手を伸ばす。
透明な水の塊がユラユラと揺れていて…
とてもキレイだと思った。
『…私はここにいます』
「張遼…」
『私はずっと貴方のお側にいます。勝手に殺されません』
きゅ、と口元を引き締める。
『それに貴方の指示が、私をそんなことにさせるハズがありません』
じっと曹仁を見つめる。
こんな不安そうな曹仁の顔なんて、きっと誰も見たことないだろう。
『私は、“鬼神”張遼です。そして貴方は“鉄壁”の曹仁でしょう?』
「…張遼…」
『私は…絶対、貴方の側からいなくなりません』
微笑んだ…つもりだった。
でも頬を伝うなにかを感じて、きっと俺はいまの曹仁のような顔をしているのだろうと思った。
「私の側にいてくれ、張遼」
『はい、ずっとお側に…』
そっと画面越しに、キスをした。
永遠に、貴方のお側に。
それが俺がやるべき、絶対任務。
張遼は誓いを立てた。
曹仁と共に生きるのが役目だと気づいたからだ。
「ならこの任務を早く終わらせ張遼の元に帰らないとな…」
『ええ、私は待っています。貴方が無事に帰ってくる事を』
「ああ、帰ろう。約束する…」
曹仁は約束を交わすと、再び任務を続行したのであった。
終
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