劉飛
夏になると蒸し暑くなる。
そして虫も湧いて出てくる季節。
張飛は腕を至る所を蚊に刺されたのか刺された部分が真っ赤に腫れていた。
そして痒いのか爪で掻きむしっている。
「あ〜痒い、だからこの時期は嫌いなんだよな…」
張飛はぼやきながらポリポリと爪で刺された部分を掻いていた。
そんな張飛を見た劉備は張飛の腕を掴む。
「翼徳、掻いたら酷くなるぞ…」
「だって兄者、痒いんだよ!」
「我慢出来ないのか?」
「無理だっ!何で俺ばっかり蚊に刺されるんだよ…」
「翼徳の血が甘いからだろう…」
「んな訳あるかよ。兄者は何で平気なんだ、なんがずりいよ」
「そんな事を言われてもな…」
張飛は文句を言いながらもまた腕を掻いてしまう。
「翼徳、言った側から腕を掻くな。それに血が滲んできているぞ…」
張飛の腕は刺され部分が赤く腫れている皮膚に血が滲んでいた。
爪で掻いたせいで皮膚が傷ついたのであろう。
劉備は張飛の腕に口づけると血を舐め取る。
「ちょっ、兄者何をするんだ…」
「何って消毒だ。雑菌が入ったら悪化するからな…」
「だからって舌で舐める事ないだろ!」
張飛は顔を赤く染めて叫ぶ。
「なら刺された患部に塩を塗り込むと痒みは治まるからやってみるがいい…」
「それで痒みが治まるのか?」
「ああ…」
「なら試してみるぜ…」
張飛は直ぐさま食堂に行くと塩を貰い腕に刷り込みように患部に塗り付ける。
暫くするとあれ程痒かった部分から痒みが無くなった。
「どうだ翼徳…治まったか?」
「すげえな兄者、本当に痒みが止まった。塩で痒みが無くなるなんて不思議だな…」
「これでもう爪で掻きむしる事はないから安心だな…」
張飛は劉備を尊敬な眼差しで見つめていた。
「流石だぜ、兄者…!」
「何、昔からの知恵だ。役に立てて良かったぞ…」
張飛は嬉しくて劉備の頬に口づけた。
「兄者、ありがとうな。これで夏は乗り切れるぜ!」
張飛はご機嫌な様子で食堂から出ていった。
残された劉備は驚いていた。
あの張飛が自分から口づけてくるとは珍しい。
それ程嬉しかったのか極上の笑顔も見れたのだ。
劉備はやっと我に戻ると掌を自分の頬に宛てた。
「全く、翼徳には敵わないな…」
劉備はクスッと笑うと張飛の後を追うように食堂を出ていったのであった。
終
劉飛
(現代パロ)
明るい日差しに照らされた部屋で彼は安らかに眠っていた。
美しい水色の瞳は、白い瞼によって閉ざされ開け放たれた窓から入ってくる風が彼の鳶色の髪をさらさらと揺らした。
庭に美しく咲き誇る百合の香りが漂う。
床に錯乱した紙が晴れた空へと舞い上がっていった。
「翼徳…」
観葉植物の多い室内を床に錯乱するものを踏まないように歩く。
ようやくたどり着いた寝台の上で眠る程好く日に焼けた陶器のような彼の頬に触れると彼の睫毛が揺れた。
ベットの脇にひざまずき、美しい手の甲に唇を押し当てる。
忠誠の証。
そして、私の独占欲ゆえの所有の印。
まだ恋愛に不慣れな私には貴方を独占する権利などないとは思うけれど。
それでも。
この思いを伝えることはできなくてもあきらめることなどできない。
この思いは…捨てられない。
ベッドに片足を乗せて身を乗り出すとギシッ、とベッドが軋んだ。
眠っている彼の、薄く開いた唇にそっと唇を重ねる。
一瞬だけ、触れ合う唇。
昔からの習慣。
誰も、知らない。
彼の額にかかった髪をかきあげ彼の耳元で囁く。
いつもと同じ、朝の風景。
「おはよう、翼徳…」
「おはよう…玄徳…」
ああこの時が私にとって幸せなのだと感じる時間なのだと実感した。
そして目覚めた張飛にゆっくりとおはようのキスを落としたのであった。
終
劉飛
優しい貴方が好き。
守ってくれる両腕も、燐とした声も、美しい色の瞳も。
全てがすき。
あまり一緒にいる時間は少ないけど、側にいる時はうーんと甘えたくなる。
貴方といると幸せを感じる。
だから好きと囁くの。
だから俺を離さないで欲しい。
彼を見てそう思う。
「何だじっと見て、私の顔に何かついているのか?」
「ううん何でもないよ」
劉備は張飛を見ていくと胸が熱くなる気がした。
劉備は張飛を抱き締めた。
私は…お前のそういうとこ好きだな。
強くて優しい真っ直ぐな瞳に…惹かれたんだ。
張飛は私より強いんだな…。
全てを包み込む優しさと力がある。
私には無いものを沢山持っている。
「どうしたの、兄者?」
胸に収まる彼は上めがちに見つめてくる。
「恋は盲目とは良くいったものだな…」
「兄者…?」
盲目でなければ恋などできないかも知れない。
自分がこんなにも惹かれるとはな。
太陽のような笑顔。
眩しく輝く髪と瞳に、酔いしれた。
透けるような肌に触れたくなる。
「そなたは私にだけに笑顔を見せてくれ」
他の奴には見せるな。
それは独占欲と言うものだろうか。
「何故?」
「無自覚なのか、まあそれもお前の良い所だ」
誰からも惹かれる事を気付いていない。
それが救いになっているんだろう。
「そんなに心配しなくても、俺は兄者だけが好きだから…」
「翼徳…」
突然の行為に不意打ちを食らう。
張飛が劉備に口付けをする。
愛しい恋人からの口付けは珍しい。
劉備は嬉しいのか微かに微笑んだ。
「私は少し自惚れしてもいいのかな?」
劉備は溜め息まじりに呟く。
不安も残しておいて、余計にかまいたくなるんだ。
愛しい彼に口付けを落としたのであった。
終
劉飛
(現代パロ)
自分をひた隠しながら生きるのは大変だなと思う。
幾ら何でも義理の兄である劉備と自分を見比べられたら勝ち目はない。
どうせ、自分は劉備のように頭は良くない。
自分には届かない相手である劉備は多忙な日々を送る。
だからいつも一人で食事をして一人寂しく眠る。
たまに恋人である関羽と一緒にいるけれど、やはり寂しいと思う。
「兄者は俺の事が嫌いなんだ…」
だからたまに家に帰ってきても会話もままならないまま自室で眠ってしまう。
毎日作った料理も無駄になるから自分だけ作るのも面倒だからと外で食べる機会が増えた。
帰ってきてもこんなにも広く感じる部屋。
いっそうの事、関羽の元で暫く暮らそうと思った。
一人は寂しいからと張飛は関羽の元に訪れる。
「どうしたんだ翼徳…こんな夜更けに?」
出迎えた関羽に張飛は抱き着いた。
「兄者が帰ってこない。一人でいるのは嫌だから暫く此処に泊めさせてくれないか?」
「そうか、拙者は構わんぞ…」
張飛の背中を優しく撫でながら関羽は呟く。
「今日はもう遅い。寝室にいこう…」
「うん…」
関羽に連れられて寝室に行くと関羽に寝間着を渡された。
「今夜は拙者と寝よう…その方が落ち着くだろ」
「ありがとう、雲長…」
関羽は張飛と共に一夜を過ごした。
次の日、関羽は張飛に内緒で劉備に連絡をとった。
「兄者、翼徳が寂しがっている。一度家に帰ってきたらどうだ?」
『翼徳には寂しい思いをさせてしまったようだな。解った今から雲長のマンションに向かうから』
「解った…」
劉備が仕事を放りなげても張飛を迎えにくる。
それは劉備が張飛を想っているからであろう。
暫くして関羽のマンションに劉備がやってきた。
「兄者、何で此処に?」
「雲長が教えてくれた。済まなかった翼徳…寂しい思いをさせて」
「兄者ぁ…」
張飛は劉備に抱き着いて涙を流した。
劉備は張飛を抱きしめる。
「泣かないでおくれ。私は間違っていた。今度からは翼徳が寂しくないように家に帰り翼徳と共にいる時間を大切にする…」
「兄者、本当か?だったら俺は嬉しいよ」
劉備の言葉に張飛は笑顔を浮かべた。
「ああ、本当だとも。私には翼徳が大事だからな…」
「兄者…」
「一緒に家に帰ろうな…」
「うん、帰る。一緒に家で過ごそうよ、俺は兄者に家で安らいで欲しいから家事とか頑張るよ」
「なら翼徳が作る料理を食べたい…」「解ったよ、兄者の好きなの作ってやるから」
機嫌を良くした張飛は嬉しそうだ。
「雲長…世話になったな。この礼は改めてするよ」
「いや、気にしてませんぞ。良かったな翼徳、兄者とこれから過ごせるぞ」
「ああ…雲長、また何かあったら連絡するよ」
「痴話喧嘩はしないで下されよ。拙者は巻き込まれるのは御免だ」
「あはは、しないように努力する」
劉備はそう言うと張飛と共に自宅に帰って行った。
「なあ、兄者。毎日、家に帰っても一緒に過ごせるだけで俺は充分だから…」
「遠慮するな。寂しかった分、甘えて良いのだぞ」
「ふふ、兄者のそう言う所が大好きだな」
「私も翼徳が大好きだぞ」
二人は笑いあい安らげる家にと戻ったのであった。
終
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