忠飛
戦場で戦うその姿に一目見て心を奪われた感覚がした。
最強と呼ばれた己を震わせ感化させたのは、今までいない。
これほどの力を持っていながら、同じ時間に生きていないのが悔やまれる。
今はオロチと言う敵が空間を時空軸を歪ませて創られた世界にいるからこそ出会った奇跡。
ずっと一緒にはいられない。
それが悔しい。
「張飛殿…」
愛しさを込めて名を呟く。
「なんだ、忠勝…?」
笑顔を浮かべ振り返ったそなたは血に塗れていても狂気に満ちた瞳は己をちゃんと見てはいない。
「張飛殿は某を信用しているか?」
「何の事だ?」
「張飛殿は自分だけで物事を解決しようとする。拙者が側にいるのに何故だ」
「…俺は弱いからだ。強さなんかよりも心が弱いからただ守りたいのに、必死なだけだ」
「なっ!?」
張飛からの意外な言葉に忠勝はただ、信じられなかった。
己と同じ強さを持つ男はただ、弱いからと言う。
「でも、隠していてもいつかはバレるんだよな。兄者達は感がいいからよ」
「なら、今だけは拙者が張飛殿を守る槍となろう」
忠勝は張飛を抱きしめた。
愛しい人を守れるのなら命を懸ける事もできる。
「忠勝…恥ずかしいから放してくれ」
「断る、張飛殿は拙者の大事な方だから側にいさせてくれまいか?」
真剣な眼差しに張飛は溜め息をついた。
「わかったからそんなに見つめるな…」
恥ずかしいのか目線を逸らした張飛に忠勝は張飛の頬に掌で包み張飛を自分の方へと目線を合わせた。
「拙者は張飛殿を愛してる。だから逃げないでくれ」
「忠勝…」
「あなたを離さない、拙者の愛しい翼徳…」
忠勝はゆっくりと張飛に唇を落としたのであった。
終
惇淵
寒さが増して冬の季節が到来したのを感じるようになった。
朝になっても寝台からなかなか起き上がれない。
寒いのが苦手だから仕方ない。
『惇兄…朝だ、いい加減に起きろよ』
温もりに意識を闇に落とすのを遮るような聞き慣れた愛しい者の声が耳に入る。
「寒い、まだ寝ていたい…」
「駄目だって、今日は殿と街へ視察する日だろ。遅刻したら怒られるぜ」
「まだ出発する時刻には早い、寝る…」
眼帯の男は不機嫌な表情を浮かべ、自分を起こした従兄弟の腕を掴むと突然、寝台に引きずり込んだ。
「うわあっ!!」
寝台に引きずり込まれた従兄弟に構わず、男はその身体を抱きしめた。
「淵も寝ろ…」
男は優しい口づけを軽くするとゆっくりと瞼を落とし眠りについた。
『俺は暖をとる為のモノじゃないんだが』
眠る眼帯の男の寝顔を見ながら溜め息をついた。
まあ、こんな事でも愛しい人の腕の中で居られる幸せを感じながら夏侯淵は眠りにはいる。
このままでいられたらよいのにと思わずにはいられない。
後ほど、起きた二人は曹操に説教を喰らったのはいうまでもない。
終
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