剣薫
2016.07.03 Sunday
会津の高荷恵から暑中見舞いに桜桃【さくらんぼ】が届いた。「桜桃なんて初めて食べるわ」薫は目をきらきらと輝かせている。女性は真新しいものや愛らしいものが好きなのだな、と微笑ましく思いながら剣心は木桶に氷水を張り、赤い宝石のような果物を浸した。「あ、双子でござる」「えっ、どれどれ?」薫が隣にぴたりとくっついてきた。剣心は水も滴る双子の桜桃をつまんでもちあげる。今か今かと待ちわびる薫の唇に寄せてやるのかと思いきや、その片割れをぱくりと食べてしまった。「あっ、ずるい!」「いや、薫殿にはもっといいものが」彼は悪戯っぽく笑って、氷水から、三つ子の一房をつまみあげた。