りん+犬かご
2016.12.19 Monday
「子供ができたかもしれません」
半妖と巫女は、夫婦揃って盛大に茶をふき出した。
「……えーと、りんちゃん。今、なんて?」
「ですから、子供ができたかもしれないんです」
ほんのりと頬を紅潮させる少女。兄の失態に、半妖は衝撃を通り越して遠い目をしている。
「あの野郎、こんなガキ相手に何てことしてやがるんでい……」
「口が悪いわよ、犬夜叉」
だが、巫女の浮かべる笑顔もぎこちない。
「りんちゃん、その……心当たりはあるの?」
「はい」
正座したまま、少女はもじもじと膝を擦り合わせる。
「殺生丸さまと、しちゃったんです」
「し、しちゃった?」
「何回も」
「なっ……何回も?」
意を決して立ち上がった少女は、たじろぐ巫女の耳元に内緒話のように囁きかけてきた。
「──口づけを」
魔狭人
2016.10.25 Tuesday
悪魔は闇に生きる動物の化身である。魔狭人は蝙蝠の翼をもつ悪魔だが、かつて父の古い知り合いに梟をよすがとし、魔公子と呼ばれた邪悪な悪魔がいた。自らが人になした呪いによって身を滅ぼしたというその悪魔によれば──「すべての呪いには、それに見合った対価が必要である」
?
2016.10.25 Tuesday
簾をくぐると壁には古びた掛軸がかかっていた。黒目黒髪の華奢な娘の絵姿。屈託のないその笑顔はまるで生身の娘から向けられたもののように生々しい。「掛軸を見た者は御館さまのお手打ちに遭うそうだ」屋敷内で囁かれる噂を思い出した妖犬の少年は背中にぞっと悪寒を覚える。
殺りん
2016.10.25 Tuesday
「言わないで」りんは言葉のふたで殺生丸の口を塞ごうとする。「言わなくても、わかるから」彼は静かにかぶりを振る。「りん。私はこれ以上、おまえのことを有耶無耶にするつもりはない」いよいよ最後の逃げ道は絶たれた。彼の長い指が、桜色に染まるりんの頬をやさしくなぞる。
架れん
2016.10.25 Tuesday
蓮の花が早咲きでなければいけないと、誰が決めたのか。「れんげ。きみもぼくも死神だ。一緒に過ごせる時間なら、まだ余るほどあるだろう」薬指の輝きにはにかむ彼女は美しかった。出会った頃から百年もの時が経っていようとも。「遅すぎることなんてない。そう思わないか?」
鯖苺
2016.10.25 Tuesday
「きみがあの少年にキスされるのを見ていたよ」少女は黙って唇にリップクリームを塗っている。間がもたなくなった男はその手から小さな手鏡を奪った。「ああ」はみ出ちゃった、と苺は不満をもらす。「あなたのせいよ」男は親指の先でそれをぬぐう。「ぼくを見ないきみが悪い」
りんね
2016.10.25 Tuesday
心からの敬意と慕情をこめて、彼は彼女を「花嫁御寮」と呼んだのだと。純白のドレスがよく似合う花嫁には、きっと彼が夢見た白無垢も映えるに違いないと──。「あの男の気持ちなど、永遠にわかりたくもなかったが」青年の赤い瞳が揺れる。「今だけは、理解できる気がするんだ」