ハク千

2016.07.04 Monday


「いい子だね」と口癖のようにハクは言う。最初のうちはとくに気にも留めなかったことなのに、近頃千尋はおおいに不満を抱いている。「いつまで子ども扱いするの?」「子ども扱いなどしていないよ」ぽんぽん、と千尋の頭を撫でてなだめるようにハクは笑う。「そんな目をしないで。ほら、おいしいお菓子をあげようね」「だから、それが子ども扱いなの!」


アシサン

2016.07.01 Friday


サンの髪が伸びた。鬱陶しがって短く切ろうとするのを、もったいないとアシタカは惜しむ。「髪には不思議な力が宿るというよ。それに」サンの耳元に唇を寄せて、そっと囁いた。「──長い髪のそなたも、美しい」


聖雫

2015.07.19 Sunday


私たちの結納品はもう随分前に交換してあるの。隣の聖司と顔を見合わせて雫ははにかみ笑う。なんだいそれは、祖父が訊ねると聖司は雫の肩を抱き寄せ、「雫には、俺がクレモーナで初めて作ったヴァイオリンを。俺は、雫が一番最初に書いた物語をもらったんだ。相手を一生大事にする、って誓いの証にね」


ハク千

2015.05.17 Sunday


(Twitterログ)
見渡す限りの向日葵畑が青空との境目まで続いていた。千尋は背の高い向日葵の陰に隠れてはハクを驚かそうとした。彼女の居場所なんて隠れていようがお見通しのハクだが、眩しい笑顔が見たくて、何度も姿の見えない千尋を探すふりをした。二人で両腕一杯に花を抱いた。あれは永遠の夏、千尋がいた季節。

蝉が鳴くのをやめたら私も帰るよ。どこへ帰るのと千尋は聞くがハクは答えない。また離れ離れになるというのに悲しそうな様子は微塵も見せずにただ静かに微笑んでいるだけ。噴水のしぶきが光の粒になって二人に降り注いだ。夏が来ればまた会える、彼は言う。なぜなら私とそなたは夏に約束をしたから。

空色のシャーベットが溶けて千尋の腕を伝った。ハクは少し首を傾けて何とはなしにそれを舐めとった。くすぐったいよと俯く千尋に、このままの方がくすぐったいだろう?澄んだ声で笑う。ハンカチは?この方が早かったから。夏の日差しがじりじりと首筋を焦がす。つねに涼しげな龍が羨ましい彼女だった。


ハク千

2015.05.13 Wednesday


絵本を閉じたハクはふふ、と優しい微笑みを浮かべて千尋に向き直った。
「シンデレラ、ね。なるほど、そなたの言うとおり、素敵な物語だ」
でしょう?と目を輝かせる千尋。
「シンデレラはね、女の子のあこがれなんだよ」
「千尋もシンデレラになりたいの?」
「ち、小さい頃は、そう思ったこともあったかな。今はもう大人だし、お姫様になりたいだなんて思わないよ」
素直じゃないね、千尋は。そうやって、夢見るような目をしているのに。
ハクはおもむろにソファからおりると、千尋の目の前で片膝をついた。
きょとんとする千尋ににこりと笑いかける。フローリングに投げ出された彼女の右足を、壊れ物を扱うように両手でそっと持ち上げたかと思うと、
「小さな足だね。あの頃よりは、随分成長したけれど」
楽しげにそう言って、白い足の甲にそっと、唇を落とした。
「ハク!?」
顔を真っ赤にした千尋が慌てて足を引っ込める。彼が予想のつかない行動をとるのは昨日今日に始まったことではないが、なんとも心臓に悪い。クスクス、とたまらなくなって笑い声をこぼしながら、上目遣いに彼女を見上げるハク。
「私にとっては、千尋こそがその『シンデレラ』だよ」
「何言ってるの?からかわないでよ、もう──」
「からかってなど。あの時のこと、忘れてしまった?」
吸い込まれそうな深緑の瞳に、記憶の深淵を見出した千尋ははっとなる。
幼いころの、あの夏の日の出来事──。
「そなたは私のなかに靴を落とした。ガラスでできた魔法の靴ではないけれど、それでもそのまま水の底に沈めておくのは忍びないような、ついつい拾い上げてしまいたくなるような、小さくて、可愛らしい靴をね」
千尋は抱き締めていたクッションにぐりぐりと顔を埋めた。恥ずかしげもなくそんなことを言えるハクが、恨めしくもあり、少し羨ましいような気もした。
再び隣に座ったハクが、彼女の肩を自分のほうへ抱き寄せた。カーテン越しに吹き抜ける風が心地よさそうに、しばらく目を閉じて感じ入っていたが、ふと何か思い立ったらしい。
「千尋、絵本をもっと増やそうか」
「どうして?」
「色々な物語を語り聞かせたいだろう?男の子でも女の子でも、どちらでもいいように、たくさん絵本を買っておこう」


ハク千

2015.03.31 Tuesday


「ハク様なんて大嫌いです」
懇意にしている少女の捨て台詞に、父役に指示を出していた帳簿係の少年はきょとんと目を丸めた。
「これっ、千!お前、ハク様になんということを!」
顔を青くした父役蛙があわててとりなそうとするが、千は前言撤回するつもりはないらしい。ツンと顔を背けて、
「用事は済んだので、これで失礼します」
我にかえったハクは、この世の終わりのような絶望的な顔で駆けていく背を見送った。
「父役、私は何か千の気に障ることをしただろうか?」
父役がしどろもどろに慰めの言葉をかけていると、パタパタと足音がして、いなくなったはずの千が戻ってきた。
「ハク様!」
「どうした、千?……まだ私に何か言い忘れたことでも?」
傷心のハクが肩を落として問うと、千は先程のそっけなさが嘘のようにニッコリと笑いながら、
「明日はお昼過ぎまで会えないから。今日のうちに、エイプリルフール!」


捨かぐ

2015.03.26 Thursday


姫は不幸だった。富も名声も寵愛もこの世の全てが思いのままだったのに、それでも青年の腕の中がいい、ここが一番の幸せだったのにと哀しく笑った。時を巻き戻せるなら、あの手を取って逃げるだろうか?運命をゆがめられたなら、今あの娘は彼の隣にいただろうか?澄みきった月は何も答えてはくれない。


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