ハク千
2019.12.31 Tuesday
─ つごもり ─
こたつの中で、つま先がハクの脚に触れた。みかんを剥く手をそのままに、彼は視線をちらと千尋へ向けてくる。
「テレビはもう飽きてしまった?」
「年末の特番ばっかりだもん。──ハクはおもしろいの?」
うん、と笑ってうなずく彼。「でも、千尋がしたいなら、もう一度花札でもして遊ぼうか」
千尋は今さっき自分の分を食べたばかりだったが、ハクが剥いたみかんのひと切れも口の中に放りこんだ。調子に乗って冷たいものを食べすぎたせいか、ぶるっと身震いがする。
するとこたつの中で、そっと手を握られた。温かい手だった。
「何をして、遊びたい?」
このままでいい──、心地よさにとろりと目を閉じかけながら、千尋はつぶやいた。
りんさく
2019.12.25 Wednesday
─ to be jolly ─
桜はそっと頬をおさえた。かすめるように触れてきたあの感触が、消えないように手の中に閉じこめた。
「……ジンクスだと聞いたから」
「誰に?」
おふくろに──と足元に視線を落としてつぶやくりんねは、まだ耳の先をほのかに赤くしている。寒さのせいか、それとも恥らいの名残か。
「宿り木の下では、その……こうしてもいいんだと……」
「……最近の小学生って、おませさんなんだね」
街灯に飾られた宿り木を見上げて、桜はほのかに笑う。"本物の"キスでも良かったのに──つかの間そう思ったけれど、目も合わせられずにいる二人には、まだ気の早い話かもしれない。
B/M
2017.10.27 Friday
(Reign/クイーン・メアリー)
「時々、あなたを遠く感じるわ」
振り返らずにつぶやくメアリーの声に、寂寥がにじんだ。
スコットランド女王にして、フランス王太子の婚約者であるこの女性と、彼はつかず離れずの距離を保って関わりあっている。英明な女王は、その意図的な隔たりをとうに見抜いていた。
「バッシュ。私はあなたと、よき友でいたい。あなたは私と同じ気持ちではないの?」
セバスチャンは弟を思う。友ではなく、恋人という肩書を与えられた唯一の男。フランソワがいる限り、彼はつねに二番手だ。──だからといって、王の庶子である彼にはメアリーを略奪する力も、その気概もないのだが。
「俺はただ、ないものねだりをしたくないだけだ」
「それは、私にはあげられないもの?」
「ああ。……君には無理だ、メアリー」
彼は女王の背中を目に焼き付けた。遠からず、フランス王妃となる女性だ。その後ろ姿に恋焦がれていたことさえ、忘れなければならなくなる時が来るだろう。
ハク千
2017.07.05 Wednesday
今日も外は雨が降っている。昨日の繰り返しのようなやり取りの中で、ただ一つ、決定的に違うことは、彼が部屋から出ていこうとする千尋を引き留めたことだ。「──寒くないかと、聞いたね」髪から雨水を滴らせながら、静かに問う。千尋の背後から伸びた手は、戸を開けられないように押さえつけている。
かごめ+?
2017.07.05 Wednesday
「母上」振り向きざまに強く抱き着かれ、かごめは目尻を下げた。「どうしたの?」少年は柔らかく微笑んで小首をかしげる。「母上の匂い、落ち着くなあ」あどけなさの残る声で甘えてくる息子が可愛くて、つい甘やかしてしまいがちな彼女。少し離れたところで夫がやきもきしていることには気付かない。
りん+犬かご
2016.12.19 Monday
「子供ができたかもしれません」
半妖と巫女は、夫婦揃って盛大に茶をふき出した。
「……えーと、りんちゃん。今、なんて?」
「ですから、子供ができたかもしれないんです」
ほんのりと頬を紅潮させる少女。兄の失態に、半妖は衝撃を通り越して遠い目をしている。
「あの野郎、こんなガキ相手に何てことしてやがるんでい……」
「口が悪いわよ、犬夜叉」
だが、巫女の浮かべる笑顔もぎこちない。
「りんちゃん、その……心当たりはあるの?」
「はい」
正座したまま、少女はもじもじと膝を擦り合わせる。
「殺生丸さまと、しちゃったんです」
「し、しちゃった?」
「何回も」
「なっ……何回も?」
意を決して立ち上がった少女は、たじろぐ巫女の耳元に内緒話のように囁きかけてきた。
「──口づけを」
ハク千
2016.10.25 Tuesday
龍と人の婚姻は真新しいものではないが、すでに依り代となる水をなくした、いわば生霊のような龍が人を娶った先例はない。ハクは考えた末、まだ誰にも統べられていない「水」に思い至った。「この町では雨が降ると海ができるだろう?私はあの気まぐれな海の主になろうと思うよ」