ワタシは、無惨を殺して奪った「血を分けた者を吸収して取り込む能力」と愈史郎くんを殺して奪った「目隠しの能力」を持って、過去へと遡った。




遡行に成功したワタシは雪の上に立っていた。
時刻は早朝。近くの山頂から朝日が差し込んでいる。一面雪景色だったけれど、前方側に見えた町は見覚えがあった。


東の町だ。


暫くすると、駆け足で雪を踏みつける音が聞こえてきた。音の方向に視線をやれば、まだ子供の炭治郎君が必死な顔でこちらに向かって走ってくるではないか。

あぁ!!!炭治郎君が生きている!会いたかった…!会いたかった!ワタシだよ!
炭治郎君を竈門家の皆を助けるために、未来から過去へと遡ってきたの!半分真っ黒だけど、炭治郎君ならワタシだって分かってくれるよね?

「大丈夫ですか?!」

炭治郎君は血相を変え、ワタシに近付いてくる。
あぁ、ワタシのこの見た目を心配してくれているのね。大丈夫だよ。炭治郎君の為なら、こんな見た目どうでもいいの。炭治郎君が生きているなら。またワタシに笑かけてくれるなら。

ワタシ一直線に向かってくる炭治郎君を抱きしめようと手を伸ばしたけれど、炭治郎君はすっと、通り過ぎて行った。ワタシが見えていないように、ワタシが、幽霊かのように通り抜けていった。

「エ…」

炭治郎君は、ワタシを通り抜けた先にある、地面に横たわる何かに声をかけた。

「大丈夫ですか?!聞こえますか?!」

それは、雪に身体半分を埋めた、血だらけの《私》だった。

「今から医者に診てもらいますから、もう大丈夫ですよ」

私をおぶさり、町に向かって歩き出す炭治郎君。

「絶対に大丈夫です!助かります!」
「‥‥‥く‥‥ぃ」
「え?」
「‥‥‥しにたく‥なぃ」
「大丈夫です!必ず助けます!貴女は、死にません!」

そうして町に走っていく炭治郎君に着いていって気付いた。これは…、ワタシが大正時代に遡った直後の事だと。

嵯峨山さんに私の治療を頼み、炭を売りながら私の情報を集め、私が熊に襲われたと思い込んだ炭治郎君は、私を哀れみ家へと連れて帰えり、竈門家の皆で看病を始めた。

「………ミンナ、イキテル…」

14日後に目覚めた私が炭治郎君や竈門家の皆にお礼をしている場面を見て、冷たい心臓に優しい日だまりが差し込んだ。

ああ、昨日の事のように思い出せる、このあたかい場面。

目が覚めて、ワタシを救ってくれた炭治郎君が神様のように思えたんだよね。ワタシを受け入れてくれた竈門家の皆に恩を返そうと誓ったんだった。

私が皆に恩返しをすると話す後ろで、ワタシも優しくあたたかい竈門家を見つめながら、改めて恩返しをしようと決意した。この優しい平穏を取り戻せるなら、ワタシはなんだって出来る。死に取りつかれた未来を変えてあげるからね。

「タダイマ、アイタカッタよ。ワタシノカミサマ炭治郎君、ヤサシイカマドケの皆。シアワセニスルからね。カコをカエルよ。カナラズ皆をタスケル。コロスチカラでウバウ。ミンナノタメニ頑張るから」

竈門家の皆が幸せすぎて困る、もう大丈夫って言うまでずっとお礼をすると約束した。竈門家の皆がずっと、ずっと、幸せでありますようにと願った誓い。守れなかった、出来ないままになっていた恩返しを今こそ果たす。


これが私の恩返し。














けれど、おかしい。《過去に遡ったはずなのに、なぜ、ワタシがもう一人いる》のか。
なぜ、ワタシは幽霊のように透けて、誰にも見えず声も届かないのか。まだ時間を遡る力を上手く操れなかったからなのかはわからないが、これでは、黒い彼岸花の力《殺して相手の力を奪う》が使えないではないか。

けれど、既に奪った力は使えるようで目隠しの術は使えた。ただ、今の状態では体力を使うようで酷く疲れてしまい、いつの間にか気を失っており時間がいくつか経過してしまっていた。
今度は無惨から奪った「血を分けた者を吸収して取り込む能力」で、試しに鬼や柱になる前の二人を吸収しようとしたけれど、出来なかった。無駄な能力を奪ったかと思ったけれど、黒い彼岸花は言った。同じ存在で同じ黒い彼岸花を持つ私なら取り込む事が出来ると。

あぁ、なんという幸運。まるで、この時の為の力ではないかと歓喜に震えた。

「スベキコトハ、キマッタ」



もう一人の私がいる。ワタシは幽霊のような存在で誰かを殺して強くなれない。けど、既に奪った力は使える。

黒い彼岸花の力を覚醒させて、鬼から力を奪って強くなったもう一人の私を、無惨から奪った「血を分けた者を吸収して取り込む能力」使って吸収する。そうすればワタシは強くなれる。そして、また過去に遡ればいい。次こそは必ず実体を持っての遡行に成功させる。


「タンジロウクン、ミンナ、マッテテネ。リソウノミライニ、カラナズ、カエルカラ」



そのためには、黒い彼岸花の力が発動する条件である《自身の死》をなるべく早く起こす必要がある。ワタシのように、無惨との決戦の日であるあの時では遅すぎるから。


そうなると、一番早く訪れる死は、………あの運命の日だ。




-7:世界に同じものは2つとして存在してはならない




※このワタシのイメージソングは、天野月子さんの聲(コエ)です。

※コエの真実の1〜7話の伏線回収として、本編1〜77話の《カタカナだけのタイトル》をつなぎ合わせてください。カタカナだけなので一文字でも漢字や平仮名は入ってると対象外になります。《、》はカタカナだけのタイトルに入ります。
探すのが面倒くさい人は→のリンクからどうぞ。1510111320325659717577。もっと面倒くさい人は、番外編の2章の設定・裏話に答えが書いてますのでそちらからどうぞ。


※無惨の「血を分けた者を吸収して取り込む能力」とは、太陽克服した禰豆子を吸収して太陽克服しようとした力の事です。無惨は元々、増やしたくない鬼を増やしていた一つの大きな理由に、《太陽を克服した鬼を吸収し、完全体になること》があります。太陽が平気な人間を食べても太陽を克服出来ないのは、人間は食料でしかないから。ご飯をいっぱい食べれば強くなれるけど、ただそれだけ。血を分けた存在だからこそ、鬼として無惨に近い存在だからこそ、吸収した者を自分へと取り込め完全体になれる。のだと思いました。
だからワタシが、無惨から奪った「血を分けた者を吸収し取り込む能力」は、ワタシに渡った時点で、ワタシと近い、もしくは同じ存在でないと吸収できない力になりました。


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