32:カエル

竹雄くんの手の平には緑色の小さな生き物。目がギョロっとしていて、身体はヌメリ気がありそう。喉元が大きく膨らみ、ゲコと鳴いた。バーチャルゲームで似たようなモンスターを見たことがある。

一歩下がって、生唾を飲み込む。

「わかった。宇宙人の子供だ」

平気な降りを装って笑顔を作る。けど怯えた気持ちが、声を震えさせ、口角を歪にする。
竹雄くんは私をじーーっと見てから一歩近づき、にやりと笑って

「カエルだよ」

と言って、跳び跳ねる動作をした蛙を手助けするように、手を私の方に反動をつけ、ポイっ。


「いやぁああーーー!!!!!!!」


梅雨がそろそろ近づいて来ました。









「竹雄!桜さんをいじめたらダメだろ!」

宇宙からの侵略者は私の頭に乗って楽しく歌ようにゲコゲコと鳴いた。破滅の歌声にしか聞こえない私は、大パニックで頭を振ったけど、蛙はへばりつき中々落ちてくれない。悲鳴を上げ暴れていると、頼りになる我らの長男様がどこからともなく現れさっと取ってくれた。

「いや、ごめん……。まさかここまで驚くとは思ってなくって…」

竹雄くんは私の予想以上の驚き方に、若干引き気味で謝罪を口にする。
今にも口からまろび出そうな心臓を抑えるように、息も絶え絶えに口を開く。

「あはは……、いいの、少しびっくりしただけだから。それに、虫よりはまだマシだし、あはは……、あは…は」

たぶんこれが、やつ(カマドウマ)だったら私は今、呼吸をしていなかっただろう。
悲鳴に駆けつけてきた、禰豆子ちゃんは「汗すごっ…」と口にしながら、布で額を拭いてくれて、花子ちゃんは「これだから、竹にぃ(こども)は…」と呆れたようにため息をついている。

「本当にいいの……。このくらいの年の男の子はいたずら好きな面があるからね…。私の弟も竹雄くんと同い年だけど、よくいたずらされたから、慣れてるよ…」
「………桜おねえちゃん、弟いたの?」

茂くんが、茫然としたように呟いた。炭治郎君から花子ちゃんまで皆が初耳ですって顔をしている。

「え?言ってなかった?私の8つ下、今9歳で今年10歳になる、やんちゃな弟がいるよ。竹雄くんと同い年だね。……元気かな」

もう半年近く大正時代にいるけど、みんなどうしてるかな、心配してるよねと感傷に浸る。家族を想わない日はないし帰りたいとも思うけど、私にはまだやらなければならないことがある。それに、早く未来に帰らなければと強い焦りを生まないのは、竈門家(ここ)が居心地が良く、優しくしてくれる皆のおかげだろう。

「ふーん……そうなんだ…」

茂君が地面を見ながら小さく小さく呟やいたが、静かな空間だったのでよく聞こえた。

「ねぇ…、桜おねえちゃん…」
「なに?花子ちゃん」
「桜おねえちゃんはさ………。ううん、なんでもないよ…」
「そう?」

急に元気をなくした花子ちゃん。理由はわからないけど、急に静かになった皆を元気づけなくては…!

「あ!そうだ。炭治郎君!」
「あ、はい!」

ぼーっとしていた炭治郎君はびくっと体を揺らし、反射的に返事をした。
元々は、家中どこを探しても居ない炭治郎君の居場所を聞こうとして(裏の森で山菜取っていたらいし)、竹雄くんに話しかけたんだった。蛙騒動で頭から飛んでしまっていたけど、本来の要件を思い出して、明るく話題を振る。


「明日、みんなであの場所に行こうよ!お弁当持って!」




※大正コソコソ噂話※
望みはないと理解してあきらめようとしたけど、やっぱり少しでも構ってほしくて、自分をみて欲しくて、いじめちゃう系男子


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