71:チカラ

次の日の昼前。しのぶちゃんや蜜璃ちゃんも含め、私達は本屋へと訪れていた。表の理由は、お土産に本を買ってあげること。裏の理由は、未来への手がかりを探すため。
思いつく限りの未来への手がかりは全て探し終えてしまったので、今度は漫画やゲームから発想を得ることにしたのだ。自分でも安易な発想だなって思ったけど、ほら、実は主人公と同じ世界から他の誰かもタイムスリップしていて、その人が帰るための手がかりやヒントを本にして残していたりとか…、あるじゃない?
僅かでも情報を得られればと思っての行動だったのだけど。……まぁ、そう物語のように都合よくいくはずもなく。未来、タイムスリップ、などの単語を調べても出てくるのは、海外のSFやファンタジー小説ばかり。予想通りの結果に、未来の件については早々に諦める事にし、お土産用の本選びへとシフトした。



「炭治郎君は何の本買ってるの?」
「花子のと、お土産に」

炭治郎君の腕の中には、花子ちゃんが欲しいと言った童話と小説の二冊と、お土産用の本一冊。花子ちゃんのは、これが欲しいと自分で選んでいたもので、女の子が好きそうな内容の本だった。

「少ない本を何度も読み直してるからな」

茂くん、六太くん、特に花子ちゃんは、炭治郎君の読み聞かせが大好きみたいで、私が竈門家に来て未来のゲームや漫画の話をするまでは、毎晩のようにせがんでいたらしい。年頃の女の子が架空の話に目と心を輝かせ、物語のお姫様に憧れを抱く姿は、どの時代でも変わらないみたいだ。

「新しいのも買ってやらないと」

炭治郎君の一言で、家の棚の中にしまわれた本を思い出す。大事に保管されてはいるけど、読み込まれ癖づき変色が目立つ本は、たった三冊。

「なら、いっその事もう10冊程買ってかない?そろそろ雪も降り始めて、外に出れない時もあるだろうし」

お金ならありまっせと、冗談めかして昨日のお花の売り上げを掲げれば、炭治郎君は嬉しそうに微笑んだ。



それと、本屋さんが処分に困っていた大量の専門書を蜜璃ちゃんは軽々と片手で持ち上げ、皆を驚きと尊敬の色に染めていたのはまた別の話。












「温かく素敵なご家族ですね」

帰り際、見送りに来てくれたしのぶちゃんが、蜜璃ちゃんと話している炭治郎君達を見て言ったセリフに全力で頷く。

「でしょ?!触れ合って直に感じたでしょ?!竈門家の皆はすっごーい!世界一温かくて優しい人達って!」

力説する私の姿に、しのぶちゃんは可笑しそうに笑いながらも頷いてくれた。

「六太くんにはまだ会った事ないよね?」
「末っ子の六太君でしたっけ?竈門家の癒しなんですよね」
「甘えん坊のお兄ちゃん子で可愛いんだ〜。そうだ!今度蜜璃ちゃんと一緒に竈門家に遊びにきてよ」
「ぜひ。その時は美味しいお菓子沢山持っていきますね」
「皆おやつ大好きだから喜ぶよ。ありがとうね」

なら、さっそく計画立てないとね。と炭治郎君達と話していた蜜璃ちゃんを呼ぶと、しのぶちゃんは小さな声で確認するような声色で聞いてきた。

「幸せ…なんですね」

言葉にするまでのない質問に、満面の笑みで答える。

「………ご家族、大切にしてくださいね」
「?もちろん!」







しのぶちゃんと蜜璃ちゃんが竈門家に遊びにくる計画を立て、こちら側は葵枝さんに確認をして、また2週間後に会う際に返事をすると約束をした。

つい話こんでしまい、早く出発しないと家に着くのが夜になってしまう。そんな帰り際に、慌てて二人に花束を渡す。

「危ない。忘れる所だったよ。はいどうぞ」

昨日の夜、しのぶちゃんと蜜璃ちゃんにあげようと咲かせておいたカンパニュラという、薄紫色の花。渡せばしのぶちゃんはじっとお花を見つめ、蜜璃ちゃんはありがとうと喜んでいる。

「私このお花知ってるわ、風鈴草ね」
「フウリンソウ?あ、和名か」

蜜璃ちゃんはかわいいお花よねと言って花束から三輪抜き、私ととしのぶちゃん、蜜璃ちゃん自身の髪の毛に差して、お揃いと言って笑っていた。

「このお花は、感謝している人に贈る花なんだよ」

最近、花言葉も徐々に覚えてきて、花売りの際に花言葉を使うようになってきた。
ただ単に売るより、テーマを設定した方がよく売れ……買っていかれる方達がより喜ばれるからだ。
例えば、恋人に愛を伝えたいときに「愛しています」の花
家族に感謝を伝えたい時に「ありがとう」
喧嘩した友達に謝りたい時には「ごめんなさい」
伝えたい言葉や想いを花にのせ贈る。

「良かったら、ありがとうを伝えたい人に送ってあげてね」






※大正コソコソ噂話※
しのぶは半分を岩に、蜜璃は炎にあげましたとさ。


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