13:シアワセニスル

「というか、あまり未来の証拠にはなってないですよね。でも本当に」
「最初から疑ってないですよ?」

被せ気味に言う炭治郎君は不思議そうに首を傾げている。その反応が信じられなくて、泣きそうに顔が歪んだ。

「…私、嘘ついてるかもしれないよ?」
「貴女からは嘘をついている匂いがしない。それに目を見れば本当の事を言っているのは分かります」
「なんで、そんなに優しいの?なんでそんなに信じれちゃうの?私、迷惑しかかけてないのに…」

死にかけの女を拾ってしまったばかりに、貴重なお金まで使わせた、この疫病神を。なんで、そんなに良くしてくれるの?どうして、そんなにいい人なの?

「人のためにすることは結局、巡り巡って自分のためにもなりますし、なにより俺が信じたいし優しくしたいだけです」

温かい太陽が微笑む。

「さすがにびっくりしましたが、未来から来たという貴女を信じます。もう大丈夫ですよ」

すーっと、炭治郎君の言葉が心に広がり染み渡る。

「花子も信じるよー!」
「ぼくもー!ぼくもー!」
「未来のお話きかせて!」

…花子ちゃん、六太くん、茂くん。

「兄ちゃんが信じるなら、おれも信じるよ」
「おねえさん、私も信じますよ」

…竹雄くん、禰豆子ちゃん。

さっきまで信じれなくても誠意を見せたいと思っていたのに、実際に信じられると、逆に私が信じられなかった。けど、炭治郎君と皆はこんな私を信じてくれると言った。なら私も信じたい、ううん、信じられる。炭治郎君と皆の清らかな心に触れて、また静かに涙が溢れてきた。


「未来への帰り方は分かるんですか?」

葵枝さんの気遣うような問いかけに、袖で涙を拭いながら答える。

「い、いえ…分かりません。私も気付いたらいつの間にか過去(ここ)にいて。これから探そうと…」
「なら、落ち着くまで家に居てくださいな」
「はい?」

思わぬ発言に、葵枝さんを凝視してしまう。

「いくら田舎とはいえ、何も知らない妙齢の女性が一人でいては危ないわ。家族も帰る家もないのでしょ?贅沢はさせてあげれませんが、まずはゆっくりここで療養してから色々考えましょう」
「いいんですか……」

寄りかかっても、甘えても。
してもらってばかりで、まだ何も返せてないのに。

「えぇ」

炭治郎君の優しさと暖かさはお母さん譲りなのだろう。安心させるように微笑む葵枝さんと許してくれる皆に向かって、深く頭を下げる。

「……よろしくお願いします」


ねぇ、知ってる?人に優しくするって、簡単なようで凄く難しいんだよ。それが、家族や友達でも何でもない他人なら尚更。
人は誰かに優しくするときに、ある境界線を決める。ここまでなら自分には迷惑がかからないし、自己満足や承認欲求を満たせる。人間関係を円滑にするために、我慢して優しくする。もしくは、見返りを求める(好かれたいからとか)。
けど、これ以上は頼られると自分に被害がでる。となると、関わらないようにするか攻撃的になり除外しようとする。それはまさに、私があの町に来たときに体験したことそのまま。
死にそうな命と絶望した顔。この時代の人から見た私の格好は異端そのもの。通りすぎる町人は、怪しい女に関わらないようにと無視か野次馬根性で遠くから見るだけ。女将さんは私に激怒し、女将さんの店の常連だという男性は、私の身体目的(多分)で優しく声をかけてきた。でもこれって別に異常なことじゃない。
私だって、道端のホームレスを見れば関わらないように見なかった事にするし、町でトラブルがあれば野次馬みたいに見ちゃうし、迷惑をかけられれば不快だし、見返りが欲しいから承認欲求を満たしたいから、優しくする。
それなのに、町人はなんて冷たく悪意に満ちているのだろうと、勝手に苦しんだ。家族や友達以外の赤の他人への優しさなんて《所詮そんなものなのに》。
けど、そんな考えを覆す、竈門家の他人を想える温かさ。赤の他人の私に当たり前のように優しくできてしまう。あぁ、この家族はなんて……


「ねー、ねーおねぇちゃんのおなまえは?」

私の裾を引き「おなまえいえる?ぼくはいえるよ。ろくたっていうんだよー」、と可愛らしい六太くんの言葉に、名乗っていないことに気づく。


「そうですね、これから一緒にいるのに、いつまでも貴女って呼ぶわけにもいかないわね。お名前はなんと言うのかしら?」
「桜……、私は桜といいます。100年前にあ……、今から200年後の私と同じ誕生日に、新たに発見された、前に進み続ける強さ、と言う意味を持つ、星の名前からきてます」
「素敵な名前ですねぇ!」
「桜おねぇちゃんよろしくね」
「桜さん、竈門家へようこそ」

「禰豆子ちゃん、花子ちゃん、炭治郎君…。皆ありがとう…」


最初、意味のわからない環境に、自分はなんて不幸な目に合っているのだろうと嘆いたけれど、今は、実は運が良かったんじゃないかとさえ思えてきた。こんなに素敵な家族に拾われたのだから。


「本当にありがとうございます…。私、未来に帰りたいし、必ず帰ります。でも皆さんに恩をお返しするまでは未来には帰りません。皆さんが《幸せすぎて困る、もう大丈夫》って言うまでずっとお礼をさせてください」


もらった以上の幸せをあげたい。見返りの感情もない、澄みきった心のままに思う。
竈門家の皆がずっと、ずっと、幸せでありますように、と。



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