序章:[ 輪禍 ] 第一章:[          10 11 12 13 14 15 16 ]
第二章:[   ]



 手帳終盤までページを捲っていくと、寮棟の見取図が記載されていた。中等部、高等部と、学年ごとに階が分けられており、1フロアに二十室存在するらしい。
 俺が勝手に借りている、歩の部屋が在る階は、十八室だけは全て二人分ずつ、名前が埋まっている。

「ん?」

 だが、歩と隣の部屋だけは一人分ずつ、空欄があった。つまり、歩同様、隣の奴も同室者が居ないということになる。そこは別に問題ではない。重要なのは隣部屋に記されていた名前だった。

「……これって」

 俺は二度見どころか、手帳を三度見返した。是非とも見間違えであって欲しかったのが、何しろ珍しい名字なのだ。同じ学年に、そう何人も居るとも思えない。間違いない。確実に“あいつ”だ。
 夏休み前日に、交通事故なんかに巻き込まれたんだ。ここ最近の運の悪さで考えれば、隣人がただ単に同姓で、無害な第三者とは到底思えなかった。
 角部屋である『ヒガシクゼ・アユム』の隣には、『カミコウジ・トモチカ』の名前が記されていた。

「うーわー。マジかよ、アイツの隣!」

 誰がどう見ても犬猿の仲である二人を選りに選って何故、隣同士にしてしまうのか。無理して成績順にこだわなくてもいいだろーが。この場合!

「だから上小路の奴、昨日部屋に来たんだな……」

 ドア開けて、直ぐ隣だもんな。電話するより早い。
 しっかし、会長権限や風紀委員長権限で何とかなんなかったのか。この部屋順。
 改めて、見取図を見返すと、ふいにある憶測が頭に浮かんだ。

「もしかして、元々二人とも同室だった、とか?」

 あ、あり得る。上小路の奴、プライド高そうだもんなぁ。大方、他の生徒と部屋を交換という平和的解決案を認めなかったんだろう。上小路に部屋を移動しろと言うものなら、
「どうして私だけが折れなきゃいけないんです?」
とか反発して。
 歩に移動しろと言うものなら、
「何故、東久世だけが移動なんですか。私を融通のきかない子ども扱いするおつもりで?」
とか言って反対したんだろう。それで二人共別々に離れた部屋に移動しろと言うものなら、
「部屋割りは成績順のはずでは? 私と東久世が何故、下位の生徒の部屋と交換なんですか。非常に不愉快です」
とかほざいたんだろう。んで妥協案が、この部屋割りだったりして。そもそも学生寮は留学生、他県から通学する生徒優先て書いてあんのに、二人揃って二人部屋を一人で使うとかおかしいもんな。

「んん? まてよ」

 部屋割りが、成績順だとしたら、上小路も歩も、殆どテスト順位が変わらないということなる。二人の成績が僅差、或いは同点だから、上小路自身も、歩も、部屋を移動することに納得がいかないんだろう。大幅に違いがあれば、下位の方に別の部屋に移れと堂々と命ずることが出来そうだし。それが出来ないのは、点差を大幅に広げられないからだ。昨日のやり取りから察するに、上小路は口先だけで終わる男では無い。確実に有言実行型、妥協は一切許しそうにないタイプだ。風紀委員の代表として、宿敵である生徒会長の歩に、例えテストでも負けることがないよう、努力を惜しまないだろう。何しろテスト結果は学園全体に公開されてしまうのだから。

「ちょっ、コレ。全教科満点とかだったりしたら、絶対無理なんだけど……!」

 二人が仲良くオール満点取った可能性は十分にあり得た。

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