序章:[ 輪禍 ] 第一章:[          10 11 12 13 14 15 16 ]
第二章:[   ]



 講堂に来て、改めて、俺が通っていた一般の学校とは規模が違うことを痛感した。
 普通、講堂って体育館とかと兼用なんじゃないの? でもって、椅子はパイプイスなんじゃないの? 二階席まであるなんて聞いてませんが。
 舞台に立つと、奥の席まで、ぐるりと見渡せる。そこは既に中等部と高等部の男子生徒で溢れかえっていた。
 うわぁ、どうしょう。めっちゃ、ガン見されてんすけど。
 個人単位なら平気だけど、やっぱりこれくらいの人数を一気に視界に入れると正直、キツい。絵的に。
 唯一の女性教師も年配の方々ばかりだし。兎に角、ムサイです。早く共学にするべきだと切実に思います。

「本当にお帰りになられたんだ! 良かったー、僕心配してたんだー」
「でも、なんか雰囲気違くねぇ、本物なのかぁ?」
「馬鹿だな。会長は交通事故に遭われたって話だぞ。違って当然だ」
「そーだよ! 本物じゃなかったら、目の前にいらっしゃる会長は一体何だって言うのさ。ったく、考えて物言ってよねー」

 所々の席から、生徒同士が声を潜めて囁き合う。
 いやいや、前から四列目の左端の彼が、正解ですよ。俺、偽物ですから。
 とまぁ、冗談はさておき。ぶっつけ本番だが、ここまで来たら、腹を据えるしかない。
 目を閉じて、小さく息を吐く。
 脳裏に浮かび上がるのは、机に散らばったコピー冊子の数々。記憶のページを捲り、印字された文字の連なりを読み取っていく。
 再び目を開くと、演台上にあるマイクに向けて、即興で話し始めた……──


「御清聴有難うございました」

 スピーチもとい、半月の失踪の謝罪。
 生徒の中には、畏敬の眼差しを向けてくる者もいれば、あからさまに敵意に満ちた目で睨んでいる奴がいた。
 偽物には初っ端から、ハードル高すぎだろーよ、コレ。
 ぐだぐだになりかける前に切り上げたが、こんなんで良かったんだろうか?
 でもまさかこんなところで、中学時代、映研で培った無駄な演技力が生かせるとは夢にも思わなかったけど。
 部長は元気だろうか。アンタのクソつまんねー映画の脚本が四年の時を経て役に立ちましたよ。

「会長、お疲れ様です」

 舞台裏に引っ込むと、輝一が出迎えてくれていた。

「ああ」

 そういや、ずっと引っ掛かってたんだけど。いくら副会長だからって、輝一も一々こんな付き人みたいなことしなくても良いのに。
 何か、弱みでも握られてんのか?
 チラッと横目で輝一を覗き見る。すると何故か、切羽詰まった眼差しを向けてくるではないか。やべ、何かマズった?

「えーと……輝一、どうかしたのか?」

 しかし、尋ねてみたところで、輝一は俯いたまま、何も話さない。
 嫌な予感がする。先程の心配は杞憂だったかもしれない。そもそも弱みを握られてるんなら、最初に会った時点で、俺にビンタかましてきてねぇ。
 さり気なく顔を背けつつ、輝一から離れようとしたが、後一歩のところで間に合わず、強引に腕を掴み取られた。

「痛っ、痛い、痛い、イタいっ、ちょっ、輝一っ!」
「いきなりで本当にすみません、会長」

 謝るくらいなら手を放して頂けませんか!
 目で切々と訴えるが、全く伝わらなかった。

「僕と一緒に、今すぐ非常口から外に逃げて下さいっ!」

 そして輝一は小声でそう叫ぶと、舞台裏の、更に奥へと、俺を引きずり込んでいく。
 っておーいっ、またこのパターンかよ! 逃げるって何から? 頼むから、行動に移す前に一旦きちんと理由を説明してくれ。

「だーかーらー、勝手に一人で突っ走るなっての!」

 輝一が裏口のドアノブに手を掛けようとしたところ、何とか隙をついて、拘束していた腕を振り払う。

「後は先生方の連絡事項だけとはいえ、まだ集会は終わってないだろーが!」

 いくら生徒会長だからって、スピーチして退場は流石にナイわ。ってか駄目だろ。ただでさえ信用ガタガタなのに。更に株下げてどうすんだよ。

「ですから、先生方が時間を稼いでいる間に講堂から離れないと!」
「はぁっ? 何だよそれ。さっきも言ってたけど逃げるってどういうこと」
「すみません、此処に来る前に申し上げておけば良かったんですが、実は会長が、ご不在の間に……」

 輝一がそう言い掛けた時、マイクを通して話していた教師の声が途絶え、講堂からどよめきが沸き起こった。

「な、なんなんだよ、一体?」
「しまった、遅かった……っ!」

 輝一は苦虫を噛み潰した顔をしながら、呟いた。

「失礼。牧野先生、暫しの間、マイクをお借りしますね」

 代わりに、スピーカーから聞こえてきたのは、若い男の声だった。

「皆さん、こんにちは。高等部二年A組の上小路です。全校集会の最中に突然のでしゃばりを、どうかお許し下さい。今日は皆さんにどうしても申し上げておきたいことがありましたので、この場をお借りしました」

 おいおいおいおい、ちょっと、待て。この鼻につくような物言いは……!

「ふ、風紀委員長ぉ?」
「え、えぇ。上小路先輩ですね」
「今、先生の話、途中じゃなかったか?」
「どうやら、強行手段に……出られたようですね」

 あのイヤミ委員長、あぁ、カミコウジって言ったっけ。
 委員会のお知らせにしては、喧し過ぎる。教師からマイク引っ手繰って何する気だよあの野郎。

「風紀委員支持派の生徒が集会に出るなんて滅多に無いことだから、可笑しいと思ってたんです……」
「ふ、風紀委員支持派ぁ?」

 俺がそう聞き返すと、輝一は気まずそうな面持ちで話し始めた。

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