「学園を無断で長期間空けていたことに関しては……完全に俺の否であったので、謝る。みんな、すまなかった」
本日二度目の謝罪に、シンと静まり返る会場。 上小路も、驚きのあまりか、目を見開いていたが、直ぐにまた、偉そうにふんぞり返って茶々を入れてくる。
「ふ、ふん。貴方にしては随分早い決断でしたね。わかればいいんですよ、わかれば」 「だがな、上小路。お前にだけは、兎や角言われる筋合いはない」 「どっ、どういう意味ですかっ」
意表をついた切り返しに、多少は動揺したのか、上擦った声で上小路は聞き返してきた。
「聞いたぞ、俺が居ない間、生徒同士で乱闘が起きたらしいな。怪我人も出たと。止めようとした教員まで巻き込まれた」 「それはっ、私達だけの責任じゃありません! 怪我人への配慮は最善を尽くしましたっ。そ、そちら側にも過失はあったはずだ!」 「……そうだな。だが、風紀委員会の方はリーダーのお前が居たにも関わらず、止められなかった。生徒会室を風紀委員支持派の生徒が襲撃した時から、いつかそうなってしまうことを、お前なら、想定出来たはず」
こっちのペースに持ってこれたのを幸いに、容赦なく「屁理屈」を述べる。
少し間前まで、清ましていた奴の顔も、今や冷静さを確実に失っていた。
「事が起きる前に、忠告のひとつ位は、してくれても良かったんじゃないか?」
極めつけに、先程言われた厭味をそっくりそのまま返してやれば、
「詭弁だっ!」
限界だったのか、逆上して食ってかかってきた。
「貴方はそうやって自分の過ちを棚に上げてっ! 責任逃れをしようとしているだけだ!」
そんなの、こっちだって百も承知だ。 仕方ないだろ。今現在で知りうる数少ない情報の中で、唯一風紀委員を攻められそうなのが、その「暴動騒ぎの件」位しか無かったんだからよ。 大体、この馬鹿みたいにデカい学校の内情をたった数時間と数名との対話で全部把握出来るかっつーの。 生徒会と風紀委員会で派閥争いしてんのだって、さっき輝一から聞いて初めて知ったしな。 っていうか、自らの過ちを棚に上げてって、お前もそうだろーが。 そんな声張り上げて怒ってんのも、案外図星を差されたからじゃねーの? ま、ここで言い返しても、目くそ鼻くそを笑うようなもんだから敢えて何も言わないけど。 よし、煽りはこれくらいにしとくか。そろそろお開きにしないと、外野が野次飛ばしてきて、ヤバそうだしなぁ。悪口だけならまだしも、物投げつけられちゃ敵わないし。
「そう感情的になるな。今ここで、俺と口論になっても時間の無駄になるだけだ。分かるな? 不満に思うんなら、それ相応の場で好きなだけ吐き出せばいい。その為にお前は俺をリコールしたんだろう?」 「っ、……そうですね。私としたことが、熱くなりすぎました。いいでしょう。結果は選挙で証明されるずです。今日、私が言ったことが正しかったということを」
大人しく引き下ったかと思えば、そう来るか。本当にふてぶてしい奴だ。
「それで? 選挙の日程はどうする」 「一週間後、こちらの講堂で演説を行いましょう。多少手間はかかりますが、公平に審査する為に、生徒達一人一人にその場で投票して頂く形式で。万が一、不信任案が否決になった場合は、潔く私が風紀委員会から身を引きましょう」
そりゃまた、大きく出たなぁ。絶対的に自信がある奴だけにしか言い切れない台詞だ。 だけど、俺だって負けてらんない。
「上小路、俺はもう、逃げも隠れもしない。生徒会を廃止させたいっていうなら、本気で来い。真っ向から受けて立ってやる」 「望むところです」
斯くして、二十数年前のハトコの母校にて、戦いの火蓋が切って落とされた。 ぶっちゃけると、無事に元の時代に戻れるかの方が俺は心配だったりするけど。
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